第19話 結婚式に行こう!
「久しぶり、アリス」
帰ってきた私たちを出迎えてくれたのは、私のお母さんとアリスちゃんのお母さんのWお母さんだった。
「ママっ!? どうしたの? 何でここに……」
アリスちゃんは私以上に驚いているみたい。どうやら彼女にも予想外らしい。
当然だ。アリスちゃんのお母さんは、今もご主人と一緒にイギリスに住んでるはずだから。
「ちょっと用があって……あら、二人ともずいぶん仲がいいのね」
腕を組んだままの私たちを見て、アリスちゃんのお母さん……
「えっ!? ええ、まあ……」
私は腕を解こうとしたけど、アリスちゃんはもっとくっついてくる。
けど、私がちょっと目配せをすると、名残惜しそうにしながらも離れた。
あれ……なんか変な感じ。ちょっと物足りないっていうか、寂しいような……
いやいや! そんなこと言っても仕方ないじゃん! ずっとくっついてるわけにもいかないんだから。
夏織さんは外せない用事があって、それで帰国したらしい。
その用事っていうのが……
「結婚式があるのよ」
と言われて、最初その意味を理解できなくて、した瞬間、
「えぇええっ!? け、結婚って、そんな……」
たしかにアリスちゃんには結婚しようって言われてる。
私もアリスちゃんは好きだけど、でっ、でもでも、まだ心の準備ができてないのに、そんな……
次の土曜日。私たちは結婚式場にむかっていた。
お母さんたちの友達の、娘さんの結婚式に出るために。
そう、結婚するのは私とアリスちゃんじゃなかった。うん……当然だよね。なんか一人で動揺しちゃってた。でも……
「楽しみだねー、お姉ちゃん」
何故かアリスちゃんのテンションが高い。
結婚式に出席するって決まってから、ずっとこんな感じだ。
どうしてだろうと思っていたけど……
「かわいいかわいい! そのドレス、とってもよく似合ってるよっ!」
これが狙いだったらしい。
パーティードレスをレンタルすることになって、それを着た私を見たアリスちゃんの言葉だ。
「そうかな……」
試着室で、私は半信半疑のまま、姿見に映った自分を確認する。
うん、まあ、確かにかわいい。……いや、私じゃなくてドレスのほう。
落ち着いた色とデザインで、私好みだ。
「ねえ、お姉ちゃん。私はどうかな?」
一方、アリスちゃんのドレスは肩が露出していて、胸を強調するようなデザインになっている。
「うん。キレイだよ……」
ただ目の前にいるだけなのに、とても目を引く。
私がアリスちゃんを好きだからなのかもしれないけど、それだけが理由じゃない。
やっぱり、アリスちゃんはキレイだ。けど……
私は、なんだか力が抜けてしまった。
「お姉ちゃん、どうかしたの?」
「うぅん、何でもない」
誤魔化す。だって……
「ひょっとして、自分の結婚式だと思ってた?」
「うぇえっ!?」
見事にいい当てられて、私は思わず後ずさる。
でもアリスちゃんもすぐに詰めてくるから、私はあっという間に壁際まで追い詰められた。
「本当にそうなんだあ。ねえ、どうしてそう思ったの?」
アリスちゃんはいたずらっぽい笑みを浮かべて、顔を近づけてくる。
「私と結婚したいの?」
「そっ、それは……」
「んー? 聞こえないよ?」
アリスちゃんの手が、私の太ももに触れる。
ビクンと体が震えたけど、アリスちゃんは気づいていないみたいに、そっと、やさしく、私の太ももを撫でてきた。
や、ヤバい……! やばいやばい!
あの時はキスもされていたけど、今回はただ、太ももを触られているだけ。
くすぐったい……恥ずかしい……
それに、変な気持ちになってくる。まるで自分の気持ちじゃないみたいで、怖い。でも……
「……っっ!」
アリスちゃんの手が、スカートの中に入ってきた。
そのまま、焦らすみたいに、ゆっくり、ゆっくり、捲り上げてくる。
どうしよう、恥ずかしい……怖い……
でも、イヤじゃない。
こういうことされちゃうのかなって想像すると、ほんと、死ぬほど恥ずかしい。逃げちゃいたいくらいに。
でも、逃げられない。うぅん、逃げない。
私は今、自分の意志でここに残ってるんだ。
アリスちゃんの手が上がってくる。
ゆっくり、ゆっくり、スカートをめくられる。下着が見えちゃうくらいに。
かわいいね。
アリスちゃんの唇が、そう動いたように見えた。
そして――
「……ぁあ……んん……っっ!」
今まで感じたことのない刺激に襲われて、声を上げそうになった。
うぅん、上げちゃってた。
アリスちゃんが口を手で塞いでくれなかったら、絶対に上げていた。
外にいるお母さんにも、聞こえちゃうくらいに。
「ダメだよ、我慢しなきゃ。お母さんたちにバレちゃう」
耳元で囁かれて体が震える。
くすぐったさからか、恥ずかしいからか……
そんなの分からない。私の頭にあったのは、たった一つのことだけ。
「どうして……」
気づいたときには、それは言葉になっていた。
「どうして、キスしてくれないの……?」
今まで、ずっとしてきたくせに。
口を塞ぐときだって、手じゃなくて、口で塞いでくれたのに。
なのに、どうして……
「二人とも、そろそろ準備できた?」
急に試着室のドアが開いて、私は心臓が止まるかと思うくらいにビックリした。
顔を覗かせたのは、私とアリスちゃんのWお母さん。
でも私は、声を出すことさえできなかった。
「はい、準備できました」
私の代わりにアリスちゃんが言ってくれる。
そこで、今の状況を思い出してまた心臓が止まりそうになったけど……
いつの間にか、アリスちゃんは私から離れていて、スカートの裾も元に戻っている。
結局、答えは聞けなかったな……
新郎新婦が入場して、ケーキ入刀があって、問題なくプログラムは進んでいく。
……ただ一つ、ブーケトスをお母さんが受け取ったこと以外は。
「あら! あらあらあらあら! 見て、遥香! 私の人生どうなっちゃうのかしら!?」
ホントこの人は……まったく能天気すぎるよなあ。
それに……
「花嫁さん、キレイだったね」
「えー、お姉ちゃんのほうがキレイだよ?」
「あ、ありがとう……」
私の身内、ちょっとマイペースすぎないかな。嬉しいは嬉しいんだけどさ。
結婚式も終わり、私とアリスちゃんはテラスで会話をしていた。
お母さんの用事が終わるまでの、何気ない会話のつもりだったけど……
どうしよう、何話したらいいんだろっ!?
そもそも、私はさっきから、アリスちゃんの顔すらまともに見れていない。
どうしたって、思い出してしまう。
あの刺激だけじゃなくて、自分自身の言葉も。
(――「どうして、キスしてくれないの……?」――)
私、どうしてあんなこと言っちゃったんだろっ!?
結局、お母さんたちが帰ってきても、私はアリスちゃんを見れないままだった。
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