第59話 スケートはスカートで

 寒い……


 何で冬ってこんなに寒いんだろう。……って、毎日こんなこと考えてる気がする。


 でもこの寒さのせいで、ベッドから出るのが億劫で仕方がない。


 前は、この時間が嫌いだったけれど……



「おはよう、お姉ちゃん」


 今は好きだ。


 だって目が覚めると、大好きな女の子が傍にいるんだから。



「おはよう。起きてたんだ?」


「うん。ちょっと前に。お姉ちゃんの寝顔見てたの。写真も撮ったんだよ。ほら」


「み、見せなくていいから……」


 何か私、すっごい無防備な顔してる。うぅ、恥ずかしい……



「えへへっ。お姉ちゃんの寝顔コレクションがいっぱい増えちゃった……」


 そういうことも言わないでほしい。


 まあ、いいけど。アリスちゃん嬉しそうだし。



「ねえねえ、見て見て。この日は涎垂らしてたんだよ」


 こういうこと言うのはよくないけれど。



 恋人同士になってから、私たちはずっと一緒に寝てる。


 私の部屋で寝る日があれば、アリスちゃんの部屋で寝る日もある。今日は私の部屋だ。



「いやあ、今日もお姉ちゃん抱きまくらの安眠効果は絶大だなあ」


 言いながら、アリスちゃんは私に抱き着いてくる。


 と言っても、私のほうが背が小さいから、私が抱きしめられてるみたいになっているけれど。


 ……アリスちゃんすっごくやわらかい。それにとってもいい匂い。おかげで私も毎日安眠できてます。



「ちなみに、今日も涎が垂れてました……んむっ」


「ひゃっ!?」


 いきなり顔を舐められて、体が震える。


 もともと密着していたためか、体同士が擦れて羞恥から顔が赤くなっていくのを感じる。



「あ、アリスちゃん……っ」


「だめ、ジッとして。ちゃんと拭き取らなきゃ」


 ペロリと舐められ、まるで電流が流されたみたいに体が震える。



「ま、待ってアリスちゃんっ。その……ピリピリするから……っ」


「するから……なに?」


「するから……えっと、その……なんだっけ……?」


 やめて? うぅん、違う。


 だって、別にピリピリするのは嫌いじゃない。


 アリスちゃんにされてるんだって思うと、心地いいし、好き。でも……


 でも、私が欲しいのは、それだけじゃなくて……



「唇と唇?」


 心の中を言い当てられて、ビックリしてアリスちゃんを見る。


 アリスちゃんは微笑んでいるけれど、それはどこかイタズラっぽくて、私は恥ずかしさから視線を逸らしてしまう。


 けれど、結局はコクリと頷く。……無言で。うぅ、これが限界……っ!?



 羞恥を上書きするように、私の体いっぱいに甘い味が広がっていく。


 これ……これだ。私が、もっと欲しかったもの。


 甘くて、心地よくて……だめ、もっとピリピリしてきた。



 体の震えを止めたいのか、それとも私の気持ちを知ってほしいからか、私はアリスちゃんを抱きしめる。まるで、体を押し付けるみたいにして。


 そうしたらアリスちゃんの力も強くなって、また私も、強く抱きしめる。


 加速度的に大きくなっていく気持ちは、やがて口から溢れ出た。



「アリスちゃん……アリスちゃん……っ。好き……大好き……っ!」


「~~~~~~っ! 私もっ。大好きっ……愛してるよお姉ちゃんっ!」


 お互いに名前を呼び合う。


 ただそれだけのことで、とても満たされて、幸せな気持ちになれる。



 寒さなんて、もうちっとも感じない。


 温かいどころか、熱いくらいだった――




 すっかり忘れていたけれど、私は今日井上と約束があったんだった。


 アリスちゃんはアリスちゃんで、星野さんと約束があるらしい。せっかくの休日だけれど、今日は別行動になりそう。


 とはいえ、それまでは一緒に過ごせる。



 アリスちゃんと一緒にシャワーを浴びて、一緒に食事をとる。


 一緒に後片づけをして、何をするでもなく時間を過ごして……



「行ってきます、お姉ちゃん。んっ」


「行ってらっしゃい。んっ」


 アリスちゃんを見送る。



 それから少ししてから私も準備を済ませて家を出て、




「あれ、お姉ちゃん」


「アリスちゃん……」


 出先で再開した。



 午後。井上と一緒に来たスケート場は、休日ということもあって結構賑わっていた。


「おやまあ、奇遇だねえご両人」


 茶化すように言う井上。でも、なんか……


 その言い方、イヤだな……



「みゃーのからアリスちゃんたちも約束がーって聞いてたけど、二人もスケートしに来たんだ?」


「はい」


 と答えたのは星野さんだ。


「私がスケートしたことがないって言ったら、じゃあ教えてあげるから一緒に行こうって小岩井さんが言ってくれたので」



「へー。アリスちゃんてスケート得意なの?」


「得意って程ではないですけれど……滑るくらいなら。井上さんは?」


「私もそんな感じかなー。でもね、みゃーのが下手っぽいから、練習も兼ねてやってみようってなってさ」


「私たちとまったく同じ流れですね」


 クスクス笑うアリスちゃん。


 ていうか失礼な。私は別に下手なんじゃない。経験が少ないからあんまり上手くないだけだ。



「そうだっ! じゃあさ、小岩井さん。お姉さんにスケート教えてあげなよ!」


 名案! とばかりに言う星野さん。いやいや。


「いいの? アリスちゃんと遊びに来たんでしょ?」


「はいっ! 大丈夫です!」


「そ、そう……」



 何故か生き生きしている星野さん。おかげでちょっと気圧されてしまう。でも……


 どうせ教えてもらうならアリスちゃんがいいな。



「星野さんがそう言うなら、そうしようかな。お姉ちゃんがよければ、だけど」


「うん。じゃあ、よろしく」


 なんてやり取りがあって、アリスちゃんに教わることになったんだけど……




「よっ、おっと……きゃっ!?」


「お姉ちゃんっ!」


 スケート靴を履いた私は、バランスを崩して転びそうになるも、危ういところでアリスちゃんに抱き留められた。



「大丈夫? もう、気をつけなきゃダメだよ」


「うん。ありがとう」


 助かった……ていうか、アリスちゃんいい匂い。


 この匂いを嗅いでいると、今朝のこととか、色々と思いだして……


 ヤバいヤバい。顔どころか首まで真っ赤になってくのが分かる。



 慌てて頭を横に振る。


 危ない危ない。いくら何でもここで変なことはできないし。気をつけなくっちゃ。



「うわっ。星野さんめっちゃ顔緩んどる! ……大丈夫?」


 私よりもまずい顔してる人が要るっぽいけれど。



 井上が真面目なトーンで訊くんだから、よっぽどな顔してたんだろうなあ……




「お姉ちゃん。私が引っ張るから、しっかり握っててね?」


「うん……」


 アリスちゃんに手を引かれて氷の上へ……おぉう、危ないっ。



「大丈夫?」


「びっくりしたぁ……ありがとう」


 アリスちゃんに支えられ、安堵のため息が出る。


 体勢を立て直して、今度はと気合を入れる。


 一応私は年上なんだし、まして相手は彼女だ。少しはいいところを見せなくっちゃ!



「こ、こんな感じ……?」


「うん。そうそう、その調子っ……じゃあ、次はここまで来てみて」


 アリスちゃんにスケートを習って数十分。私は何とか滑れるくらいには成長した。



「うんっ。分かった」


 気合を入れ直し、ふらつきながらも、何とか滑っていって……


「……っ!」


 何とかアリスちゃんのもとまで行くことができた。



「すごいすごいっ! お姉ちゃんて呑み込みが早いんだねっ!」


「そ、そうかな……?」


 手放しに褒められると何か照れるな。



 でも……よかった。アリスちゃんにいいところ見せられたみたい。


 それが嬉しくて、私は少し油断していたのかもしれない。アリスちゃんにもっともっといいところを見せたいと思って張り切った結果、



「きゃっ!?」


 思い切り転んでしまった。


「おねえちゃんっ!?」


 アリスちゃんのビックリしたような声が聞こえたかと思ったら、すぐに駆け寄ってきてくれた。



「大丈夫!? ケガしてない!?」


「うん。だいじょう……っ!?」


 答えようとして、言葉を止めてしまう。


 アリスちゃんは今スカートを穿いていて、しゃがんでいるから……み、見えてる。



「お姉ちゃん、大丈夫?」


 気づいていないのか、アリスちゃんはもう一度訊いてきた。


「うんっ。大丈夫だよ……っ」


 大丈夫だけど、大丈夫じゃない。



 アリスちゃん、パンツ見えてる。


 どうしよう。教えたほうがいいよね。だって、このままじゃ私以外の人にも見られちゃうかもだし。そんなの絶対イヤだ。でも……


 どうしよう。目が離せない。白い肌に吸い付いた白い下着……


 いやいやダメダメ! 早く言わなきゃ!



「あ、あのねアリスちゃん……っ」


「おーい、大丈夫かみゃーの!」


 突然聞こえてきた声にビクリと体を震わせてしまう。



 一瞬何事が分からなかったけど、すぐに井上の声だと分かった。


 見ると、こっちに滑って来てる。その後ろには星野さんの姿もある。


 どうしよう、と思うよりも早く、アリスちゃんに手を引かれて私は立ち上がった。



「なになに、転んだの?」


「ちょっとね。慣れてきたから油断してたみたい」


「あはは。まったくしょうがないにゃー」


 何て言っているけれど、一応心配してくれているらしい。



「仕方ないですよ。きっと小岩井さんにいいところを見せようと頑張ったんです。そうですよね? ねっ?」


「あ、はい。まあ……そんなところです」


 星野さんの圧がすごい。思わず敬語になっちゃった。



「もう、お姉ちゃんっ! 気をつけなきゃダメだよ! ビックリしたんだから……」


「ごめんごめん。つい張り切っちゃって。アリスちゃんにいいところ見せたくてさ……」


 すると、アリスちゃんは一瞬キョトンとした目になったけれど、すぐにキラキラ輝きだす。まるで本物の宝石みたいに。



「もうもうっ! お姉ちゃんったら! ほんとーーに可愛いんだからっ!!」


「アリスちゃむぎゅっ!?」


 いきなり抱きしめられてしまった。



「あ、アリスちゃん。恥ずかしいよっ」


「大丈夫だよ。いつもしてるじゃん」


「そうだけど、ここは外だし、皆いるんだから」


「え~照れ屋さんだなあ……じゃあ、お姉ちゃんもハグしてほしいな。そしたら離れてもいいよ」


「うっ」


 そうきたか。



 でも、ずっとこのままなのも困る。


 家だったら別にいいんだけれど、外はなあ……仕方ない。



「えいっ」


 思い切って、アリスちゃんをぎゅっと抱きしめる。



 私は一瞬で満たされた気持ちになった。


 やわらかい。それに、甘くていい匂いがする。なんかドキドキしてきた。


 ふと視線を上げると、桜色の唇が目に入った。


 近い。今ならキスできる。そっと目を伏せて、背伸びをしたら、きっと……



 っていやいや! ここでそんなことできないでしょ!


 危うく目的を見失うところだった!



「はいっ。これでいいでしょ?」


「うん。ありがとう、お姉ちゃん」


 嬉しそうに笑うアリスちゃんは、私を抱きしめる腕に力を込めてきた。


 だから私はより密着してしまって、おかげでさっきよりもドキドキしてきて……



「あ、アリスちゃん? あの、離れてくれるんじゃ?」


「私そんなこと言ってないよ」


「えっ?」


「離れてもいいって言っただけ。離れるなんて言ってないもん」


 そ、そうきたか。



「それとも……こういうの嫌い? お姉ちゃん、私に離れてほしいの?」


「そ、そんなことない! 私アリスちゃんに抱きしめられるの好きだよ! だって、アリスちゃんとってもやさしくて、ほんとに私のこと好きなんだなって、大切に想ってくれてるんだって、分かるから……」


「私も、好きだよ」


「え?」


「お姉ちゃんに抱きしめられるの。だから大丈夫だよ。ハグするのは、全然おかしなことじゃないんだから」


 ……そっか。そうだよね。


 ハグくらいならいつもしているんだし、大丈夫だよね。それなら、キスするのだって……



「な、なんか、二人ともさ……」


 ちょっと引きつった感じの声が聞こえてきた。


 見ると、井上が微妙に引きつった表情を浮かべている。


「いつもより、仲良くない?」



 ……? いつもより? どういうこと……!?


 状況を思い出してハッとなった。アリスちゃんに近づけていた顔を慌てて離す。



「えっと、あの……これはさ……」


 どう言うべきだろう? 付き合ってるって、正直に言っていいのかな? それとも……


「はいっ、勿論です!」


 私が悩んでいる間に、アリスちゃんが言った。



「私たち、恋人同士なのでっ!」



 アリスちゃんが言った。私をぎゅーっと抱きしめながら。



 …………


 ……………………



「えぇええっ!? ま、マジでぇっ!?」


 井上がメチャメチャ驚いてる。コイツが本気で驚くのって、何か珍しい気がする。でも……



 うぅ、言っちゃったよ……。今まで誰にも言ってなかったのに。


 でも、隠す理由もないしいい機会かも。



「マジ。私アリスちゃんと付き合ってるの」


 意を決して言った。


 井上はまだ驚いているぽかったけれど、やがて「ははぁ~」と納得したみたいにため息をついた。



「そっかそっか。ついに二人がねぇ」


 今度はうんうん頷いている。


 ……なんか、予想外の反応だな。言ってみると、



「だって、正直いつかそうなるだろうなって思ってたし。むしろちょっち遅かったね、みたいな?」


「お、おう」


 そんな風に思われてたのか。



「それでそれで? どっちから告白したの?」


「お姉ちゃんですっ! 一緒にお風呂入ったときに『私の彼女になってください』って言ってくれて、それからむぐぅっ!?」


「わー! わー!」


 慌てて止める。


 ヤバいヤバい。こそままじゃとんでもないことまで言いそう。



「何だよみゃーの。いいところだったのに」


「うるさいっ。もう十分でしょ」


「えぇーーっ!?」


 すると、思わぬところから反対の声が。



「なんでなんでっ!? 私もっとお姉ちゃんのこと話したいのに!」


「恥ずかしいよ。それに、何の話するの?」


「な、何って……」


 どうしたわけか、アリスちゃんは恥ずかしそうに顔を赤らめた。



「もう、私に何言わせたいの? お姉ちゃんのエッチ」


「えぇええええっ!? それズルくない!?」


「じゃあ、お姉ちゃんが教えてよ。あの後、私と何したのか」


「そっ、そんなの言えないよ……アリスちゃんのエッチ」


 色々思い出して、自分の顔が瞬間湯沸かし器よりも早く真っ赤になっていくのが分かる。


 や、ヤバい。一度意識したら、なんか……


 やわらかくて、すっごくいい匂いがして、何だか包み込まれているみたい。



 ダメだ。一度意識しだしたら止まらない。


 無意識のうちに、私のアリスちゃんを抱きしめる腕に力が入る。


 と、



「~~っ! なになにお姉ちゃん私を抱きしめたりして! もうもうっ、かわいいんだからっ!!」


「っ。い、いや、違う……違わない……その……はい」


 今さら誤魔化しても仕方ないし、うん。



「おおっ。すげー、こんなみゃーの初めて見た。何だよ、かわいいかよ」


「かわいいですよ、私の彼女」


「あ、アリスちゃんだってかわいいよ……」


「もーーっ! お姉ちゃんてばーーーーっ!!」


「いやもういいよ分かったよ無限ループかよ」


 何か井上に呆れられた。


 ……いや、いいんだけどさ。コイツにこういう反応取られると、なんかイラっと来るんだよな。



 そういう訳で、私たちのことはアッサリと、問題なく受け入れられた。


 ……いつの間にか星野さんが気絶していたことを除けば。




「星野さん。本当に大丈夫?」


 スケート場から出て、改めて訊いてみると、


「はいっ。大丈夫ですっ! ありがとうございます! いろいろと!」


「ど、どういたしまして?」


 何か今日は圧が強いなこの子。


 まあ、大丈夫ならよかった。さっきはマジでビックリしたから。



「じゃあ、私たち帰るけど……いいの? この後も約束あったんでしょ?」


 アリスちゃん、今日はご飯は外で食べて来るって言ってたし。


「大丈夫ですっ。その……さっき倒れちゃったので、一応っていうか……大事を取って帰ります」


「星野さん、本当に大丈夫? 私送っていこうか?」


 とアリスちゃんからの申し出。やっぱり心配らしい。



「そ、そんなそんなっ! 本当にありがとうお幸せにねっ!!」


「う、うん……?」


 アリスちゃんがちょっと動揺してる。珍しい。


 結局、


「安心したまえ。星野さんは私が送っていこうじゃあないかっ!」


 と井上が言ってくれたので、星野さんは任せて私たちは帰ることにした。……ちょっと心配ではあるんだけれど。




「星野さん、本当に大丈夫かな?」


 帰り道。やっぱり気になったので言ってみる。


「大丈夫だと思うよ。学校でも時々ああなるから」


「それほんとに大丈夫なのっ!?」


 なんというか、私が思っている以上に変わった子らしい。



 それから、何となく話すことがなくなって沈黙が続いた。


 何か話そうかと思ったけれど、私より早く、アリスちゃんが口を開いた。



「あのさ、お姉ちゃん」


 その口調は、珍しく阿るみたいだった。



「もしかして、言っちゃダメだった? 私たちのこと……」


「えっ?」


 予想外の言葉に、私はアリスちゃんをまじまじと見てしまう。


 私たちは立ち止まって、見つめ合っていた。



「私が言った時、そんな感じがしたから……」


「そんなことないよっ! ただ、どうしても照れちゃって。私、恋人ができたのって初めてだから」


 よかったあ、とアリスちゃんが言った。



「私ね、お姉ちゃんが大好きだよ! だから彼女になれたのがすっごく嬉しくて、皆にも知ってもらいたいなあって思って、そしたら止まらなくなっちゃったの」


 まっすぐ目を見て言われると、流石に照れるな。でも……


「私も大好きだよ、アリスちゃん。で、でもね……っ!」


 ずっと言おうと思っていたこと、今なら言えるかも!



「スカートで滑るのはどうかと思うなっ! だ、だって……転んだら大変だよ……」


 すると、アリスちゃんはいたずらっぽくクスクス笑った。


「それ、お姉ちゃんが言うの?」



 うっ。


 言われて、私はさっき転んでしまったことを思い出す。


 そして、その時見たものも……



「見たよね?」


「えっ?」


 私の考えを読んだような質問に、きゅっと息が詰まった。



「見たよね? お姉ちゃん」


「なっ、何を……?」


「何を見たのか教えてよ」


 アリスちゃんは私の手首を掴んで詰め寄ってくる。


 だから私は、あっという間に石壁まで追い詰められてしまった。



「ねえ、教えて。何を見たの?」


「そっ、それは……」


 言葉に詰まるのはあたり前だ。


 だって、私が見たのは……



「アリスちゃんのパンツ……」


 自分でビックリした。


 言えないって思ってたのに、口にしてしまったから。



「どんなパンツ穿いてた? 私」


「白だよ。サテン生地で、フロント部分に花の刺繍がしてあって、それで……」


 私の言葉を遮るみたいに、クスクスと笑い声が聞こえてくる。



「すっごくよく見てるね」


 からかうみたいに言われて、私は今度こそ完全に言葉に詰まる。


 そ、そうだよ。私何言ってるんだろう。アリスちゃんの、ぱ……パンツを、そんな……



「ご、ごめんねアリスちゃんっ。私……」


「どうして謝るの?」


 アリスちゃんはじっと私を見てくる。


 だから私も、アリスちゃんから目が離せなくなった。



「お姉ちゃんは私の彼女なんだから、何をしてもいいし、どこを見てもいいんだよ? ねえ教えて。私と何したい?」


 言いながら、アリスちゃんは自分の胸元をはだけさせてくる。


 ちらりと、白いレースの布と大きなふくらみが露出し、思わず息をのむ。



 ドキドキしすぎて、うまく息ができない。


 それでも、なんとか答えることができた……と、思う。


 大丈夫かな? ちゃんと聞こえたかな? 不安になった私を、




 そっと、甘く優しい味が包み込んでくれた。




「……んっ。好きっ。アリスちゃん……好きぃ……っ」


 気持ちはあっという間に膨れ上がって溢れ出す。



 溢れ出した感情はアリスちゃんが全部受け止めてくれて、でも絶対になくなることはない。


 私の感情が止まらないっていうこともあるけれど、それ以上に、



「うんっ。大好きだよお姉ちゃん! 愛してる……っ!」


 アリスちゃんの感情も、私に流れ込んでくるからだ。



 私と同じくらい大きな……うぅん、ひょっとしたら、それよりも……


 うぅん、そんなはずない。私のほうが、私の気持ちのほうが大きいよ! でも……


 アリスちゃんのほうが大きくあってほしい気もする。だめ、なんか、わけわかんない……



「アリスちゃ、ぁん……っ」


 唇が離れると、吐息みたいな声が零れ落ちた。


「はやくっ、早く帰ろう? 私、アリスちゃんの部屋に行きたい……」



 アリスちゃんは、私をからかったりはしなかった。


 ただ頷いてくれて……



 私たちは腕を絡ませて、半ば走るようにして家へと帰ったのだった――

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