第85話 アリスちゃんの献身

「お姉ちゃん、ばんざいして?」


「うん……」


 言われたとおりに両手を上げると、アリスちゃんにキャミソールを脱がされた。


 ……何度経験してもドキドキする。一緒にお風呂入る時にもしてるから、ほぼ毎日脱がせっこしてるのに。



 私がドキドキしている理由は、多分もう一つある。それは、アリスちゃんの服装だ。


 アリスちゃんは、今ナース服を着ていた。ミニスカのナース服だ。ディスカウントストアで買ってきたらしい。


 初めて見る服装に、私はすごくドキドキしている。だって、スカートメチャメチャ短いし、タイトなスカートだからお尻のラインなんかも出ちゃってる。ていうか、そのスカートで女の子座りしていると……



 視線を逸らすけれど、ばっちり見てしまった。アリスちゃんの……その、下着。


 白い下着に、黒の花の刺繍があった。だめだめ、まだ朝なんだから。なるべく考えないように……



「えいっ」


「きゃぁあああっ!?」


 している間に今度はナイトブラを脱がされた。


「い、いきなり何するのっ!」


「何って、ナイトブラ脱がしただけだよ? もう起きるんだから」


 それは、まあ、そうか……



 ていうか、あれ? 何か前にもこんな会話をしてるような……


 いや、何回も、かな?



「今日は、お姉ちゃんには私が選んだ下着をつけてもらいます」


 一人で頭を捻る私。


 アリスちゃんを見て、私はどうして今回はこうなったのかを思い出していた――




 事の発端は一昨日のことだ。


 私が足を捻挫してしまい、それを見たアリスちゃんが「私が看病してあげるっ!」と言い出した。


 以上。



 うーむ、我ながら実に単純明快な回想だった。


 とりあえず、今日はアリスちゃんの好きにしてもらおう。


 そう思いながら、私はアリスちゃんに着替えさせられたのだった――




 と思っていたんだけれど、


「ま、待ってアリスちゃん! それはホントにいいマジでダイジョブだからっ!!」


「でもでも、やっぱり心配だよ。一人で行ける?」


「行けるよ! ていうか一人でしか行きたくないよ! トイレに行くんだもん!」


「足、捻挫しちゃったでしょ? 一人で大丈夫? ちゃんとパンツ下ろせる?」


「当たり前でしょ! 変なことばっかり言わないで!」


 こういうのは本当に良くないけれども。


 ……いや、本当に。




 夜。「お姉ちゃん、一緒にお風呂入ろ? 私が体洗ってあげる」というお誘いを受け、私はアリスちゃんと一緒に浴室へ。


「ん~~。気持ちい~~いっ」


 シャワーを浴びながらアリスちゃんが言う。


 隣を見ると、すぐ傍にアリスちゃんがいた。当然だよね、一緒にシャワー浴びてるんだから。


 お互いの肌が触れ合うくらい近くにいるので、体温まで伝わってきそう……



「お姉ちゃ~~ん。うりうり~~~~っ」


「わっ!?」


 いきなりアリスちゃんが抱き着いてきた。


 自分の体を擦りつけるみたいにしながら私に甘えてくる。


「も、もう、アリスちゃん……」


「座って? 体洗ってあげる」


「うん」



 言われたとおりに座る。すると後ろから「かわいいお姉ちゃんは手で洗います」という声が。


 アリスちゃんの手が後ろから伸びてきてボディーソープを取る。その時、アリスちゃんの胸は私の背中に押し付けられて、そのやわらかさと温かさがダイレクトに伝わってきた。


 自分の体温が一気に上昇するのが分かる。その熱が冷めないうちに、



「ん、んっ……は……っ」


 こ、これヤバいかも。手で洗われるって、想像以上に恥ずかしい。


 前にアリスちゃんを手で洗ったことがあるけれど、自分がされるってこんな気分なんだ。


 くすぐったくて、ピリピリして……なんか、なんだろ……



「お姉ちゃん」


「は、はい……っ!」


 思わず背筋を伸ばして返事する。


「前はどうしますか?」


「っ!!」



 耳元で甘く囁かれて、頭が蕩けそうになってしまった。


 前……そんなの絶対ダメ。背中だけでこんなに恥ずかしいのに、前を触られたら、変になっちゃう。でも……


 前を洗ってもらったら、どんな感じなんだろう? どうなっちゃうのかな? アリスちゃんはどんな気持ちだったのかな?


 そんな疑問が頭の中をぐるぐる回転して、ふと気づけば、



「……お願いします」



 そう言っていた。



「はぁい。えへへっ」


 アリスちゃんの声はすごくうれしそうだ。


「じゃあ。洗うからね」


 何だか喉が熱くて、声を出すのもつらい。


 私は何とか首を動かしてコクリと頷いた。



「ぁ……っ!」


 アリスちゃんの手が触れた瞬間、体がビクンと震える。


 お腹を洗って、足を洗って、今度は胸に……っ


「んん……っ」


 アリスちゃんの手が、私の胸に触れている。やさしく、愛撫するみたいな手つきで。


 ちゃんと洗わなきゃねって囁いて、私の胸を、余すところなく……



「ふふっ。お姉ちゃん、ここ、すごくつんつんしてるよ?」


 敏感なところを突かれて、私の体は静電気を流されたみたいにビクビク震えた。


「あ、アリスちゃん、ダメ……やめてっ」


「ダメだよ。ちゃんと全部洗わなきゃ」


 逃がさないというように、アリスちゃんは後ろから私を抱きしめる。まるで自分の体を押し付けるみたいに。


 そのまま、触られたり、突かれたりして、私は、私は……



「も、もうっ! ダメだってばぁーーーーっ!!」


「わっ!? ま、待ってお姉ちゃん! そんなに暴れたら……きゃあっ!?」


 バランスを崩した私たちは、二人で倒れこんでしまうのだった――




「さっきはごめんね、アリスちゃん。本当にケガはない?」


「うん。大丈夫だよ」


 就寝して、二人で同じベッドで寝る。


 もう何度かした確認だけど、念のためにもう一度すると、アリスちゃんは笑って答えた。


 しつこいって思われるかもだけれど、アリスちゃんが怪我しちゃう方が困るし。



 アリスちゃんには気づかれないよう、私は心の中でため息をつく。


 今日はちょっと疲れちゃった。アリスちゃんの気遣いは本当にうれしい。うれしいけれど……



「ごめんは、私のほうだよね……」


 静かな部屋の中でも、耳を澄ませていないと気づかないくらいにちいさな声だった。


 それなのに、私の耳にはとてもハッキリと聞こえた。


「お姉ちゃんが捻挫したの、私の所為だし……」



「違うよっ!」


 私はすぐに否定する。


 大きな声を出してしまったので、アイスちゃんはちょっとビックリしていた。けれど、ここはちゃんと言っておかないと!


「私が捻挫したのは自分の所為だよ」


「でも、私が驚かせたから……」


「それでも、私がちゃんとバランス取れてればよかったんだし。私がちょっとどんくさかったんだよ」



 アリスちゃんはまだ納得していないみたいだった。


 私はアリスちゃんの頬に触れて「こっち見て」と言う。


 気まずそうに逸らされていた瞳が私に向く。本物の宝石みたいにきれいなサファイアの瞳が、今は不安気に揺れている。



「私、怒ってるように見える?」


「……うぅん、とってもかわいくて素敵な顔だよ」


「そ、そっスか……」


 思わぬ反撃を食らった。何これ超嬉しいめっちゃ恥ずかしい。


「アリスちゃんも、とっても素敵だよ」


 普段ならこのまま押し切られるところだけど、今回はそうはいかない。



「でも、もっと素敵なのは、私が一番好きなのは、アリスちゃんが笑っている顔。うれしそうにしてる顔が、私は一番好き」


 ジッとアリスちゃんを見て、伝える。この子が辛そうな顔をしていると、私も胸が張り裂けそうに辛いから。


「だから笑って。ね? 私はちっとも怒ってなんていないから」


 アリスちゃんは俯いている。


 だからどんな顔をしているのかは分からないけれど、その顔が挙げられた時、たしかに笑っていた。


 いつも見ている、私が大好きな笑顔……


 と思ったら、アリスちゃんはすぐに私に抱き着いてきて、その顔は見えなくなってしまった。



「好き……」


 胸元から、ポツリと聞こえてくる。


「お姉ちゃん、大好き」


「うん。私も、大好きだよ」


 ぎゅっと抱きしめる。世界で一番愛しい女の子を。




「ありがとう、お姉ちゃん」


「お礼言われるようなことじゃないよ」


 なんだか、胸が無性に暖かくなって、


「お礼に今日買ってきたナース服あげるから着てね」


「それはいいです」


 すぐに冷めた。

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