第96話 要介護お姉ちゃん、アリスちゃん

「だ、ダメっ、お姉ちゃん……イヤだよ……っ」


「どうして? いつもやっていることじゃない」


 私が耳元でささやくと、アリスちゃんは体をビクンと震わせる。


 その顔は真っ赤に染まっていた。白い肌をしているせいか、余計にそれが目立つ……



「大丈夫。あなたはなにも心配しなくていいの。全部私に任せてね」


「は、はぃ……」


 吐息のような声で短い返事をしたアリスちゃんは、さらに顔を真っ赤にしたみたいだった。


 そんなアリスちゃんを後ろから抱きしめながら……今の私は、多分アリスちゃんよりも顔を赤くしているに違いない。


 うぅ、私、なにしてるんだろ……



 そう自問しながら、一体どうしてこんなことになったのか、私は思い出すのだった――




 事の起こりは、昨日のこと。私は一冊の本を買った。


 それはまえから気になっていた本だ。気になってはいたけれど、なかなか買う勇気が出なかった本。


 昨日本屋に寄ったついでに、勢いに任せて買ったんだけど……



 バレないように、とくにアリスちゃんには見つからないように、こっそりと読んで……


 その後が失敗だった。


 私は、うっかりしてその本を机の上に置いたままにしてしまったのだ。


 そしてタイミングの悪いことに、洗濯物を取り込んで私の部屋まで持って来てくれたアリスちゃんに、見られてしまったのだ。


 その本を……




 最初はちょっとした違和感だった。


 本を出しっぱなしにしていることに気づき、慌てて部屋に戻った。


 なんだか本が動かされているような気がして、あれ、と首を傾げていたら、



「おねーえちゃんっ」


「きゃっ!?」


 突然後ろから抱き着かれる。最初は結構ビックリしていたけれど、最近はあんまりだ。


 とはいえ、どうしても反射的に声を上げてしまう。結構恥ずかしいんだよね……



「アリスちゃん……どうしたの?」


「んーん、なんでもない。ただぎゅーってしたいだけだよ」


「そ、そうなんだ……?」


 アリスちゃんが急に甘えてくるのはいつものことだ。


 だから私も、アリスちゃんを甘え返して……


 と思っていると、私を抱きしめていたアリスちゃんの手が離れて、机へと伸びていく。


 そのさきにあるのは……



「ねえ、お姉ちゃん。この本、なぁに?」


 ブックカバーをつけていた本の表面を、アリスちゃんの細くキレイな指がそっと撫でた。


「えっ!? べつになんでもないよ!?」


 思わず、そんな答えを返してしまった。


 し、しまった。これじゃ、なにかあるって言ってるようなもんじゃん……



 案の定、アリスちゃんはそれに気づいたらしい。クスリと笑った……気がする。


「どんな本買ったの? 私も読みたいな」


「だ、ダメっ!」


 反射的に本を抑える。これで大丈夫……


「ふぅっ」


「ふぁんっ!?」


 耳に息を吹きかけられて、変な声が出てしまった。ついでに体もビクンと震えて、手が本から離れてしまう。


 その隙をついて、アリスちゃんの手に本が渡ってしまった。


 私が声を上げる暇もなく、アリスちゃんは私のまえに両手を回したまま本を開く。


 つまり、私もアリスちゃんと一緒に、本の内容を確認している形だった。



「……ぁ」


 アリスちゃんが、ちいさく声を上げた。私はといえば、顔がどんどん真っ赤になっていくのが分かる。



 だって、私が買ったのは、姉妹百合をテーマにした本だから――。



 義理の姉妹になった女の子同士が、キスをしたり……いろいろする。


 結構キワドイ描写もあったから十八禁かと思ったんだけれど、そういうわけじゃないみたい。でも……


 読んでいるときは結構……うぅん、かなりドキドキした。アリスちゃんと自分に置き換えたり、アリスちゃんにされたことを思い出したりしたから。



 どうしよう? アリスちゃん、引いちゃったかな。


 それとも怒るかな? アリスちゃん、嫉妬深いから、私がいるのにこんな本買うなんてって、怒られるかも。


 それで、オシオキだよとか言われて、また変なことを……



「お姉ちゃん」


「うぇっ!? な、なぁびっ!?」


 慌てて言う。慌てすぎて噛んでしまった。


 こんなんじゃからかわれちゃうかも、と思ったけれど、


「お姉ちゃんて、いつもこんなご本読んでるの?」


 予想外のことを言われた。でも……



 考えてみたら、当たり前のことだよね。


 噛んだことよりそっちの方が気になるよね。同じ立場なら私もそうだし。



「読んでなにしてるの? 自分に置き換えたり、エッチな想像してるの? それとも……エッチなこと、してるの? それなら……」


 アリスちゃんの手が、私の下腹部に伸びてきた。


「やっ、ま、待って……!」


 だ、だって、さっきいろいろ想像しちゃったから、私、今……



「私たちで、これとおんなじことやってみようよっ!」


 本を手に取って高く掲げると、そんなことをいうのだった――




「だ、ダメっ、お姉ちゃん……イヤだよ……っ」


「どうして? いつもやっていることじゃない」


 私が耳元でささやくと、アリスちゃんは体をビクンと震わせる。


 その顔は真っ赤に染まっていた。白い肌をしているせいか、余計にそれが目立つ……



「大丈夫。あなたはなにも心配しなくていいの。全部私に任せてね」


「は、はぃ……」


 吐息のような声で短い返事をしたアリスちゃんは、さらに顔を真っ赤にしたみたいだった。


 そんなアリスちゃんを後ろから抱きしめながら……今の私は、多分アリスちゃんよりも顔を赤くしているに違いない。



 や、ヤバい。これ超恥ずかしい。


 アリスちゃんは、いつも私に変なことをしてくるけれど……よくできるなあ。なんかまえにもこんなこと思った気がするけれど。


 私は恥ずかしくて死にそうなんだけど、アリスちゃんはどうなんだろう?


 満足してくれてるかな……と思っていると、



「う~~ん……」


 悩ましげな声が聞こえてきた。


「なんか違う」


 今度は不満げな声が聞こえてきた。


「お姉ちゃん照れてるでしょ。ダメだよ、それじゃ!」


 ダメ出しまでされてしまった。



「そんなこと言われても……恥ずかしいし……」


「しょうがないなあ」


 ため息交じりに言うアリスちゃん。やめてくれるのかなと思ったけれど、


「じゃあ……」


 アリスちゃんは、不意に私の後ろに回り込んできた。そして――


「私がお手本みせてあげるね」


 耳元で、そっと囁かれる。



 まるで電気が流れたみたいに、私の体はビクッと震えた。


 アリスちゃんと体が擦れて、またべつの刺激が私の体に走る。それがなんだか恥ずかしくて、声を上げそうになってしまった。


 白くて、キレイで長いアリスちゃんの指。それが、ゆっくりと私の下腹部に伸びてくる。


 スカートの中に入ってきて、つぎの瞬間には敏感な部分に触れられた。



「……ぁ、んっ」


「ふふっ。お姉ちゃん、すっごく切なそうな顔してる。かわいいっ」


「あ、ぁりす、ちゃん……っ」


「もっとよく見せて。ね?」


 言われるまま、アリスちゃんと視線を合わせる。私たちの顔は、どんどん近づいて行って……



「こんなふうにやってね?」


「……は、はいぃ……っ」


 ニッコリ笑って言われる。


 私はといえば、なんだか体から力が抜けてしまった……




「もう、ダメだよお姉ちゃん。恥ずかしがってばっかりじゃん」


 アリスちゃんは、わざとらしくプンプン起こった様子で言った。


「ご、ごめんね……?」


 あれ、私が悪いのこれ?



 結局、私は何度アリスちゃんの演技指導を受けても、アリスちゃんを満足させることができなかった。


 だって、ホントに恥ずかしいのだ。自分のしていることを意識すると、叫びたくなるくらいに。


 以前、一緒にお風呂に入ったとき、アリスちゃんの体を洗いながら、ちょっと……ちょっとだけ大胆なことをしちゃったけれど……


 うぅっ、ダメだ、思い出したらまた恥ずかしくなってきた。


 でも、そういうことだ。今回も前回とおなじ。ほんっとに恥ずかしい!



「でも、そうだね……」


 不意に、アリスちゃんが私の心の中の言葉をなぞるように言った。


「やっぱり、お姉ちゃんは今のままでもいいよ!」


 笑顔で言って、私の手をぎゅっと握る。



「これからも私からするから。お姉ちゃんは安心して私に任せてね!」


 そんなことを、真っ直ぐに目を見て言われた。


 そ、そういうこと言われるのも、自分からするのとおなじくらい恥ずかしいんだけどなあ。


 とはいえ……



「う、うん……」


 我ながら分かりやすい。


 期待と、自分を求めてくれることへのうれしさのほうが圧倒的に勝ってしまうのだから。



 やっぱり、アリスちゃんには敵いそうもない。

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