第130話 見たっ!?

「お姉ちゃん、ぎゅ~~しよっ!」


 バイトの休憩時間、突然アリスちゃんにそんなことを言われた。


 メイド服を着たアリスちゃんが、両手を広げてキラキラと期待した目で私を見ている。



 ど、どうしたんだろう……? 今度はなにを考えてるのかな?


 でも、まあ……



 アリスちゃんにハグしてもらうの好きだし。


 大人しくアリスちゃんの腕の中へ。


 ぎゅ~っと、やわらかくて甘い香りに包まれた。



「急にどうしたの? なにかあったの?」


「べつになにも無いよ。ただお姉ちゃんとぎゅ~ってしたくなっただけ」


 うりうり~と甘えてくるアリスちゃん。



「お姉ちゃん好き~」


 私の匂いをクンクン嗅いでくるアリスちゃん。


「お姉ちゃん大好き~」


 私のスカートの中に手を入れてくるアリスちゃん……っ!?



「アリスちゃん!? なにしてるのっ!?」


「お姉ちゃんのかわいいおしりを触っています」


「なんで?」


「触りたいからです……えへへ、フニフニしててかわいい」


「変なこと言わないでよぉ……」


 どうしてアリスちゃんはこう……よし、それなら私だって!



「きゃっ!?」


 アリスちゃんの短い悲鳴が。身体もビクンと跳ねた。


 でも、アリスちゃんはイヤがるどころかうれしそうに、



「えへへっ、お姉ちゃんが私のおしり触ったぁ~」


「だって、アリスちゃんが私の触るから!」


「ねぇねぇ、私のおしりどう?」


「え……? や、やわらかい、よ……?」


「ほかには?」


「うぅん……って、もうっ! 変なこと言わせないで!」


「お姉ちゃんかわいい~~」


 うりうりと頬ずりをしてくるアリスちゃん。


 そんな微妙にかみ合わない会話をしていると、



「ねぇ、みゃーの。休憩中悪いんだけど、ちょっとレジ手伝って……」


 井上が入ってきて、


「失礼しました」


 すぐに出て行った。




 べつの日の休憩時間。


「お姉ちゃん! 愛してるよ!」


 ニッコリ笑ったアリスちゃんに、いきなり告白された。



「お姉ちゃん、大好き!」


「う、うん。私も大好きだよ……?」


 今度はどうしたんだろう? いや、アリスちゃんのことだし、とくに意味はないのかな?


 考えていると、いきなり抱きしめられた。



「あのね、愛してる勝負しようよ」


「? なぁにそれ」


「えっとね、お互いに『好きだよ』ってアピールし合うの。それで照れたほうの負け」


 そうなんだ。


 ていうか、そんな感じのことは毎日のようにやっている気が……



「お姉ちゃん、愛してるよ」


 髪をそっと撫でられ、耳元で囁かれた。顔がカァっと赤くなるのが分かる。


「あ、照れた。お姉ちゃんの負け」


「ち、ちが……いや、違くはないんだけど……その、不意打ちだったから!」


「関係ありません。お姉ちゃんの負けです。ということでイタズラします」


「なんでさっ!?」


 とか言ってる間に、アリスちゃんの手が私のスカートの中に入ってきた。


 こ、こうなったら……っ!



「アリスちゃん、いつもありがとうね」


 抱きしめ返し、いつも私がされているみたいに耳元で囁いた。


「いつも私のことを考えてくれて。大切にしてくれて。そういうところ、本当に大好きだよ」


「ふぇっ!?」


 今度はアリスちゃんが顔を真っ赤にする番だった。


 くっついていた身体が離れる。顔だけじゃなくて、耳まで真っ赤だった。



「好きだよアリスちゃん。私もアリスちゃんのこと、大切にするからね。いっぱいいっぱい、大切にするね」


「え、えと……あの……はぃ……」


 珍しく動揺しているアリスちゃん。なんかかわいいな。


 なんだか私までドキドキしてきちゃった。



 よし、こうなったら、いけるところまでいかなきゃ!


 私はアリスちゃんの赤く染まった頬を撫で、背伸びをして唇を……



「はぁー疲れた。ねぇ宮野、そろそろ休憩交代して……」


 青山が入ってきて、


「ごゆっくり」


 すぐに出て行った。




「あの二人のイチャつきよう、最近ヤバない?」


 みゃーのとアリスちゃんと休憩を交代したあと、一緒に休憩に入った青山さんに言った。


「たしかに。私ついさっき二人がキスしてるところに入ってっちゃたよ」


「私のときは、なんか二人でおしり触り合ってたぜ」


「えぇ……どんな状況よ……」


 呆れた様子の青山さん。


 まあ、あの二人のイチャつきはいまに始まったわけじゃないし、いいんだけどさ……



「いやー、これじゃウカツに休憩にも入れませんな」


 私がおどけた調子で言うと、青山さんも「そうですなー」とおどけていた。


 それからまかないを食べつつ雑談をしていると、あっという間に休憩時間は終わった。



「おっと、そろそろ戻らないと」


 言って、青山さんが立ち上がる。


 私も準備をしてドアにむかう途中、



「わっ!?」


 青山さんはなにかに躓いてしまったらしく、バランスを崩してしまった。


「危ない!」


 とっさに手を伸ばしたけど間に合わず、私たちは二人して倒れこんでしまった。


 ガチャン、と持っていたお皿も割れてしまう。



「いたたたた。大丈夫? 青山さん」


「うん。井上さんこそごめんね。私の所為で」


 そのときだった。


 勢いよくドアが開かれたのは。



「どうしたの!? すごい音したけど、だいじょう……ぶ……」


 みゃーのの途切れ途切れの言葉。と同時に、赤くなっていく顔。


 そこで気づいた。いまの私たちの状況を。



 いまの私たちは、私が青山さんを押し倒した格好になっているんだ!


 気まずい沈黙が支配して……



「ご、ごめん! 見てない! 私なにも見てないから!」


 慌ててドアを閉めるみゃーの。と同時に、正気に戻る私たち。



「ち、違う! これはそういうんじゃないから!」


 必死に否定する青山さん。私は、


「ていうか、私たちはいつもこんな気まずい気持ちでいるんだぞ! ちょっとは私たちの気持ちが分かったか!」



 混乱のあまり、逆ギレしてしまったのだった――

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