第78話 アリスちゃんとデート(●●編)
「あ、アリスちゃんっ。やっぱり、恥ずかしいよ……っ」
「え~? そんなこと言って楽しんでるくせに」
「そんなこと……だって、みんな見てる気がするし」
「きっとお姉ちゃんがかわいいからだよ。だって、お姉ちゃんすっごくかわいいもんっ!」
アリスちゃんの嬉しそうで楽しそうな笑顔を見ると、私はもう何も言えなくなっちゃう。
ある日の休日、私はアリスちゃんとデートしている。
いつもみたいに手を繋いで、色々なところに行って、ご飯も食べさせ合ったりして。いつもとおんなじデート、なんだけど。
一つだけ、いつもとは違うことがある。それは……
「お姉ちゃん、デートしようっ!」
朝、いきなりアリスちゃんが言った。
「いいよ。行きたいところでもあるの?」
「うぅん、そういうわけじゃないけど……あのね、お姉ちゃんにお願いがあるの」
と、改まった様子のアリスちゃん。
正直、ちょっぴりイヤな予感がした。こういうとき、アリスちゃんは変なことを言うことが多いから。
身構えた私に、アリスちゃんのお願いというのは、
「私、お姉ちゃんと双子コーデがしたい!」
というものだった。
そんなわけで、私はアリスちゃんに手を引かれてアパレルショップまでやってきた。
「う~~ん、どうしようかなあ。これかな……? でもこっちも……あ、これもかわいい!」
あれでもないこれでもない、とアリスちゃんは服を選んでいる。
「アリスちゃん。あんまり変な服選んじゃイヤだよ」
「分かってるよ。私も着るんだから」
……なんか、着るのが私だけならいいみたいに取れなくもないな。着るのはいいけど、恥ずかしい格好をアリスちゃん以外の人に見られるのはイヤだなあ。
なんて、ボンヤリと考えていると、
「決めた! 来て、お姉ちゃんっ!」
またまたアリスちゃんに手を引かれ、服を渡されて試着室に連れ込まれた。
そしてアリスちゃんに無理矢理服を脱がされる……と思いきや、アリスちゃんは別の試着室で着替えるらしい。
……なんか、ちょっと肩透かしかも。いやいや、本来これが普通だよね。うん。
アリスちゃんが選んでくれたのは、ピンクのブラウスに黒のミニスカートだった。
かわいい……
なんていうか、私好みの服だ。スカートの裾をつまんで、フリフリしてみる。
姿見で恰好を確認していると「お姉ちゃん、開けてもいい?」とアリスちゃんの声が。いいよと答えるとカーテンが開かれる。そこには……
私と同じ格好をしたアリスちゃんがいた。
「かわいい……」
思わず呟くと、
「ほんとっ!?」
アリスちゃんの顔はパアッと輝く。
「ありがとう! お姉ちゃんもとってもかわいいよ! でも……」
そこで、アリスちゃんは視線を下げた。
? 何だろう。どうかしたのかな?
考えていると、
「えいっ」
スカートを捲られた。
突然のことに、頭が真っ白になった。
ただ、ひらひら泳いでいるスカートの裾を見下ろして、足がスース―するなあ、なんて思っ……て……
「っ!!??」
慌ててスカートの裾を押えてアリスちゃんを見る。
「き、急に何するのっ!」
「もう! お姉ちゃん、このパンツじゃダメだよ!」
何故か怒られた。いや、ていうか……
「せっかくの双子コーデだもん! 下着もお揃いにしなくっちゃ! 大丈夫だよ、私が選んであげるから!」
言うや否や、アリスちゃんは私をランジェリーショップに連れて行き、私とのお揃いで下着を買った……
「あ、アリスちゃんっ。やっぱり、恥ずかしいよ……っ」
「え~? そんなこと言って楽しんでるくせに」
「そんなこと……だって、みんな見てる気がするし」
「きっとお姉ちゃんがかわいいからだよ。だって、お姉ちゃんすっごくかわいいもんっ!」
アリスちゃんはとっても嬉しそう。だけど、私は恥ずかしさでいっぱいだった。
「アリスちゃん、その……もうちょっとゆっくり行こ? 私、スカートが気になっちゃって……っ」
スカートの裾を抑えながら頼むと、アリスちゃんは歩調を緩めてくれた。
「大丈夫? 疲れちゃったの?」
「そういうわけじゃなくて、その……」
スカートの裾を引っ張りつつ、言おうとして口ごもる。
すると、アリスちゃんは察してくれたらしい。いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「もう、お姉ちゃんは恥ずかしがり屋だな~」
「ふ、普通だよ。アリスちゃんは平気なの……?」
アリスちゃんが言った通り、私たちは今福だけじゃなくて下着もお揃いのをつけている。
私は白の下着だけど……透けてる。透けてて、お尻は見えちゃってた。で、両側を紐で結んである。
アリスちゃんのは色違いの黒で、やっぱり透けてる。こっちも紐で結ばれてる。
こんな下着付けてたら、落ち着かないと思うんだけど……
「私は平気。お姉ちゃん気にしすぎだよ」
「だ、だって……何か、私のスカート短くない……?」
「うん」
と、アリスちゃんは当然のように頷く。
「お姉ちゃんのスカートはね、短いの選んだから」
「もう、どうしてさっ! 私だけ恥ずかしいじゃん!」
「だってお姉ちゃんに似合うと思ったんだもん。とってもよく似合ってるよお姉ちゃん! すっごくかわいい!」
「うぅ……っ」
そう言われると、私はやっぱり何も言えなくなってしまう。
……仕方ない。アリスちゃん嬉しそうだし、私はアリスちゃんの喜んだ顔が大好きだから。
休日ってこともあってか、テーマパークは混雑してる。
私たちは、一緒に軽食を食べたり食べさせ合ったり、
「お姉ちゃん、ほっぺについてるよ……ぺろっ」
「んっ、ありがと……」
なんか、これくらいのことはもう慣れちゃった……っ!?
「ちょ、アリスちゃんっ!?」
私の頬についたクリームを舐めとってくれたはずのアリスちゃんは、その後もぺろぺろと舐めてきた。
「ふふっ♪ お姉ちゃんのほっぺ美味し~~~~いっ」
「だ、ダメ……アリスちゃ……やっ、くすぐったい……っ」
「恥ずかしがってるの? お姉ちゃんかわいい~~。 んむっ、おいしいっ♪」
こ、これは慣れるっていうか……こんなの初めてっ。
アリスちゃんが、私の頬をぺろぺろ舐めて。体がピリピリする。なんか、静電気をずっと流されているみたい。やばっ、恥ずかしすぎて、頭真っ白になってきた……
でも、なんでだろう……恥ずかしいのに、なんか、幸せ……
もう、このまま……
「じゃなくてっ! ダメだってば!」
「ふふっ。ごめんなさ~~いっ」
アリスちゃんは嬉しそうだけど……いくらなんでも、これは恥ずかしすぎるよ……
その後お店に入って、
「えぇ、これつけるの……?」
「うん。大丈夫、絶対似合うからっ!」
「そ、そう言われても……」
アリスちゃんが持っているのはもこもこの耳付きキャップだ。
恥ずかしいし、それに、こういうの付けるような年じゃないと思うんだよなあ。
「じゃあ、私も付けるから。それならいいでしょ? ね?」
私の渋い顔を見たアリスちゃんは、まず自分がつけて見せてくれた。
……かわいい。アリスちゃんかわいいから、どんな格好も似合うなあ。
アリスちゃんに気づかれないよう、私はそっとため息をつく。
ちょっと疲れちゃった。アリスちゃんに振り回されっぱなしだからなあ。いつものことだけど。
「ねえねえ、お姉ちゃん! 次はここに入ってみようよ!」
私とは対照的に、アリスちゃんはまだまだ元気そうだ。
アリスちゃん希望の場所はお城……の、アトラクションだ。勇者という設定で魔王を倒すというものらしい。
だけど……
「きゃーーーーーーーーっっ!!」
お城の中に悲鳴が響く。……アリスちゃんの。
私たちが入ったのは、どうやらホラー要素も含まれたアトラクションだったらしい。
客を驚かせる仕掛けがあって、それに掛かるたびにアリスちゃんが驚いている。
「うぅっ、怖いよぉお姉ちゃぁん……」
「ちょ、ちょっとアリスちゃん……どさくさに紛れて、変なとこ触らないで……っ」
またふざけてるのかなと思ったけれど、そういうわけじゃないみたい。
アリスちゃんは本気で怖がっているっぽかった。
思い出すのは、去年の夏休みだ。
肝試しをした時も、アリスちゃん怖がってたなあ。あの時は、ついつい意地悪をしちゃったけれど……
「大丈夫だよ。落ち着いて」
「お姉ちゃん……」
「私が一緒にいますからね、お姫様」
するとアリスちゃんは、うっと言葉に詰まった。それからぷくっと、フグみたいに口を膨らませて、
「……イジワル」
「ごめんごめん」
「……キスして」
ポツリと声が聞こえてくる。
「キスしてくれたら、怖くなくなるから」
「えぇっ。ここで?」
それはちょっと恥ずかしい。逡巡していると、
「してくれないなら、お姉ちゃんのパンツの紐解いちゃうよ」
アリスちゃんは私のスカートの中に手を入れて……ひ、紐を掴んできた。私の腰に、引っ張られたみたいな感触が伝わってきて……
「まっ、待って待って! 分かった! キスするから! 解かないでぇっ!!」
私は少し背伸びをして……
ちゅっ。
アリスちゃんと、唇を重ねた。
「んっ……ちゅ……ぁ……っ」
「っ……お姉ちゃんかわいいっ」
「アリスちゃんだって、かわいいよ……」
私たちは、また唇を近づけて……
ぺろっ
予想外の感触に襲われ、私の体はビクンと震えて短い悲鳴まで上げてしまった。
アリスちゃんが、私の唇を舐めてきたから。
「あ、アリスちゃんっ!」
「お姉ちゃんかわいい~~~~っ!」
「むぐっ」
アリスちゃんにぎゅ~~っと抱きしめられた。
うぅ、恥ずかしい。でも、アリスちゃん温かい。やわらかくて、とってもいい匂い……
ダメだなあ、私。結局アリスちゃんに振り回されっぱなしだ。
でも好き。そういうところも含めて、アリスちゃんが大好き。アリスちゃんとの時間が大好き。
そう思えるんだから……
「あ、引っ張っちゃった」
「え……きゃぁああああああああああああっ!?」
こういうのは本当に、ほんとーーーーに困るけどっ!!
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