第45話 不思議な様子のアリス

「お帰りなさい、お姉ちゃん」


 帰ってきた私を、いつものようにアリスちゃんが出迎えてくれた。



 バイトに入っていたり、遊びに行ったり、大学の用事で遅くなることもあるけど、今日はどちらもないので早めに……午後五時に……帰ってきた。


 お母さんはパートに行っていて、制服姿のところを見ると、アリスちゃんも帰って来たばかりみたい。



「今日は早いんだね」


「うん。寄り道しなかったからねー」


 言いながら、私はソファーに横になる。


「もう、お姉ちゃん、そんなところで寝たら風邪ひいちゃうよ」


「ちょっと横になるだけー」



 相変わらず、そういうところは真面目な子だ。


 でも、私がこうやって寝ていると、アリスちゃんはよくキスしてくる。


 お母さんに隠れてこっそりと、いないときは堂々と。


 だから今回も、されるんじゃないかなあと思ってたんだけど……




 何もしてこない。


 アリスちゃんが、何もしてこない……!


 どうしてだろう。いつもなら、もうキスしてきてもいい頃なのに……って、いやいやいや!




 キスしてきてもいい頃なのにってなに! めっちゃ変なこと考えちゃってるよ私!


 ……でも、ちょっと……ちょっとだけ試してみよう。寝たふりをすれば、アリスちゃんも何かしてくるかも。



「もう、しょうがないなあ、お姉ちゃんたら」


 なんて言いながら、アリスちゃんは私に毛布を掛けてくれたっぽい。


 けどそれだけ。キスもしないし、体に触ったりもしてこなかった。変だな、いつもなら、何かしてくるのに……



 何かあったのかな? ひょっとして、星野さんとケンカしたとか?


 それはないか。前もそうやって勘違いした時もあったし。今回もきっとそうだ。


 と、思うんだけど……



 やっぱり気になる。だって万が一ってこともあると思うし、うん。


「あれ? 寝るんじゃないの?」


 起き上がった私を見て、アリスちゃんが意外そうな顔で訊いてくる。


「うん。なんか急に眠くなくなったから」




 今日の夕食は煮物らしい。


 いつものようにアリスちゃんが準備してくれるので、私はそれを手伝う。


 でも……



 やっぱり、アリスちゃんは何もしてこない。


 いつもなら、キスしたり体を触ったりしてくるのに。


 何だろう、なんか……ちょっとヤキモキする。



 いや、そんなこと言ってる間に行動すればいいんだ!


 別に私からしちゃいけないわけもないんだし!



「アリスちゃん!」


「? どうしたの、お姉ちゃ……っ!?」


 唇を塞ぐ。いつもアリスちゃんがしてくるみたいに。


 アリスちゃんの体はビクッと震えて、顔は驚きの色に染まった。


 体はプルプルと震えて、でも私に応えてくれて……




 ドンッ




 最初、何が起こったのか分からなかった。


 あまりにも驚きすぎて、理解できなかったんだと思う。……いや、それとも、理解したくなかったのかも。



 アリスちゃんに、突き飛ばされただなんて。



「あ、アリスちゃん……?」


 ど、どうしたんだろう? 私、何か変なことしちゃったかな?


 それとも、うまくできなかったから……



「きゅっ、急に何するの!」


 アリスちゃんの口からは、予想外の言葉が出てくる。でも、


「いきなりキスするだなんて、変だよっ!」




 …………



 ……………………




「えぇええ!? な、なんでっ!?」


「なんでって……私たちは従妹で、女の子同士なんだよっ? キスするなんておかしいよ!」


「えぇえええええええ!? 今までさんざん自分からしてきたじゃん!」


「私そんなこと一回もしてない!」


「えぇええええええええええええええっ!?」


 予想外過ぎる言葉がどんどん出てくる! ど、どういうこと!? キスしたことないって……


 も、もしかして、今までのは全部私が見た夢だったとか? いやいや、まさか。



「ひ、ひどいよお姉ちゃん。私、初めてだったのに……」


 …………いやいやいや。いやいやいやいやいや!


 それは絶対嘘じゃん! むしろそれ私のセリフじゃん! 何がどうなってるの!?



「お姉ちゃんて、私のことそういう目で見てたの?」


 動揺する私に、容赦なく追い打ちがかけられる。


「そっ、そういうって……」


 どう答えていいか分からず、何も言えなくなってしまう。



 ま、まさかと思うけど、また私をからかってる……?


「お姉ちゃんて、女の子が好きなの……?」


 ……いや、そういうわけじゃないのかな? なんか、本気で動揺してるっぽい?



「もしかして、何か悩み事? 私でよかったら話くらい聞くよ?」


 今度は心配された。それも私のセリフなんだけどなあ。


 と思っていると、あることに気づいた。



「あれ、アリスちゃん、そこどうしたの?」


 アリスちゃんのでこの一点が、赤く染まっている。


 すると、アリスちゃんはそこを軽く触って、ちょっと恥ずかしそうに笑った。


「さっき転んじゃって。頭ぶつけちゃったんだ」



「え、大丈夫?」


「うん。とくに傷もないし、コブもできてないから」


「ならよかったけど……」


 いやよくない。なんともないのはよかったけど、そうじゃなくて……


 さっきから様子がおかしいのって、それが原因だったり? いやいや、まさかそんなマンガみたいな。


 でも、もしそうなら……



「とっ、とにかく! あんな風にキスされるのは、困るよ……」


 私の思考を中断させた言葉は、妙に頭の中に残った。


 それに……




 ズキン




 鋭い刃物で刺されたみたいに、鈍い痛みに襲われた。


 なんだか、今までのことを否定された気分だ。



 悲しいな……っていうか……ていうか! それはないんじゃないかなあ! あれだけ私にいろいろやっておいて全部忘れるって! 悲しいっていうか酷くないっ!?


 なんか、ちょっとムカついてきたかも。


 こうなったら、何がなんでも思い出してもらうんだから!



「アリスちゃん!」


「な、なに、お姉ちゃ……んっ!?」


 ビックリしたのか、アリスちゃんがちょっと身を引いた。


 逃がさない! 私はアリスちゃんの肩を掴んで、勢いに任せて唇を押し付けた。



「やっ、やめてお姉ちゃん……お、おかしいよ、こんなの……っ」


「おかしくないよ……んっ……普通だって言ったの、アリスちゃんじゃん……」


「わ、私そんなこと……」


 こ。この子はまだ言うか。


 それなら……!



「きゃっ!?」


 アリスちゃんを壁際まで追い詰める。


 そして、ジッとアリスちゃんを見上げた。いつも、私がされているみたいに。



「お姉ちゃん……?」


 アリスちゃんも私を見下ろしてくる。でも、その視線はいつもとはまったく違う、不安そうなものだった。


「大丈夫だよ。何も怖いことなんてないから、ジッとして。ね?」


 安心させなきゃと思って、私はなるべく優しく声をかける。すると、


「…………うん」


 予想外の反応が。



 アリスちゃんは目を瞑って、唇を突き出すような仕草をした。


 …………


 ……………………え、えっ? いいの? ほんとに?


 しちゃうよ? していいの?


 いや、さっきしちゃったわけだし、今さら尻込みする理由もないはずなのに……



 何かそういう反応をされると、謎に照れるんだけど!


 どうしよう! 私どうしたらいいのっ!?


 いやいや、どうしようなんて、そんなの決まってる! アリスちゃんだって待ってるんだから!



 意を決して、目を瞑る。


 そして、アリスちゃんと唇を重ねた。



 今度は、彼女は抵抗したりしなかった。


 いつもとは違う、ぎこちない、そっと触れ合うみたいなキス。


 アリスちゃんの緊張が伝わってくる。でも、それ以上に……



 甘い――



 いつもとは違うのに、私の体にはいつもと同じ味が広がっていく。あの、甘くて酸っぱい味が……



「アリスちゃん、あのね……」


「やめないで……」


 ポツリと、消え入りそうなくらいに小さな声で、アリスちゃんが言った。



「やめちゃヤダ。もっとしたい」


「も、もっとって……んむっ!?」


 今度は私が唇を塞がれた。いつもみたいに、強引に。



 唇の間から舌が入ってきて、つつかれ、私の舌と絡まり、その度、体が静電気を流されたみたいにビクビク震える。


 それに呼応するみたいに、アリスちゃんの力はどんどん強くなっていく……うぅん、違う。私の体から、力が抜けていってるんだ……


 それに気づいたとき、私は床に倒れていて、アリスちゃんは私に覆いかぶさるみたいにしていた。



「気づいてなかったでしょ?」


 すぐ上から、アリスちゃんの声が降ってくる。


「私が、お姉ちゃんが大好きなこと」


 知ってます。



「でも、私たちは従姉妹だし、女の子同士だから……ずっと言わないつもりだったのに……」


 ほぼ毎日プロポーズされてますけど。


「お姉ちゃんも、私と同じなんだね。さっき、すごく嬉しかったよ。突き飛ばしたりしてごめんね? いきなりだったから、ビックリしちゃって。でも……」



 また、唇が重なる。


 私が感じていたのは、驚きと、ちょっぴりの恥ずかしさ。でもその感情は、あっという間に甘酸っぱい味に上書きされていく……



「もう、我慢しなくていいんだよね」


「え? どういう……っ!?」


 どういうこと、なんて、訊いてる隙はなかったんだ。


 その間に、アリスちゃんは私のシャツだけじゃなく、キャミソールまで捲り上げてきたから。



「あ、アリスちゃんっ!? なっ、なにを……」


「お姉ちゃんてさ」


 動揺する私とは裏腹に、アリスちゃんの声は冷静すぎるくらいに冷静で、私は口を噤んでしまう。



「かわいい下着が多いよね。かわいいけど、ちょっと抜けた感じの。大学生って、もっと大人っぽい下着をつけてると思ってたのに。お姉ちゃん、かわいい。誰かに見せたり、見られたりすることを、想定してないんでしょ?」


 言いながら、アリスちゃんは指先で、私のお腹のなぞってくる。


 くすぐったさと恥ずかしさで、おかしくなりそうだ。


 言葉を詰まらせながらも、なんとか口を開く。



「……んっ。だって、そういうものでしょ? 下着って……。見られたって、恥ずかしいだけだよ……」


 そう、そのはずだ。


 今までも、今だって、本当に恥ずかしい。死にそうなくらいに。でも……



 嬉しい――



 いつかも感じた、その感情。


 恥ずかしいけど、嬉しい。見られたくないのに見てほしい……



「かわいい」


 また、アリスちゃんの声が、雪みたいに降ってきた。


「お姉ちゃん、すっごくかわいい。それに、とってもキレイだよ」


「ほ、ほんとに……?」


「当然じゃん。だからもっと見せて。お姉ちゃんのかわいいところ」



「きゃっ!?」


 今度はブラをずらされて、悲鳴が出てしまう。


 それだけじゃない。アリスちゃんの手は、今度は私の下半身へ伸びていく。そしていつものように、スカートの中に入って行って……



「まっ、待ってアリスちゃん!」


 下着を脱がされそうになったので、慌てて足を閉じて、スカートの裾を抑える。


「そ、そこはホントにダメ……っ」


「どうして? 自分からキスしてきたくせに、今さらそんなこと言うなんて」


「だ、だって……」


 胸くらいなら、まだアレだけど……し、下は流石に……



「いいの?」


 アリスちゃんはクスリと笑って、いたずらっぽい口調になる。


「おばさんに言っちゃうよ。お姉ちゃんに、無理やりキスされたって。いいの?」


「そ、れは……やめて……」



「じゃあ、おしりあげて。ね? いい子だから」


 ……ゆっくりと、言われたとおりにする。


 だって、お母さんに告げ口されたらヤバいし、だから、これは仕方なく……そう、仕方なく、従っているだけ……



 アリスちゃんの手が、また私のスカートの中に入ってくる。


 そして、腰のあたりに触れた。普段触られないところを触られて、体が大きく震える。けど、それはすぐに別の感覚に上書きされた。


 スルスルと、アリスちゃんが私の下着を脱がしているから。



 これ……これヤバい。


 アリスちゃんに下着を脱がされるだなんて。それに、こんな……



「お姉ちゃん、赤ちゃんみたい」


「っっ!」


 囁くみたいな声に、私はアリスちゃんから顔をそらしてしまった。


 でも……



「あ、上下お揃いだ」


「っ! か、返し……んむっ!?」


 恥ずかしい言葉に反射的に顔を向けたら、同時に唇を塞がれた。



「……んっ……ちゅっ……んむぅ……っ!?」



 慌ててスカートを押さえると、アリスちゃんは顔を離してくれた。ので、私はここぞとばかりに、



「待ってアリスちゃん! そこは困るよ……」


「どうして?」


「どうしてって……」


 答えに窮している間に、アリスちゃんの手は、私の太ももの間を縫うみたいに動いて、ちょっとずつ上がってくる。



「だ、ダメだってば……!」


「じゃあ、足を開くか、手を離すかしてよ。じゃないと、ずっと入ったままだよ。お姉ちゃんのスカートの中に」


 言いながらも、アリスちゃんの手はどんどん上がって、同時にスカートもめくれるので、私はいよいよ焦る。



「まっ、待って待って! 落ち着いてっ。ね? 話し合おうよ……!」


「だめ。もう待ってあげない」


「ま、待ってってばぁ……っ!」


 今までより強く足を閉じて、なんとかアリスちゃんの動きを止めようとする。でも、アリスちゃんは止まってくれない。それどころか、



「いいの? 抵抗して。私に黙っててほしいことがあったよね?」


 た、確かにそうだけど……


「足、開いて?」


 それでもやっぱりそれはヤバい……



「大丈夫。怖いことなんて何もないよ。それに、これは私が強制したことだもん。お姉ちゃんの意志じゃなくて、私がやらせたことなの。だから、これは私のせい。私が悪いの。お姉ちゃんは何も悪くないんだよ」



 耳元で、そっと囁かれた。



 ……そっか、そうだよね。これは、アリスちゃんに脅されて、無理やりされていることで、私は何も悪くなくて……


 それなら……そういうことなら……



 足が開いていく。すると、自由になったアリスちゃんの手が、私の太ももをやさしく撫でた。


 それは慈しむみたいな手つきで、大切にされてるんだって感じる。なのに私にはとても強い刺激で声を上げそうになって……


 まるで予想していたみたいに、唇を塞がれた。



「んっ……んんぅ……っ」



 なんだか、アリスちゃんの力がいつもより強い……うぅん、それとも、また私の体から力が抜けていってるの……?



「……んっ。やっぱりお姉ちゃんて、無理やりされた方が気持ちよさそう」


「そんなことないもん……」


「それは絶対嘘だよ。はむっ」


「っっ!!」


 体がビクンと震えて、アリスちゃんに無理やり押さえつけられる。


 やっ、やば……また、吸われて……



 まただ。


 別荘に行った時みたいに、舐められて、つつかれて、吸われて、好き勝手にされてる……


 ダメだ、また頭が真っ白になっていく。何も考えられなくなって、残るのはアリスちゃんだけ。



「一緒に気持ちよくなろうね、お姉ちゃん」


「う、うん……うん?」


 今、アリスちゃん何て言った?


 一緒にって、いった……よね? てことは……てことは、私も、するってこと? その……そういうことを?


 えっ、えぇ!? 嘘でしょ!? だ、だってそんな……



 動揺している間に、アリスちゃんはブラウスのボタンを外して、ブラウスと一緒にカーディガンをずらした。


 露出したのは、大きなふくらみと、それを包む淡い色のブラ……


 ほんの一瞬、アリスちゃんがイタズラっぽく笑ったように見えた。でも次の瞬間には、私の手を掴むと……



 そこに振れた時、震えたのはアリスちゃんじゃなくて私だった。


「どう? 自分以外のに触ったの、初めてでしょ?」


「わっ、分かんないよ、そんなの……」


 ……いや、なんか……なんか……私のと全然違う。手に収まらないし、キレイで、温かい……


 すると、またアリスちゃんの顔にいたずらっぽい笑みが浮かんだ。「ふーん」と言って、そして、



「それじゃあ、こっちはどう?」


「ちょ、ちょっと……っ!」


 私の手は、今度はアリスちゃんの太ももに触れた。


 温かくて、キレイで、すべすべしてる。



「いいんだよ。今まで私がたくさん触ったんだから、今度はお姉ちゃんに触ってほしいの。ね? ほら、遠慮しないで」


 アリスちゃんは私の手を掴んだまま、それをゆっくり動かす。上へ、下へ、ゆっくりと。


 それはやがて、アリスちゃんの制服のスカートの中に入っていく。


 少しずつスカートがめくれていって、普段は見ることのないところが露出していく。その様に、私はくぎ付けになって……



「ぁ……っ」


 今、何かが見えた気がした。


 スカートの裏地とか、ブラウスの裾でもなくて、もっと別の……



「お姉ちゃん、今見たでしょ?」


 アリスちゃんの顔に、またイタズラっぽい笑みが浮かんだ。


「いや……」


「見たよね?」


「見たっていうか……」


 見えたっていうか……



「何色だった? 教えて」


「……ピンク」


 クスッ、とちいさな笑い声。


 アリスちゃんの顔はどんどん近づいてくる。でも、私の唇をあっさり通り過ぎて、耳元へ。



「そうだよ」


 囁かれたあとで、耳を甘噛みされた。



 でも、私の体が震えたのはそれが理由じゃない。


 甘噛みの後で、舐められて、吸い付かれたからだ。まるでキスでもするみたいに。


 やばい……力入らない。これ、本当に私、アリスちゃんの……



「やっ、やっぱ無理ぃ……っ!」


「えっ!? 待ってお姉ちゃ……きゃっ!?」


 自分が何をしたのか、最初は分からなかった。


 でも、アリスちゃんの悲鳴で我に返る。私は彼女を突き飛ばしてしまったんだ。



「ご、ごめん、アリスちゃん! 大丈夫っ!?」


「う、うん……」


 頭をぶつけてしまったらしい。アリスちゃんは頭をさすっている。


 と思ったら、


「あれ? お姉ちゃんだ……お帰り」


 なんて言い始めた。



 ……これはアレかな? ひょっとしてアレかな? もう一度頭をぶつけて元に戻ったとかかな?


 自分のブラウスのボタンが開いていることにも驚いていて、慌てて閉めてるし……



「さっきまでのこと、本当に覚えてないの?」


「うん。何か帰ってきてからの記憶が曖昧で……」


 と、アリスちゃんは記憶を探るみたいに考えている。


 どうやら本当に覚えてないらしい。じゃあ、さっきまでのことはなかったことにしようそうしようそれがいい。



 でも……いやいや! 別にガッカリなんてしてないし! よかった変なことにならなくて!



「あれ、何だろこれ?」


 そう言ってアリスちゃんが広げたのは、


「あ、これお姉ちゃんのパンツだ」


「か、返してっ!」


 取り返そうと手を伸ばすと、アリスちゃんは身をよじって避けた。



「あの……アリスちゃん? 返してくれる? それ」


「それって? ちゃんと言ってくれないと分からないなあ」


「だから、その……パンツ、返して……」


「いいよ」


 思ったより、素直に言ってくれた。



「ここで穿いてみせてくれるなら」


「えっ?」


「だから、私の前でパンツ穿いてよ」


「ど、どうしてっ?」


「見てみたいから」


 意味が分かりません。



「いいじゃん。脱いでって言ってるわけじゃないんだよ? 穿くだけ。全然恥ずかしくないよ」


「そうだけど……」


「いいでしょ? お願い。だめ……?」


 うっ。その顔、久しぶりに見た気がする。やっぱり、その顔で頼まれるとなあ……



「分かった……でも、今だけだからね! もうやんないから!」


「はあい」


 アリスちゃんからパンツを受け取って、それを……穿く。


 別に変なことじゃない。いつもやっていることで、それに普通のことだし、うん。


 でも……ムリムリ落ち着かない! すっごい恥ずかしいんだけど! 従妹にパンツ穿くところ見せるとかホントなにしてるの私っ!



「……ほら、穿いたよ。これでいいでしょっ?」


 恥ずかしさを誤魔化すように言うと、声がすこし裏返ってしまった。


「よくできました……んっ」


 一方のアリスちゃんは冷静すぎるほど冷静で、言うや否や私の唇を塞いできた。



 なんだか、結局変なことになっちゃった。


 記憶をなくしても、結局アリスちゃんはアリスちゃんだし。でも……



 キスされてうれしいって感じてるんだから、結局私も単純らしい。

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