出て行くものか、絶対に!
僕はその場に膝から崩れ落ちた。
この状況は圧倒的に不利だ。僕は一体どうしたら良いんだろう!
ロビンさんとホームズさんが恋敵であるばかりか、ここに住むことさえダメになるなんて!!
「クックック……」振り返ると、ロビンさんが肩を震わせて笑っていた。
「なんで笑うんですか、ロビンさん……」
今の電話のどこに笑いのポイントがあったのか、伺いたいですね!
怒りは体に力を与えてくれるらしい。気づくと僕は、拳を握り立ち上がっていた。
もうどうにでもなれ、という気持ちで一歩を踏み出す。ロビンさんのそばへ。
「うわ、落ち着こうよマフィン君。ほら、窓の外を見てごらん。あんなに空が綺麗なんだからさ、暴力沙汰は控えたいよ」
「あなたに言われたくありません!」昨夜暴力を振るっていたのはどこの誰だよ?
僕が精一杯睨みつけると、ロビンさんは目を
「あ、何か勘違いをしているね? 僕は別に、『暴力を振るうのは止めなさい』って言っているんじゃないんだ」
「……どう言う意味です?」
「君がその拳をどこに当てようが、僕は全く構わない。でも君は、大事な最後の一日を、ここではなく病院で過ごす事になるのは嫌だよね?」
一瞬、怒りで頭が爆発しそうになり、目の前が真っ赤になった。
へえ、こういうことを言うんだなこの人は! 煮えくりかえる気持ちを押し殺し、やっとのことで「脅しですか?」と言うと、ロビンさんは悠々と僕に背を向けた。
「……いやいや、君は暴力ではなく、言葉で淡々と気持ちを伝える方が良いって事だよ。それと、怒りの当てどころは、きちんと選ぼうっていう話」
「当てどころ?」
「ちょうどユウミさんがご飯の支度をしてくれたからね、シャーロックは今、ダイニングルームにいるよ」
部屋に入るや否や、「そこの棚にある塩を取ってくれ」と、シャーロックさんが言った。
「嫌ですね」と僕は言い、さっさと席に着いた。ロビンさんは既に食事を始めている。
「機嫌が悪いな」
「ええ、おかげさまで」
僕はテーブル越しにホームズさんを睨みつけ、思い切りウインナーにフォークを突き刺した。
「どうして母の依頼を引き受けたんですか? 『助手になれ』って誘ったのは貴方でしょ!」
「気が変わったからだ。お前さんまでもがユウミさんを想っていると知った、その時にな」
うわあ、想像はしていたけど、自己中心的過ぎる……。
塩なしでゆで卵を食べ始めたホームズさんを見ながら二の句を告げずにいると、「よくあることだよ。出生時に月が双子座にあると、意見をくるくる
「でも、マフィン君。シャーロックの方から君を解放してくれるって言うんだから、むしろ喜ぶべきだよ。実は僕も心配していたんだ。この唐変木の助手でいるとね、そうだなあ……確率的には二.五%くらいになっちゃうからね」
「何がですか」
「君が来年まで生きている可能性だよ」
「ひ、低っ……!」僕は思わずテーブルに身を乗り出した。
「ど、どういう意味ですか!!」
でもホームズさんは答えず、僕の顔も見ようとしない。
少しの沈黙の後、ロビンさんが「単純に、冷酷なんだよ」と言った。
「利用出来るものなら、何でも利用する。目的のためなら手段は選ばない。そういうこと」
「……お前もそうだろうが」ホームズさんがゆっくりとバターナイフをロビンさんに向けた。
「まあね、僕も人のこと言えないけど」
――いや、ちょっと待て。これってどういう脅しだよ。
聞いていて馬鹿らしくなり、僕は苦笑しながら椅子に寄りかかった。
ふううん、「僕らに関わると死ぬ。だからカルフォルニアへ行け。その方が安全だ」?
何だよそれ。聞いたことないよ。それで僕が怯えて出て行けば、恋敵が減って万々歳? 何それ。
「……その手には乗りませんよ」僕は大きく息を吸い込み、それから吐き出した。
「僕は出て行きませんからね」
「は? それ、本気で言っているの?」ロビンさんは訝し気に片眉を上げる。
「本気ですとも」
「うわあ」
「ここまで物分かりの悪い奴は初めてだ」
「あっそうですか! でも、とにかく出て行きませんから。母が来ようが何だろうが、絶対に」
バン、とテーブルを叩いて僕は立ち上がった。
「殺されたって出て行きませんから!!」
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