肯定か否か
ロビンさんは、僕もサンクチュアリの住人だという事を知って驚き、また喜んでくれたようだった。
「まさかこんな所でフラットメイトに会えるなんてね。ビックリだよ」
「本当ですね!」
「君と一緒にあそこで暮らせるというのは嬉しいよ。君は優しい人間のようだから」
「い、いやそんな事ないですよ」
褒められるのは嬉しいけど、なりふり構わず川へ飛び込んだ本当に優しい人に言われても困る。僕は二人にタオルをあげただけし。
「でも、無関係だと逃げる事も出来たのに、君は本気で心配していただろう」
「ええ、まあ……」
「それが優しいと言っているんだよ」
ロビンさんのあまりにもストレートな言葉に、僕は一瞬息を呑んでしまった。さらりとこういう事を言えるのって凄いな。
「お兄ちゃん達! 二人とも、ありがとねー! またねー!」と大きく手を振るメアリーちゃんや、彼女に合わせて「ワン!」と吠えるマルチーズのメルちゃんとの別れが思いのほか名残惜しく、少ししんみりとしてしまった僕だけど、ロビンさんと一緒のベーカー街への道のりは話が尽きる事がなく、とても楽しかった。
ロビンさんは画家だと言っていたので、どんな絵を描いているのかを聞いたり、
(主に風景画を描いているのだそうだ。今度見せてあげるとロビンさんは言ってくれた)
どうしてそんなに泳ぎが上手いのかを聞いたりした。
(子供の頃に沢山練習したからね、とごく簡単に返された)
また、ロシアに住んでいたそうなので、新聞に載っていたあの事件の事も聞いてみた。
「そうだね、あれは凄い騒ぎだったね……。組織の首謀者らが死んだ後も、色んな所で色んな人が行方不明になったり逮捕されたりしていたなあ」
「ゆ、行方不明?」何それ怖い。
「裏の世界では色々あるんだよ。結局は皆、自分の罪から逃れられやしないんだ」
ロビンさんがやけにしみじみと言うので、僕は思わずその横顔を見つめた。
「でも、犯人はまだ分かっていないんですよね?」
「ああ……そうらしいね」
「何ででしょうね。これだけ大騒ぎになれば普通、そんなのすぐに分かりそうなものじゃないですか。単独犯ならなおさら」
「まあねえ」
「やっぱりマフィアとかの……複数人による襲撃なんですかね。それで組織が庇ってるから明るみに出ないとか……。僕は、どんな凄腕の殺し屋でも、一人じゃとても組織を壊滅させる事なんて出来ないと思うんです。友達は『そこを何とかするのがプロの殺し屋なんだよ』って言い張るんですけど」
「おやおや」
陰鬱な話をしている最中だというのに、ロビンさんはけらけらと笑った。
「君の友人はなかなか……想像力豊かだね」
マイクの説を否定しているのか、それとも肯定しているのか……ちょっとよく分からない答え方だった。
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