第99話 にらめっこしましょ
「おねーえちゃんっ」
バイトでの休憩中、アリスちゃんに話しかけられた。
「? どうしたの?」
自分から話しかけたくせに、アリスちゃんはなにも言わなかった。
ただ、
「じーーーーーーーーーーっ」
と私を見つめている。見つめている。見つめて……見つめ……
「あの、アリスちゃん?」
「なあに?」
「どうして、ずっと見てくるの?」
アリスちゃんはちょっと考える顔をして、そして、
「えへへっ」
「いや、えへへじゃなくて」
どうも今はそういう気分らしい。そういうことなら仕方ないかな。
でも……
「じーーーーーーーーーーっ」
……は、恥ずかしい。
ずっと見つめられてるのって、すっごく恥ずかしい! 超照れる!
どうしようかな、やめてって言うのもイヤだし、言いたくないし……うーん、そうだ。
「アリスちゃん」
「? なあに?」
小首を傾げるアリスちゃん。
私は、なにも答えずにアリスちゃんを見つめる。見つめる……見つめる……見つめ……っ!?
あんまり突然だったからビックリした。
アリスちゃんを見つめ返していたら、アリスちゃんにキスされた。
「ど、どうしたのアリスちゃん?」
「だって見つめ返してきたから、キスしてほしいのかなーって」
「そういうわけじゃないけど……」
「じゃあ、私にキスされたくないの?」
「そういうわけでもないけど!」
極端すぎるよ!
……うぅ、仕方ないなあ。
えいっと身を乗り出して、アリスちゃんにキスをする。
一瞬ビックリしたらしいアリスちゃんは、でもすぐに笑顔になった。
「えへへ、お姉ちゃんにキスされちゃった~」
「だ、だって……」
自分からしてきたくせに。と言おうとして、止める。代わりに、
「アリスちゃん、私にキスされたくないの?」
アリスちゃんは、また驚いた顔になった。でも、やっぱりすぐに笑顔になる。
「うぅん、そんなことないよ。お姉ちゃん、キスして?」
「うん……」
私から……うぅん、お互いにキスをする。
キスしたいし、されたい……
なんだか不思議な気持ちだ。恥ずかしいのに、もっともとって思ってしまう。
「お姉ちゃん大好き~~っ」
今度は、アリスちゃんは私の胸に顔を埋めてきた。
「うんうん。私も大好きだよ」
「やったぁ! えへへ~~っ」
「二人共ー。そろそろ休憩代わってもらっていい?」
ドアの外から、オーナーの声が聞こえてきた。
すぐに行きますと私は答えて、
「行こっか、アリスちゃん」
「うんっ」
アリスちゃんは私の右手に抱き着いてくる。
私たちはそのまま休憩室を出て行った――
その後のこと、
「あの二人さ、私らのこともう見えてないよね。視野狭すぎだよね」
「いやマジで、透明人間になった気分だよ」
井上と青山がそんな会話をしていたことなど知る由もない。
おなじ日の夜。アリスちゃんと一緒にお風呂に入っているときのこと。
「お姉ちゃん~~~~っ」
アリスちゃんの体を洗っていると、体をぴったりとつけて頬ずりをしてきた。
「おー、よしよし。いい子だね~」
私はちいさな子供をあやすようにしてアリスちゃんの頭を撫でる。
アリスちゃんがこんなふうに甘えてくる理由は、一つ、心当たりがある。
今日のバイトで、アリスちゃんはちょっとした失敗をした。なんてことないオーダーミスだったけれど、本人はすごく気にしているみたい。
アリスちゃんはなにか失敗があったりすると、私に甘えてくるみたいだ。まえにもこんなことはあったし。
だから、私はさっきからアリスちゃんにされるがままにしている。
「お姉ちゃん、ぎゅ~~ってして」
「はいはい。ぎゅ~~っ」
両手をまえに回して、アリスちゃんを抱きしめる。
くすぐったそうに体を動かして、うれしそうに笑う。どうやら満足してくれたらしい。
なんか、こういうときのアリスちゃんは幼児退行するよなあ、と思っていると、
「お姉ちゃん」
「? なあに?」
「もっと甘えてもいい?」
もっとって……今より? 今でも結構な気がするけれど、本人的にはまだまだなのかな。
「うん。いいよ」
今日はアリスちゃんの好きにさせてあげよう。
そう思っての発言だったんだけど……
「やったぁ!」
言うや否や、アリスちゃんはクルリと体ごとこっちを向いて、私を抱きしめてきた。
「え……きゃっ!?」
思わずしりもちをついてしまう。それでも、アリスちゃんは私に抱き着いたままだった。
「今からお姉ちゃんにいっぱい甘えます」
と、謎の宣言。
あれ、ひょっとして……私、早まった……っ!?
「はむっ」
「ふぁん……っ!?」
強い刺激に体が震える。
アリスちゃんに体を舐められた。私の胸の、敏感なところを。
「だ、だめ……っ」
私は反射的にアリスちゃんを引き離そうとして……やめる。
今日はアリスちゃんの好きにさせてあげなきゃ。我慢我慢……
私はアリスちゃんから手を離す。それを感じ取ったらしいアリスちゃんが、ニコリと笑った気がした。
「んっ……ぁ、やっ……はぅ……んん……っ」
舐められて、吸われて、舌先で突かれて……刺激を与えられるたびに、私の体は静電気を流されたみたいにビクビク震える。
口からは、とても自分のものとは思えないくらいに、甘くて艶っぽい、吐息のような声が漏れている……
とてもいやらしいものに感じて、私はさらに顔が赤くなるのを感じた。
私が無抵抗なのをいいことに、アリスちゃんは好き勝手にしている。
胸だけじゃない。他のところも、好き勝手に触って、舐めて、私を弄んでいる……
「お姉ちゃん、今度は私が体洗うねっ」
ぴとっと、体がくっつけられた。
大きく震えた体の震えを止めるように、アリスちゃんに抱きしめられる。そして……
「んっ……はぁ、ん……っ……うぅ……っ」
そのまま、体を前後に揺するアリスちゃん。
さっきまで、アリスちゃんの体は私が洗っていた。だから、まだアリスちゃんの体にはボディーソープが残ったまま。それを使って、私の体を洗おうとしてるんだ。
ただでさえ敏感になっているところにそんなことをされて、私の頭は真っ白になった。
気づいたときにはアリスちゃんを抱きしめて、私もアリスちゃんとおなじように、自分の体を揺すっていた。
もっと……もっとアリスちゃんを感じられるように……
こ、これ、すごく恥ずかしい……
恥ずかしいのに、やめられない。すごい……っ
私、恥ずかしいのが好きなのかな……?
そんな感情も、全部真っ白に上書きされて行って……
気づけば、私とアリスちゃんはお互いに荒い息を吐いて、すっかり脱力していたのだった――
「落ち着いた? アリスちゃん」
「うん。お姉ちゃんも、落ち着いた?」
「う、うん……」
お互いに抱きしめ合って、どもりながら答える。
反射的に、さっきまでのことを思い出したから。
サッと顔に散らばる朱を抑えるようにして、私は顔をうつむける。
「ありがとう、お姉ちゃん。もう大丈夫だから」
頭に浮かんだ光景を振り払いながらアリスちゃんの頭を撫でる。
すると、お姉ちゃんは「あのね」と言った。
「私、お姉ちゃんのまえでは、いつでもかっこいい私でいたいの」
「大丈夫だよ。アリスちゃんかっこいいし……す、素敵だから」
こういうのって、改めて言うと結構照れるなあ。アリスちゃんは喜んでくれたみたいだからよかったけど。
「ねえ、お姉ちゃん」
呼ばれて、アリスちゃんを見る。
じーっと私を見ていた。大きなサファイアの瞳が、私のことを見つめている……
きれい。本物の宝石みたいに。こうしていると吸い込まれそうな気分になる。
「っ」
不意に恥ずかしくなって、目を逸らす。
「えへへっ、お姉ちゃんの負け~~」
楽しそうに言って、私を抱きしめて、
「おしおきだよっ」
耳元でそっと囁いたかと思うと、首筋を舐めてきた。
「ひゃぁんっ!?」
さっきまでのことで、まだ体が敏感になっているみたい。
強い電流みたいな刺激が体を走る。
「あ、アリスちゃん!」
「だってにらめっこに負けたんだもん。おしおきがないと面白くないでしょ?」
そ、そういうことなら……
アリスちゃんの名前を呼ぶ。
そうしたら、私たちは見つめ合って、見つめ合って、見つめ……みつ……
「うぅ……っ」
「やっぱりお姉ちゃんの負け~~っ」
また私の体に静電気みたいな刺激が走る。
さっきみたいに一瞬じゃなくて、もっと、もっと長くて強い刺激……
「お姉ちゃん」
アリスちゃんがじっと私を見つめていた。
私もアリスちゃんを見つめる。
私たちは、じっと見つめ合って……
そうして唇を重ねる。
甘さと刺激の中に、私はそっと身を委ねたのだった――
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