第61話 私のほうが愛してるっ!!

 皆さんこんにちは。宮野遥香です。



 二十歳にして、私は初めて恋人ができました。


 彼女は従姉妹のアリスちゃん。日本人とイギリス人のハーフの、とってもキレイで魅力的な女の子です。


 ホームステイをしている彼女との生活を楽しんでいた私ですが……




「一体どういうことなの?」


 お母さんはいつになく重々しい声で言った。



 お母さんと向かい合う形で、私とアリスちゃんは座っている。……あ、ちゃんと服は着ています。


 テーブルのむこう側にいるお母さんの顔をまともに見ることができず、私は視線を下にむけたまま言う。



「どういうというか、見たままというか、その……」


 結局言葉にならず、ゴニョゴニョと詰まってしまう。



「私たち、お付き合いしているんです!」


 堂々と、詰まることなく言葉にする子が一人。


 私の最愛の彼女、アリスちゃんだ。



「私、お姉ちゃんが大好きなんです! 愛してますっ!」


 ぎゅっと、私に抱き着いてくるアリスちゃん。



 一瞬体が強張ったけれど、そんな場合じゃない。


 だって、私はアリスちゃんのことが大好きだ。遊びで付き合ってるわけじゃない。


 それをお母さんにも分かってもらわなきゃ!



「私も……うぅん、私、アリスちゃんが好き!」


 アリスちゃんを抱きしめて言う。


「本気なの! だから……」


「お姉ちゃーーーーーーんっ!!」


「わぷっ!?」



 ぎゅーーっと抱きしめる力を強められる。



「ど、どうしたのアリスちゃん」


「だってだって! お姉ちゃんが私を好きって言ってくれたんだもん! 私も大好きだよーーっ!」


「わ、私だって大好きっ!」


「私の方が大好きだよ!」


「な、なんかその言い方ズルくない?」


「ズルくないよ! だって、私ずっと前からお姉ちゃんが大好きだったんだもん! 私の勝ち!」


「勝ちって何! 私アリスちゃんが大好き! そういう気持ちになったのは最近だけど、気持ちはすっごい大きいんだから! だから私の勝ち!」


「そんなことない! 私の方が……」


「うぅん、私の……」


「分かった! 分かったから落ち着きなさい!」


 突然邪魔されたので、私はムッとした目をむけてしまった。


 するとお母さんに「何怒ってるの!」と怒られた。だって今それどころじゃないし!



「二人が本気ってことは、とってもよく分かったわ」


 重々しい口調で言ったお母さんは「そういうことなら」と息をつくように言った。



「あなたたちの好きにしなさい」



「えっ?」


 思わず訊き返すと、お母さんは「だからね」と前置きして、


「本気で好き合ってるんでしょ? なら私から言うことはないわ二人の思うようにしなさい」



「じゃ、じゃあ、賛成なの? 私たちのこと……」


「ええ。私はね。ただ……」


「はい、分かってます。お母さんには伝えてありますから」


 ニコリと笑って答えるアリスちゃん。


 ……そっか。もう伝えてあるんだ、私たちのこと……



「えぇっ!? アリスちゃん伝えてたのっ!?」


 いつの間に!? 聞いてないよ!?


「うん。お姉ちゃんが告白してくれた次の日に。……だめだった?」


「ダメってことはないけど……」


 そ、そうなんだ。伝えてたんだ。



「夏織さん、なんて?」


「賛成してくれたよ。遥香ちゃんと仲よくねって言ってた」


「そ、そう……」


 なんか、軽くない? いや、今さらかな……



「むしろ、お姉ちゃんはおばさんに伝えないのかなあってずっと思ってたんだよ。でもよかった。許してもらえて」


「変な男に引っかかるより全然いいもの。アリスちゃんなら安心して任せられるし」


「はい、任せてください! 私、絶対にお姉ちゃんを幸せにするので!」


 面とむかって言われると、やっぱり照れ臭い。でも……



「違うよ。私がアリスちゃんを幸せにするの。これでも年上なんだから」


「じゃあ私たち、一緒にいたらずっと幸せだね」


 アリスちゃんがやわらかく微笑む。


 それはとても魅力的な表情で、言葉にするよりも、私は、


 ゆっくりと、唇を近づけて……



「ウォッホン!」



 いったところで、咳払いで正気に戻った。


 見ると、お母さんがなんとも言えない表情で私を見ていた。


 私たちは慌てて顔を離す。それでも、片手は指を絡めて握ったままだ。



「まったく、恋人ができて浮かれるのは分かるけど、少し落ち着きなさい」


 お母さんは珍しく、ちょっと呆れたように、ため息交じりに言った。



「交際には賛成だけど、節度を以って付き合うように。約束できる?」


「はい、もちろんですっ!」


 超いい返事と共に、アリスちゃんは私に抱き着いてきた。


「うん。分かった」


 私も頷き返事を返す。



「えへへー。お姉ちゃぁん。クンクン……っ」


「んっ。く、くすぐったいよ……! アリスちゃん、匂い嗅いじゃ……やっ」


「言ってる傍からそれ!? 節度を持ちなさいっての!」


 返事はできた私たちだったけれど……



 行動で示すのは、ちょっと難しそうだった。

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