第126話 寝てる? 起きてる?

 ベッドの中で、私はあくびをした。


 うーん、眠いはずなんだけどなあ。なぜかなかなか眠れない。


 でもずっと起きてるわけにはいかないし。とりあえず目を瞑って、眠る努力を……



 とんっ



 そのとき、私の肩になにかがぶつかってきた。


 なにかっていうか……一つしかない。隣を見ると、アリスちゃんがちいさく寝息を立てている。


 どうやら、アリスちゃんが寝返りを打ったらしい。でもよかった、アリスちゃんは眠れて……



「っ!?」


 そう思ったのもつかの間、アリスちゃんの手が私の寝間着の中に滑り込んできた。


「ちょ、ちょっとアリスちゃん……!」


「お姉ちゃぁん……好きぃ……」


「ま、待って……んっ……はっ……そ、そこ、触っちゃダメ……っ」



 ほ、ホントに寝てるのかな? じつは起きてるんじゃ……?


 私の疑問をよそに、アリスちゃんの手は動いて……ピタッと止まる。私の寝間着の下で。


「あ、アリスちゃん……?」


「すー……すー……」


 寝てる……よね?


 も、もう! あれだけ触っておいてここで止めるなんて!


 私、あともうちょっとで……



 ムッとしてアリスちゃんを見ると……うん、やっぱり寝てる。


 最近テスト勉強がんばってるみたいだし、疲れてるのかも。


 机にむかうアリスちゃんの姿を思い浮かべると、妙に愛おしくてふふっと頬が緩んだ。私は大好きな恋人をぎゅっと抱きしめる。



「お姉ちゃん」


「え?」


 やっぱり起きて……


「ダメだよ。こんな街中で、ソーラン節踊ったら」


「えぇ……」


 なにやってるの私。ていうかどんな夢見てるのアリスちゃん。



 本当に起きてるんじゃないの?


 試してみようかな。寝たふりしてみよう……


 そうすれば……分かるかも…………




「ん……っ」


 目が覚めると、すぐ目のまえにお姉ちゃんがいた。ちいさく寝息を立てている。


 えへへっ、かわいいなあ。どうしてこんなにかわいいんだろう……っ!?



 私の手が……私の手がお姉ちゃんの服の下にある!!


 お姉ちゃんてば私が寝てる間になんてことしてるの!! お姉ちゃんのエッチ!!


 でもお姉ちゃん、私を抱きしめてくれてる! 抱きしめながら眠るなんて、どれだけ私のこと好きなの私も大好きだよお姉ちゃん!!


 起きて早々感情が忙しい……でも大好きっ!



 ハッ!?


 そ、そうか。そうだったんだ……! 私、気づいちゃった!!


 お姉ちゃん、寝たふりをしてるんだ! それで私にいたずらをしてるんだ!!



 そういうことなら、私もお礼にいたずらしなきゃ!


「失礼しま~~す……」


 なぜか一言断ってから、私はそっとお姉ちゃんに近付いていく。


 そして……ぺろっ。


 お姉ちゃんの首筋を舐めてみた。



「ん……っ」


 ビクン、とお姉ちゃんの体が震えた。でも、お姉ちゃんはまだ目を瞑ったまま。


 このくらいじゃやっぱりダメか。よし、それなら……



 お姉ちゃんの寝間着の中に入ったままになっている手を動かしてみる。


「ぁっ……はっ……」


 私の耳を刺激するのは、吐息のように甘い声。


 それを聞いていると、なんだか私までドキドキしてきた。


 でも、お姉ちゃんはまだ目を開けない。つまり……



 もっと私に触ってほしいってことだね! もうもうっ、お姉ちゃんてばエッチなんだから!


 私は寝間着の下の手でふくらみに触れながら、もう片方の手で、お姉ちゃんのおしりに触る。


「……っ」


 ふふっ、お姉ちゃんビクッてなった。かわいいっ。



 でも、まだお姉ちゃんは目を開けてくれない。


 …………


 もうっ! お姉ちゃんてばいつまで寝たふりしてるのさ! せっかく私がいたずらしてるのにっ!!


 そっちがその気なら、私だってもっといろいろしちゃうんだから!



 お姉ちゃんの寝間着の中から手を出して、私はそれを下へ。お姉ちゃんが穿いているショートパンツを脱がした。


 ……くんくん。えへっ、お姉ちゃんの匂いがする。それにちょっと温かくて……えへへっ。


 おっといけない、こんなことよりイタズラしなきゃっ!



「は~い、お姉ちゃんいい子でちゅね~。脱ぎ脱ぎしましょうね~」


 言いながら、寝間着のボタンを外して脱がしていく。我ながら手慣れていて、じつにスムーズにできた。


 下着姿になったお姉ちゃんを見て、私の頬は緩んでしまう。……キレイだなあ。それにかわいい。


 もう、私の恋人完璧すぎだよ!



 ていうか……


 ここまでやっても、まだ目を開けてくれない!


 ま、まさかお姉ちゃん、本当に寝てるの? そんな! 私にここまでさせておいて寝てるなんて! 期待させておいて本当に寝てるなんて! ひどい!!


 こうなったら……



 寝たふりをしてみよう。そうしたら、お姉ちゃんもなにかしてくれるかも!


 よし、そうと決まれば目を瞑って、寝たふり、寝たふり……




「……んっ……?」


 なんとなく違和感を覚えて目を覚ます。


 自分の身体に目をやって、


「……っ!?」


 慌てて抑える。



 な、なんで私、寝間着脱いでるのっ!?


 寝てる間に無意識に!? いやいや、そんなはずは。じゃあ……


 私の視線は、目のまえで目を瞑っている子へ。



 そうだよね、多分。それしか考えられないし。


 スースーと、ちいさく寝息を立てている……ように見えるアリスちゃん。でも……


 よし、確かめなきゃっ!



「し、失礼しまーす……」


 なぜが一言断って、私はアリスちゃんの寝間着に手をかける。


 私だって脱がされたんだし、それなら私だって!



 恐る恐る、アリスちゃんの寝間着を脱がしていく。ゆっくり……ゆっくり……


 アリスちゃん、やっぱりキレイだな。


 雪みたいに白い肌は、一点の汚れもない。きめ細やかで、繊細で……


 思わず見入っていると、



「お姉ちゃん、なにしてるの?」


 驚きすぎて、ビクンと体が震えた。ベッドから飛び上がりそうになった。


 気づけば、アリスちゃんは大きなサファイアの瞳を開いて、ジッと私を見つめていた。



「もう、私が寝てる間に服を脱がせるなんて、いったいなにしようとしてたの? お姉ちゃんのエッチ~」


「ち、ちがっ……アリスちゃんだって私の服脱がせたくせに!」


「え~? 私そんなことしてないよ? お姉ちゃん、自分で脱いでたもん」


「ウソ! それは絶対ウソだよ! 私そんなことしないし!」


「してたよ~。お姉ちゃんのエッチ~」


「~~~~~~~~っ! もう、もうっ!!」


 恥ずかしさからアリスちゃんを叩く。でも全然力が入らなかった。


 ペチペチと、力の抜けた音が夜の部屋に響いた。



 パシッと手を掴まれる。キレイなサファイアの瞳が、私を捉えて離さない。


 ……ちゅっ。


 唇に、やわらかくて、甘い温もりが。



「こういうこと、したかったの?」


 言われて、カァっと、顔どころか体まで熱くなるのを感じた。


 さっき、アリスちゃんに体を触られたときの感覚がよみがえって、ドキドキして、いつもより敏感になっていくみたい。



「……もっと、したい」


 気づいたときにはそう言っていて、


「いいよ。いっぱいしよ」


 アリスちゃんは、私をぎゅっと抱きしめてくれた……




 そして、甘い香りと温もりに包まれながら、


 私は微睡に落ちていくのだった――

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