第18話 アリスちゃんとデート(制服編)

「お姉ちゃん! 今度はあっちに行こうよ!」


「ま、待ってアリスちゃんっ!」


 休日。私たちはテーマパークにやって来た。


 アリスちゃんは私の手を引いて小走りしている。


 その様子は本当に楽しそうで、目もキラキラ輝いているんだけど……



 私は全然落ち着かないし、目もちょっと死んでるかもしれない。


 だって、今の私は、高校の制服を着ているから……




 何でもするから、とお風呂で言ってしまった私。


 その発言を基にして、アリスちゃんに一緒に遊びに行こうと誘われた。


 それだけなら全然いい。アリスちゃんと一緒にいるのは楽しいし。でも……




「ねえ、どうして私まで制服着るの?」


「前に言ったじゃん。お姉ちゃんの制服姿見たいって」


 たしかに言ってた。自分の制服姿は見られてるのに私のが見れないのはズルいとかなんとか。



「でも、手を繋ぐくらいならいいけど、腕を組むのは……」


「だって、かわいい自慢のお姉ちゃんを人に見せびらかしたいんだもん」


 そこまで言われれると……うん、まんざらでもない感じがアレな感じだけど。



「お姉ちゃん、とってもよく似合ってるよ。かわいい」


 アリスちゃんはニコニコ笑って私を見ている。……何かモジついてきた。



「あんまり見ないでよ。すっごく恥ずかしいんだから……」


「えー、どうして? 本当にかわいいよ。女子高生にしか見えないよ」


 なんか……反応に困る。喜んでいいのかな、これ。



「それに……スカートも……見えてないよね?」


「大丈夫だよ。ていうか、見せパン穿いてるんでしょ?」


 そうだけど。あんまり落ち着かないから、黒の見せパンを重ね穿きした。制服のスカートって、妙にヒラヒラしてるからなー。


 うぅ……やっぱり気になる。スカートの裾だけじゃなくて、制服を着てるってことが。


 コスプレしやがってとか思われてないかな。


 やっぱり、軽はずみなことは言えないなあ……



 そんなふうに、軽ーく考えてたんだけど……



「はぁ~~……」


 アトラクションから降りたとき、長いため息が出てしまった。


「大丈夫?」


 アリスちゃんが心配してくれてるけど、ちょっぴり複雑。だって、



「アリスちゃんて、絶叫系が好きなんだね」


 来てからというもの、ジェットコースターとか、絶叫系ばかり乗っている。しかも何回も。流石にちょっと……おぉう……


「うん。だって楽しいじゃない?」


 そうかな。


 正直、私にはよく分からない。絶叫系あんまり得意じゃないし。それに、他にも……



「ねえ、ちょっと休憩しない? お腹すいちゃった」


 また乗ろうと言われるような気がしたので牽制する。


 アリスちゃんはすこし考えていたみたいだけど、いいよと答えてくれた。


 くれたんだけど……



「はい、お姉ちゃん、あーんして」


「あ、あーん……」


 イチゴのクレープを食べさせてくれるアリスちゃん。それはもういつものことだし、いいんだ。いいんだけど……



「お姉ちゃん、クリームついてるよ」



 ぺろっ



 いきなり唇の近くを舐められて、思わず変な声を出してしまった。



「ち、ちょっと、アリスちゃん……っ!?」


「だって、クリームがついてたから」


 アリスちゃんは不思議そうな顔をしてる。



「だからって……ダメだよ、他に人もいるんだから……」


「大丈夫だよ。このくらい普通だってば」


 そうかな……いやいや! そんなわけないじゃん!


 この話題、なんかダメな気がする。話変えなきゃ。



「ほら、アリスちゃんもクリームついてるよ。ちょっと待ってて」


 ハンカチで拭こうとすると、


「お姉ちゃんにとってほしいな」


 なんて言われて、手が止まる。



「ハンカチじゃなくて、ぺろってして欲しいの」


「えぇっ!? ど、どうしてそんな……」


「お姉ちゃんにぺろってして欲しくて……だめ?」


 うぅ……この顔には弱いんだよなあ。



 どうしよう、人もいるし、流石に恥ずかしい。でも……


 うっ、アリスちゃんが待ってるっぽい。


 いいや、もう一息にやっちゃえっ!



 目を瞑って、思い切って、ペロッと一舐めした。


 かなり恥ずかしかったけど……まあ、いっか。アリスちゃん、うれしそうだし。



 やってよかった……かも。




 そんなことをしている間に、いつの間にか日は傾いていた。


 あと一時間もすれば閉園で、帰る人も増えてくる時間。私もそうしようかと思ったんだけど、


「ねえ、お姉ちゃん。最後に観覧車乗らない?」


 アリスちゃんに提案された。



「えっ? う、うーん……」


 ちょっと迷う。まあ、大丈夫だよね。


「いいよ乗ろっか」



 私たちの乗ったゴンドラはどんどん昇っていって、町は見る見る小さくなっていく。


 アリスちゃんは窓の外から街を見下ろして楽しそうにしている。


 だけど……



「お姉ちゃん、ここからお家見えたりするかな?」


「さ、流石に見えないんじゃない……?」


 私はといえば、下を見ることなんてできない。できないのに……



 ああっ! ちょ、ちょっと見ちゃった!


 めちゃめちゃ高い! ヤバいヤバいこれ怖いこれ落ちたら死んじゃうこれ!



「お姉ちゃん、大丈夫?」


 気づけば、アリスちゃんの心配そうな目が私を見ていた。


「なんか様子変だよ?」


 そうかな? ……そうかも。下は見れないし、かといってどこを見ればいいのか分からないしで、私の目はキョロキョロしていたかもしれないから。



「ひょっとして、高いところ苦手だった……?」


 そんなことないよと言おうとしたけど、多分信じてもらえないだろうなあ。


 だから私は、ちょっとだけねと答えた。



 でも、アリスちゃんにはバレてしまったらしい。シュンとしてしまった。


「ごめんね、お姉ちゃん。私、知らなくて……」


「いいよ、べつに! 大丈夫だから、気にしないで!」


 慌てて言う。……視線をあっちこっちにさ迷わせながら。



 すると、なにかが私を包み込んでくれた。



 温かくて、柔らかい。それに、なんかいい匂いが……



「ありがとう、お姉ちゃん」


 耳元で、やさしい声が聞こえる。


「私のために頑張ってくれたんだよね。すっごくうれしいよ」


 でも……と、アリスちゃんの声が止まる。



「私、ちょっとだけショックなの。お姉ちゃんのこと、何でも知ってるつもりでいたのに、まだまだ知らないことあるんだなあと思って……

 私ね、お姉ちゃんのことは何でも知りたいの。だから、もっと教えて」



 体が震えた。怖いからじゃない。くすぐったくて、ちょっと恥ずかしくて、でもそれ以上に幸せ……


 自分がどこにいるかがあやふやになって、外の景色なんて目に入らない。すべてがぼやけていって、私の世界に残ったのは、たった一人の女の子だけ……



「っ!?」


 一体、いつの間にされたのか、私は立たされて窓際につかされていた。


「あ、アリスちゃ……!?」


 突然のことに息が詰まる。そんなことをされるなんて、思ってもみなかったから。


 アリスちゃんは私の背に手を回してさすってくれていた。けれど、その手がどんどん下がってきたかと思うと、スカートの中に入ってきて、



「きゃっ!?」


 スカートをめくられた。


「ちょっ、ちょっと、アリスちゃん……やめて……見られちゃうよ」


「どうして? 見せパン穿いてるじゃん。大丈夫だよ」


「そうだけど……そういうことじゃなくて……」



 じゃあ、とアリスちゃんは言う。


 その顔には、いつもとは違う、ちょっと意地悪な笑みが浮かんでいる。


「お姉ちゃんもめくっていいよ。私のスカート」


「な、なん……っ!?」



 そ、そんなこと言われたって……


 アリスちゃんの体……白くて、繊細で、冗談みたいにスタイルがよくて……


 触ってみたい。どんな感じなのかな? アリスちゃん、どんな顔するかな? ビックリするかな……


 あれ? でも、スカートめくっていいよとは言われたけど、触っていいよとは言われてないっけ。


 じゃあ、体に触らないように、スカートだけめくらなきゃ……


 だめ、なんか、頭が混乱して……



「っ!?」



 また息が詰まる。


 アリスちゃんは私のスカートをめくりあげたまま、今度は見せパンを引っ張っておしりに食い込ませてきて……!?



「やっ、やだやだやめて! ほんとにヤバいってば……!」


 こんなカッコ誰かに見られたら、私……


 必死にスカートの裾を引っ張るけど、だめだ。アリスちゃんの手のせいで、隠したい部分を全然隠せない……



 これ、パンツ見えちゃってるよね?


 それだけじゃなくて、おしりまで。外の人に、全部見られて……



「大丈夫だよ」


 アリスちゃんが、私の耳元で囁く。


「ゴンドラ、今一番上に来てるから、外の人には見られないよ」


 確かめようと後ろを見ようとして、


「だめ」


 アリスちゃんに両手で頬を挟まれた。


 そのまま、アリスちゃんのほうをむかされる。



「外見たらダメだよ。私のことだけ見てて。できる?」


「う、うん……」


 アリスちゃんの青い目が、まっすぐに私を見てる。



 私の世界から音は消えて、聞こえるのは、私の心臓の音だけ。


 うぅん、ひょっとしたら、アリスちゃんのかも……?


 アリスちゃんが、近づいてくる。あれ? 私、本当にアリスちゃんに吸い込まれそうになって……?



 でも、違った。


 私の体に、甘くて酸っぱい味が広がっていく。


 何だか、いつもよりも甘くて、温かくて、それに優しい……



「っ……まだ怖い?」


「……まだ、ちょっとだけ怖いかも」


「ふふっ。じゃあ、もう一回」



 今度は、さっきよりも強い刺激。


 それはあっという間に私の世界を飲み込んでいって、最後にはアリスちゃんしか残らなかった――



 ――――



 ――――――――



 帰路についたとき、もう日は暮れて薄暗くなっていた。


 いたんだけど……


「えへへ。お姉ちゃぁん」


 アリスちゃんが笑顔なんだろうなーってことは見なくても分かった。


 彼女は観覧車を降りてから、私の腕にしがみついたままだ。



「どうしたの? なんか楽しそう」


「観覧車でのお姉ちゃん、かわいかったなーって思って」


「や、やめてよ。ほんとにビックリしたんだからね?」


「ひどいなー。私だって、お姉ちゃんの恥ずかしいカッコを人に見られたくないよ」


「もう……」


 おしりを抑えるようにしてスカートの裾を触る。何だか、行くときよりも裾が気になる。感覚が残っているような気がして、つい。それに……


 思い出させるのはやめてほしいなあ。なんか素に戻った感じになるから。


 まあ、いっか。アリスちゃん、喜んでくれてるみたいだし。それに、私も楽しかったから。




「ただいまー」


 玄関に入ると、すぐに異変に気づく。見慣れない靴が一足あった。


 お客さんかな? 誰だろう……


 内心首を傾げつつ、アリスちゃんとリビングに行くと、



「あら、二人ともお帰りなさい」


 私たちを出迎えてくれたのはお母さんと……



「久しぶり、アリス」


 アリスちゃんのお母さん、だった。

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