第75話 ちっさいおっぱい

 それは、いつもと変わらない夜のことだった。


 いつもと同じように、アリスちゃんと一緒にお風呂に入っている時のこと。



「うーん……やっぱり、また大きくなったかも……」


 いつもとは違うことが起きた。



 お風呂場の鏡で自分の姿を見たアリスちゃんが「ふーむ」と唸っている。


 金髪美少女の憂い顔……絵になるなあ。ていうか……そっか、そうなんだ。


 アリスちゃん、また大きくなったんだ。胸が。



 知らず知らずのうちに、私の視線は自分の慎ましやかなふくらみへ。


 …………うん、アレだね。アリスちゃん、成長期だもんね。仕方ないよ、うん。


 私はもう成長終わっちゃてるし。仕方ないよ、はあ……



「お姉ちゃん?」


 ボーっとしている時に話しかけられて、思わず体が震えてしまう。


 湯船の中から見ていた私と視線を合わせるようにしゃがんだアリスちゃんが、じぃっと私を見つめていた。



「な、何でもないです気にしないで!」


 手をぶんぶん振って誤魔化すと、アリスちゃんは「ふーん」と食い下がることはなかった。


「今日は私がお姉ちゃんの背中流す番だよ。ほらっ」


 アリスちゃんは私の手を取り、早く座ってと促してくる。


 内心圧倒されつつも、私は大人しく従ったのだった……




「はぁ~~~~……」


 部屋に戻りベッドに腰かけた私の口からは、長く大きなため息が出た。


 すると体が重くなったように感じて、私はベッドの上に横になった。



 脳裏に浮かぶのはアリスちゃんの姿。


 白い肌はには水滴が張り付き、朱が散っていて、それに……


 そこまで考えて、無理やりに考えを打ち消す。



 やめよう。なんか変な気持ちになってきた。


 いや、でもなあ……


 あのスタイルの良さ、本当にうらやましい。


 高校の時、一時期やってたバストアップの体操、またやってみようかな。



 どんなだっけ? えぇっと、確か、


 背中のお肉を寄せ集めて、胸まで滑らせてマッサージ。横だけじゃなく、上、下、斜め下からも……


 久しぶりだったからか、それとも自分で考えている以上に気にしてしまっているのか、



「お姉ちゃん? 入るよ……?」



 という声が聞こえるまで、私は気づいていなかった。



 アリスちゃんが、私の部屋に入ってきたということに。



「あ、アリスちゃん……」


 自分の胸を寄せて上げた状態で固まる私。


 アリスちゃんはといえば、そんな私をじっと見て、



「何してるの?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「えぇと、その……ま、マッサージかな? 体こっちゃって……」


 言いながら、適当にマッサージをする。何とかして誤魔化さなきゃ……



「そっか……うん、そうだよねっ」


 アリスちゃんが、すっごく納得した顔をしている。……何だろう、すっごく嫌な予感……っ!?



「アリスちゃん……っ!?」


 予感はすぐに当たった。


 アリスちゃんが、後ろから、私をぎゅっと抱きしめてきたのだ。



「どうしたの? 何か……」


「ごめんね」


 あったの? と訊くよりも早く聞こえてきたのは、予想外の言葉だった。



「ごめんね、お姉ちゃん」


「? 何の話……っ!?」


 しまった。


 こういう時、呑気に訊いてる暇はないんだった。



 私を抱きしめていたアリスちゃんの手が敏感なところへと伸びてきて、体が大きく震えてしまった。


 そのせいで密着しているアリスちゃんと肌が擦れてしまい、ピリピリと体中に静電気みたいな刺激が走る。



「気づいてあげられなくて……お姉ちゃん、私とそういうことがしたかったんだよね」


 アリスちゃんは寂しそうな声だった。


「そっ、そういうことって……どういうこと?」


 すると、何故だかアリスちゃんから照れたような反応が返ってきた。



「どういうことって……全部私に言わせたいの? お姉ちゃんのエッチ」


「いや、私はべつに……」


「さみしいときはいつでも言ってくれていいんだよ? 私がちゃぁんと慰めてあげるから」


「な、慰める……」


 耳元で囁かれて、アリスちゃんの吐息を妙に熱く感じた。



 ……否応なしに思い出してしまう。


 アリスちゃんが今まで私にしたことを。


 それに、想像もしてしまって……



「お姉ちゃん、今想像してるでしょ?」


「べ、べつにっ? 私はいやらしいことなんて……」


「いやらしいこと?」


 し、しまった……


 けれどもう遅い。アリスちゃんは自分の体を押し付けるみたいにして体を密着させてきた。


 そのせいで、また大きくなったらしいふくらみが、私の背中でつぶれているのが分かる。



「お姉ちゃんエッチなこと考えてたんだぁ。へぇ、そうなんだ……」


 私の後ろで、アリスちゃんが笑みを浮かべた気がした。


 いつもと同じ、あの意地悪な笑みを。



「どんなこと考えてたの? 教えてほしいな」


 言いながら、アリスちゃんは私の太ももを撫でてきた。


 それはとっても意地悪な手つきで、撫でられるたび、私の体はびくびく震える。


 それでも……うぅん、多分それだから、アリスちゃんは撫でるのを止めてくれない。焦らすような手つきで、私の反応を楽しむみたいに撫でてくる。



「あ、アリスちゃん……っ。くすぐったいよ……!」


「知ってるよ」


「……じゃあ、やめてくれない?」


「うーん……やだ」


 ニコリ、とアリスちゃんが笑った気がした。



「だって、くすぐったがってるお姉ちゃん、すっごくかわいいんだもん」


「そんな意地悪言わないで……ね?」


 私の太ももを撫でていたアリスちゃんの手に、そっと自分の手を重ねる。


 やめてもらうための行動だったけど、



「ぺろっ」


「きゃっ!?」


 首筋を舐められ体が震えて、手も放してしまう。


 アリスちゃんは「お姉ちゃんかわいいっ」とクスリと笑って、



「ていうかさ、お姉ちゃんはいいの?」


 自由になった手で、再び私の体を撫で始めるアリスちゃん。


 同時に、私の体にはまたビリビリと静電気が流れ始めた。


「なにが……っ?」


「だって、好きでしょ? くすぐったいの」



「そっ、そんなこと……」


 ない……と、思う。多分……



 分からない。くすぐったいのが特別好きなわけじゃない。


 アリスちゃんに触られるのは好きだけど……っ!?



「じゃあ……こうするのが好きなの?」


 言いながら、アリスちゃんは私の体をマッサージしてくる。


 さっき私がしていたように。私の緊張をほぐすみたいに……



「お姉ちゃん、さっきこうしてたよね。好きなんでしょ?」


「好きっていうか、その……」


 誤魔化そうと思ったけど……そもそも考えてみれば、以前も同じ光景をアリスちゃんに見られたことがあるんだよね。



「胸をね、あの……もっと、みたいな?」


 正直に白状する。


 すると、アリスちゃんは「えー?」と不思議そうな声で言った。



「そんなに気にする必要ないと思うけどなあ。前にも言ったけど、お姉ちゃんの体はとっても魅力的だよ」


「う、うーん……」


 アリスちゃんは褒めてくれているんだろうけど……私は首を捻ってしまう。


 なんか、その言い方はなあ。



「お姉ちゃん、これは大切なことなんだよっ!」


 私の心中を察したのか、アリスちゃんが言い聞かせるみたいな口調で言った。


「好きな人が自分に自信を持ってないなんてイヤだもん! だから……」


 ……あれ、これはアレだな。


 この流れは「私が証明してあげる」とか言っていろいろ変なことされまくるやつじゃ……



「一緒にブラ買いに行こうよっ!」


「…………えっ?」




 翌日。


 アリスちゃんと待ち合わせをした私は、アリスちゃんの学校が終わるのを待ってそこへ向かった。


 ランジェリーショップに。


 それは別にいいんだけど……



「んっ……アリスちゃん、それやめて……っ」


「だーめ。ちゃんとしなきゃ」


「そう言われても……こすれてっ、くすぐったぃっ……」


 お店につくと、アリスちゃんに試着室に連れ込まれ、あっという間に服を脱がされて……



「ちゃんと測らなきゃ買えないでしょ? ほらジッとしてて」


 言いながら、アリスちゃんはいったいどこから持ってきたのか、メジャーを使って私の胸囲を図ってくれるんだけど、



「ぅん……っ」


 服どころかブラまで外されたから、メジャーが直接敏感な部分に触れ、そのたびに体に刺激が走って声が出そうになる。


「ね、ねえアリスちゃん。やっぱりブラはつけさせてよ。こすれて、変な気持ちに……」


「こすれるって、どこに?」


「どこにって……」



 からかうみたいな口調に、返答に窮してしまう。


 すると、肌に張り付くみたいに密着していたメジャーが緩められた。


 だから私も体の緊張を解いてしまって……



「ひゃっ!?」


 また一気に緊張した。


 一度は緩められたメジャーが、また肌に張り付いてきたから。



「ねえ教えて? どこにこすれてるの?」


「そ、れは……」


 分かっているくせに、アリスちゃんは意地悪だ。


 その間にも体には強い刺激が与えられる。多分、アリスちゃんは私が言うまで止めるつもりないんだ。


 ほんとに意地悪……



 私は変な声が出ないように、気を付けながら口を開く。


 自分の口から漏れる吐息が熱くなっているのが分かる。でも、



「ぃ、言えないよ。恥ずかしい……っ」



 試着室内の、大きな姿見越しに私を見てくるアリスちゃんから、ついに視線を逸らしてしまう。


 だって、あんまりにも恥ずかしくて……



「お姉ちゃんかわいいーーーーーーーーっ!!」


 反射的に鏡を見る。


 するとアリスちゃんが私に抱き着いていて、それは体への感触でもありありと分かる。



 アリスちゃんの暖かくて柔らかな体……大きなふくらみが私の背中に押し付けられる。


 ……アリスちゃん、やっぱりいい匂い。とっても甘くて、何だか体の奥の部分をぎゅっと掴まれるみたいな香り。



「お姉ちゃぁん。うりうり~~」


 大好きな女の子の大好きな香りに酔いそうになる。


 けれど、その子は幸せそうに私に抱き着いていて、見た私は自然と笑ってしまう。



「もう、甘えん坊さんなんだから」


 愛しさから、私の肩に回された手を撫でる。


 アリスちゃんはまた嬉しそうに笑って、



「お姉ちゃんだぁい好き~~! えいっ」


「きゃっ!?」


 いきなり耳を甘噛みされた。


 敏感な部分に刺激が与えられたことで、体が大きく震えて声も出そうになる。けど……



「しーっ」


 アリスちゃんは私の体の震えを抑えるみたいに、強く強く、抱きしめてきた。


 さらに、右手で私の口を押え、くぐもった声が漏れる。



 どうしたの? と鏡越しに視線で訊く。


 アリスちゃんが私の耳から口を放すと、耳と舌とが唾液の糸で繋がっているのが見えた。



 いやらしい……


 だらしなくて扇情的な光景に、思わず視線を逸らしてしまう。



「んんぅ……っ!?」


 けどすぐに戻った。


 アリスちゃんの右手が私のスカートの中に入ってきたから。



 体の際どいところ……鼠径部そけいぶを優しく、愛撫するような手つきで撫でられ、全身に強い静電気がビリビリと走る。


 や、やば……体から力が抜けて……っ。何とかしなきゃ……アリスちゃん……!



「んっ、んぅ……っ!」


 やめてって言いたいのに、だめ。


 口を押えられてるから、言葉にできない。


 アリスちゃんの手を叩いてやめさせようとするけど……だめ、全然力が入らない。


 ぺちぺちと虚しく音が鳴って、アリスちゃんはクスリと笑った。



「ふふ。お姉ちゃんかわいいっ」


 さっきと同じ言葉なのに、全く違う意味に聞こえる言葉で。



 鏡の中の私は、アリスちゃんに口を押えられ、スカートの中を触られている。


 顔どころか首元まで真っ赤に染まって、私は羞恥に染まった顔で私を見つめていて……


 無理やりされているみたいな自分の姿に、心臓が早鐘を打つ。



「……やっぱり、こういうの好きなんだね」


 耳元で囁かれて、アリスちゃんの吐息が耳にかかり、またビクンと体が震えた。


 いつもより熱を持った、温かい吐息……



「無理やりされるのが好きなんて、いやらしい人っ」


「んぁっ!?」


 また耳を甘噛みされて、鏡に映った自分の体が大きく震えたのが見えた。


 それがすっごく恥ずかしくて、私は必死にアリスちゃんの言葉を否定しようとする。



 だって、どうせ抵抗しても無駄だから。


 そう、だから大人しくしているだけ。別に私は……



 ここはお店の中の試着室で、外とは一枚のカーテンで仕切られているだけ。


 もし……もし、今誰かがカーテンを開けたら? 誰かに見られたら……


 見られたくないっていう思いと、見られたらどうなるんだろうっていう好奇心。


 二つの感情が心の分水嶺ギリギリでせめぎ合って、私は溺れてしまいそうな錯覚に襲われた。



「大好きだよ、お姉ちゃん」


「んっ、ぅん……わ、私も……」


 今度は言葉にすることができた。


 いつの間にか、私の口は自由になっていたから。



「好き……大好きだよ、アリスちゃんっ」


 気持ちと、吐息が混ざり合い、唇が重なる。



 さっきまで確かにあったはずの二つの感情は消えて、後に残ったのは愛しさだけだった。


 私は、愛しい彼女に、そっと身を任せたのだった――




 その日の夜。


 私は自分の部屋で、姿見の前で自分とにらめっこをしていた。


 上半身裸で。



 ……まあ、改めて試着をしているだけなんだけど。


 私の新しいブラは全部アリスちゃんが選んでくれた。


 かわいい下着をつければ気分もよくなるよ! とのことである。


 ことなんだけど……



 これはどーなんだろう?


 アリスちゃんが選んでくれたのは、かわいいやつだけじゃない。


 その……いやらしいものもあった。



 面積が極端に少なかったり、透けてたりするやつ。通称、勝負下着。


 私が今つけているのは、ベビードールだ。


 ピンク色のブラの下から鼠径部までレースの裾が伸びて、パンツをぎりぎり隠している。


 けど、前が開いているタイプだから、少し動くだけでちらちら見えてしまう。



 ハーフバッグのパンツは、紐パンだ。


 結んである系じゃなくて、解ける系のパンツ。


 うぅ、アリスちゃんてば、こんないやらしい下着を選ぶなんて。


 これって、そういうことだよね? 私にこれをつけてほしくて、それで、それでぇええええっ!!



 ブンブン頭を振って一瞬浮かんだイメージを無理やりに霧散させる。


 なんだか妙に恥ずかしくて、なるべく下を見ないようにして改めて胸元を見る。


 胸元には鮮やかな白い装飾が施されていて、寄せて上げる系である。


 つまり、ね……うん。



「お姉ちゃん、何してるの?」



「っ!!」


 あまりにもビックリして、私はその場で二メートル程飛び上がった。



「あ、ぁああアリスちゃんっ!? どーしてここにっ!?」


 見やった先、ドアの前にアリスちゃんの姿があった。


「どうしてって……何度もノックして声かけたんだよ?」


「うそ……」


 動揺から何気なく出た言葉。


 けれど、アリスちゃんは不満そうな顔になって、私のところへ歩いてきて……



「きゃぁっ!?」


 ベッドに押し倒された。



 悲鳴を上げてしまったのは、私の所為だ。


 さっき、一瞬イメージしてしまったこと。それが急に現実となり、頭も体もついていけていないんだ。



「私をウソつき呼ばわりするの? ひどいよ……」


 私を見下ろし、そう言ったアリスちゃんの顔はとても悲しそうだった。


 私は慌てて否定する。


「ち、違うよ! そうじゃないの! ただ、えっと、あのね……」


 まだ動揺しているらしい。なかなか言葉が出てこない。


 そんな私を見て、何故かアリスちゃんはクスクス笑う。



「ごめんごめん。そんなふうに思ってないよ。焦ってるお姉ちゃんがかわいくて、ちょっとからかっちゃった」


「からかった……も、もうアリスちゃんっ!」


「ごめんなさぁい」


 きゃーー、とわざとらしく身をよじるアリスちゃん。


 そんな姿に、何だか怒る気もなくなってしまって、



「きれいだよ」


 突然言われた言葉に、キョトンとしてしまう。


 アリスちゃんは、声を立てずに表情だけで笑った。


 それは美しい絵画のようで、見惚れてしまう。



「お姉ちゃん、とってもきれい」


「ぅん、きれいだよ。アリスちゃんも……」


 ふふ、とアリスちゃんが小さく笑った気がした。


 分からない。私の意識は、アリスちゃんの白い肢体に集中しているから。



 寝間着を脱いだアリスちゃんは、私と同じ下着をつけていた。


 同じベビードールの、黒を。



「お姉ちゃん、ぎゅーーってして?」


「……うん」


 ベッドの上に体を起こして、アリスちゃんの細く白い肢体を抱きしめる。


 儚い……


 強く抱きしめれば、壊れちゃうんじゃないかってくらいに華奢で、儚い。



 けど、私の抱きしめる力は次第に強くなっていく。


 それはきっと、アリスちゃんも私を抱きしめてくれているからだ。同じくらいの力で、強く強く。



 私はアリスちゃんを抱きしめたまま、ベッドの上に身を投げ出す。


 ベッドが軋む音がして、私たちは横向きに寝そべった。お互いを抱きしめたまま。



 視線が合うと、意味もなく笑い合って。


 私たちは、そっと肌と唇を重ね合わせたのだった――

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