第90話 アリスちゃんとデート(●●編)
「はい、あ~んして」
「あ~ん……」
口を開けると、アリスちゃんがパスタを巻いたフォークを運んでくれる。
昼食を、アリスちゃんが食べさせてくれている……
これはいつも通りのこと。違うのは、
「おいしい? 遥香」
私が、今高校の制服を着ているということ。そして、
「うん、おいしいよ。お、お姉ちゃん……」
ここが、大学の学食ということだ。
一体どうしてこんなことになっているのか。
私は今朝からの出来事を思い返していた――
「おはよう、アリスちゃん」
今朝、目を覚ますと、そこにはアリスちゃんがいた。
これはいつものことだ。ほとんど毎日同じベッドで寝てるし。むしろ自然なこと。けど……
「おはよう、遥香」
帰ってきた言葉はいつもと違った。
「遥香はかわいいなあ……遥香、ちゅーしよっ」
「んっ……あ、アリスちゃん?」
寝起きの頭で理解するには、状況が分からなさすぎる。
分からないけれど、何だか期待に満ちた顔をしていらっしゃる。
とりあえずアリスちゃんにされるがままに身を任せて、ちょっと落ち着いたところで聞いてみると……
アリスちゃんは、私に「お姉ちゃん」て呼ばれたいらしい。
この間、旅行に行く前に水着を買いに行ったとき、お店で「お姉ちゃん」て呼ばれたことが忘れられないそうだ。
で、今日一日だけでも、「お姉ちゃん」て呼んでほしいんだとか。
そんなわけで、
「お、お姉ちゃん。手、繋ごうよっ」
「うん。遥香っ!」
私は今日一日、アリスちゃんの妹として、アリスお姉ちゃんに甘えることになりました――
だからって、私が高校の制服を着てデートする意味はないと思うんだけどなあ。
「そんなことないよっ!」
思い切って訊いてみると、身を乗り出すようにして私の手を握ってきた。
「だって、今日は私がお姉ちゃんでお姉ちゃんが妹だもん!」
と、何だかややこしいことを言う。
「遥香は今日は高校生で、私は大学生っていう設定なんだから!」
新設定まで発覚した。
まあ、いいんだけどさ。アリスちゃんに振り回されるのは、いつものことだし。それに……
「遥香だって、じつは楽しんでるでしょ? 制服着れて嬉しいんじゃない?」
「うっ」
見抜かれてた。
じつは……うん。制服は好きだから、着れるのは結構うれしい。
ただ、自分から率先して着るのはなんだかなーって感じだから、アリスちゃんにムリヤリ着せられてるっていうこの状況は、結構ありがたかったりする。
「遥香、今日は大学デートしよっか!」
「ぜっっっったい、ヤダ!!」
それはちっともありがたくない! ていうかムリですイヤです!
私が通ってる大学でってことだよねっ!? ムリムリムリムリ! 勘弁して! もし知り合いに見られたらどうするの!
と、思っていたはずなのに……
「遥香。今度は遥香に食べさせてほしいなぁ」
「う、うん……」
結局、私はアリスちゃんと大学に来て、学食でご飯食べて、アリスちゃんに「あ~ん」している。
「おいしい? お姉ちゃん」
「うん、おいしいよっ。きっと遥香が食べさせてくれてるからだね」
なんて言いながら、アリスちゃんは私を抱きしめてくる。
やわらかくて温かい、それにすごくいい匂いがして……
恥ずかしいけれど、なんだかんだで受け入れる。最近は、恥ずかしさも含めて楽しんじゃってるし。でも……
「あ、遥香。ソースついてるよっ」
ペロッ
唇の端を舐められる。体がビクッと震えちゃったけれど、今さらなんてことない。恥ずかしいは恥ずかしいけれどね。でも……
そう、でも、私は忘れていた。
私たちが今いるところは、普段通ってる大学だってことを。
アリスちゃんにペロッと舐められて、体がビクッと震えて、震えを止めるみたいにぎゅっと抱きしめられて、ちょっと恥ずかしいけれど、うれしくて笑ってしまったときだった。
気づいた。ていうか、目が合った。
休日なのに、なぜか大学に来ている井上と。
…………
……………………
パシャ
「なんで写真撮った!?」
「やー、ごめんごめん。完全にお楽しみ中だったからさ。記念撮影をと思って」
「なんでそうなるの」
流れで一緒にご飯を食べることに。井上はいつものように「なはは」と軽く笑う。
「でも……へー、ほー、ふ~~~~ん」
ニヤニヤ笑いながら、井上は私をじろじろ見てくる。
「な、なに……?」
なんだかイヤな視線。思わず、私は体をよじって両手で体を隠す。
「や、似合うなーと思って、制服。みゃーのは童顔だもんな。高校生って言われても違和感ない」
「ですよねですよねっ!!」
めちゃめちゃ食いつきがいい。アリスちゃんの。
「遥香の制服姿、とってもかわいいですよね! すごいですよね!」
「アリ……お、お姉ちゃん。声が大きいよ……」
興奮しているアリスちゃんを宥める。一方、井上はフムフムと頷いていた。
「あー、なるほど。今日はそういう設定でデートしてんのね」
「なに一人で納得してんの。提出期限が過ぎたレポート提出しに来たくせに」
「おんやぁ? そんなこと言っていいんかに~~? これ、みゃーののゼミ仲間に見せちゃおっかな~~」
そう言った井上が見せてきたスマホの画面には、ついさっき撮ったらしい写真が。
「ちょっ、消して!」
「やだ」
「消せ!」
「やだねったらやだね」
パシャ
「なんでまた撮った!?」
「や、だって太もも見せびらかしてくるから、撮っていいのかなって」
「っ!?」
言われて、自分が制服のスカートを短くして穿いていることを思い出した。
両手で裾を抑えるようにして引っ張り着席する。
「いいねぇミニスカ。眼福じゃ眼福じゃ」
「キモいこと言わないで」
「でもさ、あんなに身を乗り出したら、後ろからパンツ見えそうじゃない?」
「人を痴女みたいに……そこまで短くしてないから」
「うぅん、さっき遥香のパンツ見えてたよ」
「えっ!?」
アリスちゃんがなんでもないことのように言うので、私は本当にビックリした。
いや、どうせ私を驚かせようとしてるだけだよね。
ていうか、もし見えてたとしても、下着は見えてないはず。見せパン穿いてるし。
「ねえねえ、アリスちゃん。みゃーのどんなパンツ穿いてたの?」
「黒でした」
「わあ、だいたーん。まだ高校生なのにね~」
「そうだよっ!」
と、アリスちゃんは私の腕に自分の腕を絡めるようにして抱き着いてくる。
「遥香ぁ、ダメだよ、高校生がそんなに派手なパンツ穿いたら」
「ち、違うよ。それ見せパンだから……」
「見せパン? もう、そんなに派手な下着だれに見せるつもりなの!」
「そうじゃなくて……もうっ!」
アリスちゃん、分かっててワザと言ってるよね、これ。でも、
恥ずかしいと思いつつ、こういう状況も楽しんじゃってるんだよなあ、私……
「すっかり忘れてたんだけどさ」
帰り道、アリスちゃんが言った。
「今日大学に行ったのは、案内してもらおうと思ってたんだよね」
「案内?」
「うん。ほら、前に言ってくれたでしょ? 私が大学に行ったとき、今度案内してあげるって」
「あー……」
そういえば言ったっけ。
アリスちゃんがうちの大学を受験するって聞いて、じゃあ今度案内してあげるねって。
ていうか……
「それなら、私が制服着る意味ってホントないよね」
「そんなことないもん! 私が見たかったの! 遥香の制服姿! とっても似合ってるよ! お姉ちゃんはうれしいです!!」
「そ、そう……」
そんなに喜んでくれるなら、まあ、よかったけれども。
そういえば、去年も制服着てデートしたことあったっけ。あのときはアリスちゃんも制服着てたけど。
あのときもアリスちゃんに色々されたっけ。むぅ、なんか悔しいかも。私ばっかり色々されて。よし、こうなったら……
「お、お姉ちゃん!」
立ち止まって、アリスちゃんに抱き着く。
「わっ!? ど、どうしたのおね……遥香」
アリスちゃんがちょっとビックリしていた。コレはちょっと珍しいかも。
でもまだまだ! こうなったら、妹としてとことんアリスちゃんに甘える!!
「あのね、お姉ちゃん。ぎゅ~~ってしてくれない?」
「う、うん。ぎゅ~~~~っ」
まだ驚いているみたいだけれど、アリスちゃんは私を抱きしめてくれた。
温かい……ちょっと恥ずかしい。で、でもまだまだ!
「お姉ちゃん。チューしよ? 私、お姉ちゃんとチューしたい」
や、ヤバ。これ超恥ずかしい。アリスちゃん、いつもこんな気持ちで私に甘えてるのかな?
やめやめ! 私には真似できそうもない。恥ずかしすぎる……
「ごめんアリスちゃん。やっぱり……」
「愛してるよ遥香~~~~~~~~~~っ!!」
私の言葉をさえぎり、アリスちゃんは私をさらに強く抱きしめてきた。
抱きしめて、頬ずりしたり、キスしたり、
「っ!? なんでスカートの中に手を入れるの!?」
「かわいいっ!」
が、アリスちゃんは私の言葉が聞こえていないみたいだった。
「かわいいかわいいかわいいかわいい~~~~~~~~っ!!」
アリスちゃんが壊れた。
たまには私が恥ずかしがらせちゃおうと思ったんだけど……
どうやら、それは難しいみたいだ。
こういう恥ずかしさは、ちょっと苦手だなあ。でも……
最近は、この恥ずかしさも好きになってきてるんだけどね。
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