第124話 アリスちゃんとデート(●●編)

「んん~~~~っ」


 私のベッドの上で、アリスちゃんが大きく伸びをした。


「なんだか疲れちゃった」


「あはは。今日はいろいろなとこ行ったもんねー」


 アリスちゃんは、うーと唸り声をあげた。



 日曜日の夜。私たちはいつものように部屋でダラダラしていた。


 ベッドを背もたれにして寄りかかっていた私に、アリスちゃんは後ろから抱き着いてくる。


「なあに? どうしたの?」


「疲れちゃったの。元気づけて」


 いきなりそんなこと言われてもなあ。どうしたらいいんだろ? 頭とか撫でればいいのかな? なんて考えていると、



「ひゃんっ!?」


 ビックリして変な声を上げてしまった。


 アリスちゃんが私の服を口で銜えて、下に引っ張ってきたから。



「ちょ、ちょっと、待って待ってぇ!」


 慌てる私とは裏腹に、アリスちゃんは、


「元気づけてよ~~。お姉ちゃ~~~~~~んっ!」


「待って、ふ、服っ、服脱げちゃうからぁ! 待って待ってぇ~~~~っ!」


 もう十分元気じゃん、と言うこともできなかった。




「元気になった!」


 両手を上げてアリスちゃんが言った。


「よ、よかったね……」


「? お姉ちゃんは元気ないね」


「ちょ、ちょっとね……」


 さっきの今だからね。でもアリスちゃんが元気になったならよかったよ。



「お姉ちゃん、さっきはなにしてたの?」


「えっとね、今日撮ったプリクラ見てたの」


 私の手元を覗きこんでくるアリスちゃん。その顔が、パァっと笑顔になった。


「見てくれてるんだ。撮ったときはすっごく恥ずかしそうだったのに」


「だ、だって、アリスちゃんが変な衣装ばっかり選ぶから!」


「そんなことないよ! お姉ちゃんとってもかわいいもんっ!」


「そういうことではなくてね!?」



 そんな会話をしながら、アリスちゃんと一緒にプリクラを見る。


 メイド服とか制服とか、警官とかナースとか。結構撮ったな~。


「あ、見て見て。これもかわいいよっ!」


 アリスちゃんが言ったのは、フリフリの衣装を着た私だった。


 日曜日の朝にやっているアニメの衣装を着た私だ。



「や、やめてよ……ホントに恥ずかしかったんだからねっ?」


「え~? ポーズも取ってくれたのに?」


「だってアリスちゃんがポーズ取ってって言うから!」


 ついつい反射的に。来年から社会人なのにこんなカッコしちゃうなんて。


 井上あたりに見られたら絶対からかわれるだろうな。


 でも、これはまだいい方だ。一番マズいのは……



「でも一番はこれかな~」


 私の心の声に重なるようなアリスちゃんの言葉。


 アリスちゃんの白くて細い指が差したプリクラを見て、私は反射的に目を逸らす。



「かわいいな~。バニーお姉ちゃん」


「う”っ」


 目を逸らしていたのに、視線が戻ってしまった。


 見たくもないのに見てしまった。バニーを着た私を。


 うぅ、私、どうしてこんな大胆なの着ちゃったんだろ……



「どこに貼ろうかな~……そうだ、スマホケースに……」


「それは本当にダメぇ~~~~っ!」


 慌ててアリスちゃんを止めようとして、


「わっ!?」


 勢いそのままに、押し倒してしまった。



「ご、ごめん、アリスちゃん! だいじょう……」


「や~ん、お姉ちゃんてばだいた~んっ」


 ……大丈夫そうだった。



「貼っちゃダメ?」


 眉をハの字にして訊いてくるアリスちゃん。私はうっと言葉に詰まってしまう。


「だ、ダメっ!」


「え~? せっかく着てくれたのに。ほかにもいろいろさ」


「だ、だって……アリスちゃんがかわいいって言ってくれるから。乗せられて、つい……」


 アリスちゃんは、ジッと私を見つめていた。うぅっ、うぅううううううう!!



「……め、目立たないところに貼って。ホントだよ? 約束だからね?」


「はぁい」


 アリスちゃんはうれしそうに笑った。ならよかったけど。


 ……ホントに大丈夫だよね?



「ねえ、お姉ちゃん。今度のお休み、このお店行かない? 星野さんが教えてくれたんだけど、スイーツがおいしいんだって」


「あ、ごめん。私来週はちょっと……」


「そっか……」


 シュンとなってしまうアリスちゃんに、私の胸はチクッと痛くなる。


 今日のデートも、結構久しぶりだったもんね。私は就活、アリスちゃんはテストで、なかなか時間をとれなかったから……



「アリスちゃんっ」


 考えるよりも、体がさきに動いていた。


 唇に、温かくてやわらかな感触が。甘い香りが私の全身を包んでくれる。


「大丈夫だよ。また予定あわせて行こうよ。いろいろなところに。だって私たち、ずっとこれから一緒にいるんだし。だから、その……」



 あ、あれ、ちょっと待って。


 私、今すっごく恥ずかしいこと言ってないっ!?


 なんだか、顔が熱く……



「お姉ちゃ~~~~~~~~んっ!!」


「ぅわぷっ!?」


 今度は私が押し倒された。そのまま抱きしめられる。


「お姉ちゃん。お姉ちゃんて、どうしてそんなにかわいいの?」


「えっ? わ、分かんないです……」



「お姉ちゃん、ぎゅ~ってして?」


「うん」


「ぎゅじゃなくて、ぎゅ~だよ?」


「はいはい」


 言われたとおりに抱きしめる。……こんな感じかな?


 するとアリスちゃんは、私の上での中でくすぐったそうに体をよじらせた。



「大好きだよ、お姉ちゃん」


「うん。私も」


 これからも、たくさんデートしようね……




「今度行くときは体操服着てね。ブルマとか」


「か、考えておきます……」


 そういうのはやっぱり困るけど! ホントに!

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