第11話 その再会は、必然
私は昔から遥香お姉ちゃんが大好きだ。
初めて会ったのは、忘れもしない十二年前。私がまだ幼稚園に通っていたときのこと。
でも当時の私は、まだお姉ちゃんのことが好きじゃなかった。
幼稚園で浮いていて、どんどん口数が少なくなって、笑うことだってなくなっていた。あの時の私は、お世辞にも愛想のいい子供じゃなかった。
そんな私にも、お姉ちゃんはめげずに話しかけてくれた。笑いかけてくれて、一緒に遊んでくれて、色々なところに連れていってくれた。
いつの間にか私は笑えるようになって、お姉ちゃんと会うのが楽しみで仕方がなくなったけど……
パパの仕事の都合で、イギリスへ引っ越さなきゃいけなくなったのは、そのすぐ後だった。
イヤでイヤで仕方なかった。どうしてもっと早くお姉ちゃんを好きにならなかったんだろうって後悔して、だから……
高校に進学する時、お姉ちゃんの家の近くの学校にしようって決めたんだ――
「おはようございます」
リビングに入ると、もうおばさんは朝食の準備を始めていた。
その準備を手伝うのが、私の最初の仕事だ。
そして準備が終わる頃、
「うぅー……」
頭をポリポリかきながら、遥香お姉ちゃんが入ってきた。
「おはよう、お姉ちゃんっ!」
すると、お姉ちゃんは「うんー……」と眠そうながらも答えてくれた。やさしいなあ。
「あんたね、もっとしゃんとしなさいよ。アリスちゃんもいるんだから」
おばさんの言葉には、お姉ちゃんはあくびを噛み殺しながら「んー……」なんて言っている。かわいい。
そのまま机に突っ伏して、お姉ちゃんはスマホをいじり始めた。
お姉ちゃんはいつもこんな感じだ。朝が弱いらしい。
「まったく、最近早起きするようになったと思ったのに。だらしないんだから」
たしかに、お姉ちゃんは私が来た直後よりも早起きになっている。
……もしかしてだけど、これはアレかな。私が添い寝してたからかな。
照れてるのかなあ。お姉ちゃんたらかわいい!
なんて思いつつ、朝食のお手伝いを続ける。
おばさんがお姉ちゃんに「あんたも手伝いなさい」と言っているけど、お姉ちゃんはやっぱり生返事だった。
朝食を食べると、流石の低血圧でも頭が働きだすらしい。
お姉ちゃんは、私と一緒に食器を洗っていた。……お姉ちゃんはおばさんにやるよう言われたからだけど。
「お姉ちゃん、今日は大学あるの?」
「んー……うん」
「アルバイトはあるの?」
「……うぅん」
「ないなら一緒に帰りたいな。時間合わせられない?」
「んー……」
訂正。
お姉ちゃんの頭は、まだあんまり動いてないっぽい。
ていうか大丈夫かな? 仕事始めたらどうするつもりなんだろう。
隣を見ると、そこではお姉ちゃんがあくびをしながらお皿を洗ってる。
なんかなあ、なんだろう……かわいい。
お姉ちゃんがしていると、どんなことでもかわいく見える。
なんでもないことですっごく温かい気持ちになって、たまらなくなって……
「お姉ちゃんっ」
「? なぁに……っ!?」
私は拭いていたお皿を置いて、お姉ちゃんの服の裾を引っ張っる。それからちょっと屈んで、お姉ちゃんと唇を触れ合わせた。
お姉ちゃんは驚いた顔になった。最初のころは抵抗したり逃げようとしてたのに、最近は私を受け入れてくれる。
……あ、ビクってなった。ふふっ、かわいいなあ……
「だ、ダメ……っ! アリスちゃ……んっ……バレちゃうってば……!」
「大丈夫。ここ影になってるし、バレないよ。……声出さなければね」
最後に耳元で囁いて、お姉ちゃんの口を強く塞ぐ。
お姉ちゃん、また体震えてる。でも今度は自分から唇を押し付けてくれるんだ……
ちょっと体も強張ってるのに、必死に……かわいい……
「お姉ちゃん、目は覚めた?」
お姉ちゃんは何度か瞬きをして、私から目をそらしちゃった。
どうしよう……もっとしたいけど、前みたいになっちゃったらイヤだし。
仕方ない。とりあえず片づけを終わらせて……
そのとき、お姉ちゃんに服の裾を引っ張られる。見ると、視線はそらしたまま、
「私、まだ眠い……かも……」
「おはよーおねえちゃーーんっ!!」
たまらなくなってお姉ちゃんに抱き着く。と、
「ちょ、ちょっと……アリスちゃ……きゃあっ!?」
勢いがつきすぎたみたい。私たちはその場に倒れこんでしまった。
「ご、ごめんお姉ちゃん! だいじょう……ぶ……」
語尾がどんどん小さくなっていく。
期せずして、お姉ちゃんを押し倒したみたいになってしまって、そんな状態でもお姉ちゃんはまっすぐに私を見つめてくれていて……
「んっ……お姉ちゃん、好き……大好き……」
「私も、大好きだよ……アリスちゃん……」
唇を触れ合わせて、手を絡め合って……ダメ、こんなんじゃ……もっと、もっと触れ合いたいっ!
唇とか、手だけじゃなくて、もっと深くまで……体を擦り合わせて……
「二人とも大丈夫!?」
「「っっ!!??」」
そこからはすごかった。
私たちはバネみたいに飛び跳ねてその場に座る。
視線の先にはおばさんが心配そうな顔で立っていた。
「大丈夫です。ちょっとバランスを崩して転んじゃって……お姉ちゃん、ケガはない?」
「う、うん。だいじょうぶ……」
お姉ちゃんは動揺しているらしい。答えを聞くと、おばさんは「気をつけてね」と言ってリビングに戻った。
笑顔でそれを見送って……私は深くため息をつく。
あ、危なかった。バレるところだった。
横ではお姉ちゃんも安堵の息をついていて、それがなんだかおかしくて、私はちょっと笑ってしまった。すると、つられたみたいにお姉ちゃんも笑いだして……
何かを言ったり、合図をしたわけでもないのに、啄むみたいに唇を合わせて。
ああ、なんか、幸せだなあ……
「お姉ちゃん、結婚して」
「そっ、それは、その……」
うーん、まだダメみたい。
こればかりは仕方ないよね。でも、でもいつの日か、私を受け入れてくれますように。
その日までは、これで満足しよう。
私がそっと唇を合わせると、ちょっと控えめではあったけど、お姉ちゃんは受け入れてくれた――
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