第129話 ぼーーーーーーーーっとしてると●●するよ?

 最近、お姉ちゃんの様子がおかしい。


 なんだかいつもボーッとしてベッドに寝ていることが多いし、話しかけてみても、



「え? ごめん、なに?」


 ていうふうに、聞いてくれていないことが多い。


「どうしたの? なにかあったの?」


 と訊いても、


「うぅん、どうもしないよ。ただ……なんとなく、気力が出なくて……」


 とのことだった。



 心配じゃ!


 わたしゃお姉ちゃんが心配ぢゃ!


 ホント、どうしたんだろう……



「お姉ちゃんっ!」


 ノックをして「はーい……」というちいさな返事を聞いた私は、元気よく部屋に飛び込んだ。


 お姉ちゃんはいつものとおり、ベッドで横になってボーッとしていた。



「見て見て! 雪が降ったみたい!」


 カーテンを開けて、ついでに窓も開ける。


 すると、お姉ちゃんは身を震わせて布団を頭まで被った。


「窓、閉めて……寒いぃ……」



「お姉ちゃん! 外に遊びに行こうよ!」


「えぇ~……私はいいよ。アリスちゃんだけで行っておいで」


「それじゃ意味ないの! お姉ちゃんと行きたいんだってば!」


 布団の中のお姉ちゃんの体をグラグラ揺すると、「うぅ、分かったよぉ……」という弱弱しい答えが返ってきた。


 でも大丈夫! 私がお姉ちゃんを元気にして見せるっ!




 ぎゅっ、ぎゅっ、と音を立てながら、私たちは雪の積もった道を進む。


「なんかここ、まだ除雪されてないっぽいね」


「ホントだね。ちょっと歩きにくい。アリスちゃん、転ばないように気をつけ……」


「きゃっ!?」


 雪に足をとられてバランスを崩してしまう。


 そう気づいたときにはもう遅く、私は雪の上に倒れこんでしまった。



「あ、アリスちゃん! 大丈夫っ!?」


 すぐにお姉ちゃんが手を貸してくれる。でも……



「えいっ」


「きゃっ!?」


 お姉ちゃんの手を引っ張る。すると、私とおなじようにお姉ちゃんも雪の上に倒れこんだ。



「も、もうっ! アリスちゃん! なにするの!」


「だって、さっきのお姉ちゃんの声、ちょっと笑ってたんだもん」


 私はムスッと口を膨らませる。



「ひどいよ! 私が転んだの見て笑うなんて!」


「ごめんごめん。言ってる傍からだったから、つい……」


 ていうか、とお姉ちゃんは言う。



「お互い様だよ。アリスちゃんだって、昔私が田んぼに落ちたの見て笑ってたじゃん」


「記憶にございません」


「なにそれズルい」


 そう言うと、お姉ちゃんはちょっとだけ笑ってくれた。



「元気出た?」


「え? うーん、どうだろ……」


 今度は首を捻っている。よし、それなら……



 ちゅ



 お姉ちゃんのかわいい唇にキスをした。



「アリスちゃんっ!? 急になにを……んっ」


「っ……キスしたら、元気になってくれるかなって思って……どう?」


「どうって訊かれても、そんないきなり……んっ、ちゅっ……ぁっ……」


「元気になった?」


 お姉ちゃんは答えてくれなかった。


 顔を真っ赤にして、荒い息を吐いている。よし、それならもっと!



「……ま、待って待って! 元気っ、元気になったから! だからちょっと待ってぇ~~っ!」




「よかったぁ、お姉ちゃんが元気になってくれて」


「う、うん……」


 あれ? 気のせいかな? お姉ちゃん、また元気がなくなってるような……



「大丈夫? もう一回キスする?」


「う、うぅん、大丈夫大丈夫! 平気平気!」


 なぜか慌てた様子で手を振るお姉ちゃん。



「それよりもさ、ちょっと冷えちゃったし、肉まんでも買おうよ!」


 そんなわけで、コンビニで肉まんを一つ買って、それを二人で半分こにして食べることにした。


 ふと隣を見ると、お姉ちゃんが肉まんを覚ましながら食べていた。


 よかった、食欲はあるみたい。



「ありがとね、アリスちゃん。いろいろ心配してくれて」


「当然じゃん! 大好きな人にはいつも笑っててほしいもん! お姉ちゃんのバカ!」


「うぇえっ!? ご、ごめん……」


「でもどうしたの? 最近元気なくて……私、ホントに心配したんだから」


「しつはね……」


 お姉ちゃんは言いにくそうに言う。


 いったい、どんな理由なんだろうと思ったけど、



「えっ!? お姉ちゃん就職決まったの!?」


 予想外の答えが返ってきた。


「よかったね! おめでとう!」


「ありがとう」



「でも、それならどうして元気なかったの?」


「うーん、いままで就職を目標にがんばってきたから、それが叶ったんだと思うと、なんだかボーッとしちゃって」


 なるほど。燃え尽き症候群ってことか。


「よかった。病気とかじゃなくて」


 するとお姉ちゃんは、もう一度「ごめんね」と謝った。



 ちゅ



 シュンとしているお姉ちゃんの唇を塞ぐ。よっぽどビックリしたみたいで、ちょっと飛び上がっていた。


「あ、アリスちゃん!? 今度はなにっ!?」


「だってお姉ちゃん、また元気なくなったみたいだったから」


「いや、いまのはその……」


「大丈夫だよ」


 お姉ちゃんの言葉を遮るようにして、私は言う。



「いつでも、どんなときでも、私がお姉ちゃんを元気にしてあげるから、ね?」


 しばらく私を見つめていたお姉ちゃんは、やがて顔を真っ赤にしてコクリと頷いた。



「……私、ちょっと元気ないかも」


「じゃ、目つむって?」


 そうして私たちは、


 また唇を重ねたのだった――

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