第66話 お姉ちゃん●●●●したの?

 朝起きると、私は一人だった。



 いつもはお姉ちゃんがいるのに、今はベッドに私だけ……


 なんて、私はテスト期間中で、勉強のために別々に寝ているだけだ。


 自分で言うのもなんだけれど、私の成績は上位だ。


 だからそこまで根を詰める必要はないんだけれど、私はこの家でお世話になっている身。万が一があっちゃいけないもんね。


 とはいえ……



 さみしい。


 朝起きたらお姉ちゃんがいないなんて! こんなの寂しすぎる! もう我慢できない会いに行かなきゃっ!!



 私は手早く制服に着替えて、お姉ちゃんの部屋に向かうのだった……




 なのにお姉ちゃんは部屋にいなかった。


 ノックしても呼び掛けても返事がないので入ってみると、お姉ちゃんはいなかった。


 もう、どういうことさ! せっかく会いに来たのにお姉ちゃんに会えないなんて! 一体どこに行ったの!



 ひょっとしてどこかに隠れてるんじゃないかって淡い期待を胸に、部屋を見回す。……いない。


 こうなったらお姉ちゃんのベッドにダイブしちゃる! えいっ!



 コロコロ転がって、さらに枕を顔に押しつけて匂いを嗅ぐ。


 嗅ぐ、嗅ぐ、嗅ぎまくる。


 うへへぇ、いい匂い。お姉ちゃんてどうしてこんなにいい匂いがするんだろう。こんなにいい匂いがする人がいるなんて、すごいなあ。



 お姉ちゃぁん……って、あれ?


 ふと気づいた。お姉ちゃんの布団に、大きなシミができているのを。


 これって、まさか……まさか……



 お姉ちゃん、お漏らししちゃったんだ!!



 お漏らしして、だからシャワーを浴びに行ったんだ……


 もう! お姉ちゃんてば、そういうことはちゃんと言ってくれないと困るよっ! 私にも予定があるんだから!!



 ……匂い嗅がなきゃ。


 ベッドの上に蹲って、顔をシミに押しつける。


 うーーん……何だろう? 舐めてみると、なんか甘い? 甘くて、ちょっと温かい感じ……


 そっか。これがお姉ちゃんのおしっこかあ。


 くんくんくんくんくんくんくんくん――




 ヤバい。


 ヤバい光景が、私の目のまえで繰り広げられている。



 高校の制服を着た金髪の女の子が、私のベッドに顔を押し付けて、匂いを嗅ぎまくっていた。


 あ、アリスちゃん、何してるんだろう?


 思わず、ドアの隙間からまじまじとその光景を見てしまう。


 そして、ある個所に目を奪われた。



 アリスちゃん、パンツ見えそう。



 身を乗りだすようにして蹲っているから、スカートが、かなり際どいことになってる。


 見えそうなのに見えない。本当に際どい所までは見えてるのに。ギリギリ見えない。


 それがすごくもどかしくて、私の鼓動はどんどん早くなっていく。


 見たいのに見えない……そうだ、視線を下げれば見えるかも。



 そう思った私はしゃがみ込んで……って何してるの私! これじゃまるで変態みたいじゃんっ!


 こんなことしてる場合じゃない! アリスちゃんの奇行を止めなきゃ!



「アリスちゃん!」


 バン! とドアを開いて部屋に入る。すると、アリスちゃんが私を見た。


 ちゃんと言わなきゃ。あんまり変なことしないでって。


「あのね、アリスちゃん。あんまり……」


「大丈夫だよ、お姉ちゃん!」


 アリスちゃんは、私をまっすぐに見て言う。その表情は真剣そのものだった。


 そっか、アリスちゃんも分かってくれたんだね。よかっ……



「お姉ちゃんがお漏らししたことは誰にも言わないから!」



「してないよ!? 何でそんな話になってるの!?」


 全然分かってくれてなかった。



「誤魔化さなくても平気だよ! 私絶対秘密は守るから!」


「だから本当に違うってば! 変なこと言わないで!」


「じゃあこのシミは何さ!」


「何で怒るの!? ……それは、ただ紅茶こぼしちゃっただけだよ」


 え、と驚いた顔のアリスちゃん。


 再びシーツに顔を近づけ、ペロッと舐め……!?



「だ、だから変なことは……」


「ほんとだ。どおりで覚えがあると思った」


 アリスちゃんは一人で納得している。



「……なーんだ。お姉ちゃん、おしっこ漏らしたわけじゃないんだ……」


「……何でガッカリしてるの?」


 今度は肩を落とすアリスちゃんを見て、私は訳が分からなくなってしまった。


 ……あれ? 今どういう状況だったっけ?



「とにかく!」


 話を変える意味も兼ねて、私はちょっと大きな声で言う。


「シャワー浴びてきたら? 私はもう浴びてきたから」


 いつもはアリスちゃんと浴びているけど、紅茶こぼしちゃって気持ち悪かったんだよね。



「うぅん。私、今日は日直だから早く出ないとなの。だからもう準備しなきゃ」


「そっか」


 だからもう制服に着替えてるのか。……でもあんな変なことする余裕はあるのか。



 相変わらず、時々変なことするなあ。なんて思う私をしり目に、


「いってきます、お姉ちゃんっ!」


 スカートを翻しながら、アリスちゃんは部屋から出ていくのだった。



 ……白でした。




「え、一緒に?」


 同じ日の夜。


 一緒に寝たいと言うと、お姉ちゃんは少し驚いたみたいだった。



「いいけど……勉強はいいの?」


「うん。もうバッチリだから」


 それに、勉強よりも気になることがある。



 お姉ちゃんが、本当にお漏らししていないのかどうか!!



 これは私にとって重要なことなんだから、きちんと確かめておかないと! それに……


 と、私の考えに割り込むようにして「そろそろ寝よっか」とお姉ちゃんは言った。



 寝ようだなんて、お姉ちゃんはいやらしいなあ。


 なんて思いながら、一緒にベッドで寝る。


 今さら「一緒に寝よう」なんて言う必要もない。当たり前になったことだ。でも……



「アリスちゃん、どうかしたの?」


「なにが?」


「だって、今日はやけにくっついてくるから……」


 お姉ちゃんの言う通り、私はいまお姉ちゃんを抱きしめて、自分の体を押し付けているような状態だ。



「……だめ?」


「そういうわけじゃないけど……もしかして、何かあった?」


 お姉ちゃんはじっと私を見てきた。その目は心配そうで、私を想ってくれてるんだなあって感じて……



「お姉ちゃぁん。えへへ~」


「ちょ、ちょっともうっ。アリスちゃん、誤魔化さないでよ……!」


 お姉ちゃんを抱きしめてスリスリしていると怒られてしまった。



「別に何にもないよ。ただ、気になったの」


「気になるって、何が……?」



「それはもちろん、お姉ちゃんがおしっこ漏らしていないかだよっ!」



 すると、お姉ちゃんの顔がみるみる冷めていった。


 あ、あれ……?



「だってだって! 今朝シーツにすごいシミがあったじゃん!」


「だからあれは紅茶こぼしただけだってば!」


「本当に? ほんとにほんと?」


「ほんとだってば! もう、なんでそんなに疑うの? ……私におしっこ漏らしてほしいの?」


「おしっこ漏らしてくれるの?」


「漏らさないよ! なにその言葉! 本当にどうしたのっ!?」


 お姉ちゃんは、はあとため息を漏らすと、神妙な顔で私を見てきた。



「ねえ、アリスちゃん。ひょっとしてテスト勉強で疲れてるんじゃない? たまには息抜きもしたほうがいいよ」


 そう言って、お姉ちゃんは私の頭を撫でてくれる。


 とってもやさしい手つきで、私を心配してくれてるんだって分かるけど……何だろう、なんか……ちょっと変な感じ。


 お姉ちゃんの目が、まるでかわいそうな子を見る目になっているような? でも、でも……



「うん……お姉ちゃぁん、私、疲れちゃったみたぁい」


 私はお姉ちゃんをギューッと抱きしめた。


 別に疲れていないけれど、でも疲れてるってことにしていっぱい甘えちゃおっと。



「お姉ちゃん、ぎゅーーってしてほしいなあ」


「もう、はいっ」


 お姉ちゃんはため息をつきながらも、私を抱きしめてくれた。


 甘くて温かなぬくもりが私を包み込んでくれて、自然と笑顔になってしまう。



「えへへ~お姉ちゃぁん。うりうり~~……えいっ」


「きゃっ!?」


 私の腕の中で、お姉ちゃんが華奢な体を震わせた。



「な、何でおしり触るの……?」


「疲れをとるためです。ぺろっ」


「んっ……な、何で首筋舐めるの……?」


「疲れをとるためです……っ」


「んぅっ……あ、アリスちゃ、んっ……くすぐった……いぃ」


 お姉ちゃんの寝間着を脱がせながら露出した肌を舐めまわすと、そのたびにお姉ちゃんの体はびくびく震えて、密着した肌同士が擦れあった。



 その刺激が、また私を行動に駆り立てる。


 もっともっと、お姉ちゃんを感じたい。声が聞きたい……



「お姉ちゃん、今日はナイトブラなんだね」


「うん。最近は別々に寝てたから、ちょっと油断してた。ごめん……」


 眉をハの字にするお姉ちゃん。それが妙にかわいくて、愛しくて……


 私の気持ちはまた溢れてしまう。



「どうして謝るの? きれいだよ、お姉ちゃん……」


 ナイトブラの上から、お姉ちゃんのかわいらしいふくらみに触れる。


 途端に、お姉ちゃんはビクンと震えた。



「あ……っ!」


 キスをして、ナイトブラをずらすと、お姉ちゃんは声を上げた。


 驚いたような、恥ずかしいような、でも期待していたような声。



 ついイジワルがしたくなって、それ以上は何もせずにじっとお姉ちゃんを見る。


 しばらく、何かを期待するような目で私を見ていたお姉ちゃんだけれど、我慢できなくなったのか、開いた口から吐息のような声を漏らす。



「ぁ、アリスちゃん……もう、疲れとれたの……?」


 おねだりするように言われて、私は……私は……



「お姉ちゃ~~~~~~~~んっ!!」


 あふれた気持ちはあまりにも大きくて、行き場を失ってしまった。


 お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん……っ!


 撫でたり触ったり舐めたり……


 色々やっても、もうどうしようもないくらいにあふれてしまって、気づけば、私たちは長い長い口付けを交わしていた。



「お姉ちゃん、あのっ、あのね……っ」


 荒い息のもとで発した声は、ほとんどかすれてしまっていて、ちゃんと聞こえているか不安なくらいだった。


「私、すっごく疲れちゃってるの。だから、なかなか取れないと思うけれど……付き合ってくれる?」



 お姉ちゃんは、言葉では答えてはくれなかった。


 ただ、唇を重ねて、行動で応えてくれて……



 私も、お姉ちゃんに応えたくて、必死に唇を、体を、こすり合わせたのだった。

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