第七章/嘘だろ マイ・ラブ!

百万本の薔薇の花を

 ホームズさんに置いてけぼりにされた僕は、四十分ぐらいかけて、えっちらおっちらサンクチュアリに戻って来た。そしたら、ロビンさんにいきなり言われた。「どうして薔薇なんか買って来たんだい?」って。

 ロビンさんは、僕が帰り道に花屋で見つけて買った黄色い薔薇の鉢植えが、何故か気に入らないらしい。まるで睨むようにして見ている。


「どうしてって……別にいいじゃないですか」


 何かムカッとして来た。だって、ロビンさんは半開きの扉の前に立ち塞がっていて、僕を玄関に入れてくれないんだ。道は遠かったし、鉢植えは重かったし、一刻も早く一息つきたいのに。

 それに、僕だってロビンさんに色々聞きたいことがあるよ。


「あの、ロビンさんは何であの人形の目玉を僕の髪にくっつけたんですか? あれで盗聴してたんですか?」

「そうだけど、話を逸らさないでくれるかな。僕は薔薇のことを聞いてるんだよ」

「え……何だっていいじゃないですか」


 ヘレンさんの事故でめちゃくちゃになった花壇の代わりに……と思って買って来た薔薇ですよ。太陽みたいにパアッと明るい色で綺麗だし、ユウミさんに喜んで頂きたくて……とは、とてもじゃないけど恥ずかしくて言えない。


「何だ、どうした」


 声がして顔を上げると、ホームズさんが眠そうな目をしながら階段を降りて来るのが見えた。服はしわくちゃだし、頭もボサボサだ。今まで寝てたのかなこの人。

 と、ホームズさんは立ち止まり、僕が抱えた鉢植えを見て「おい、何故薔薇を……」と絶句する。その後すぐ、懐から端末を取り出して何かボチボチやっていた。

 もう、意味わかんないよ。何でホームズさんまでこんなに驚くんだ? 薔薇がどうしたんだよ?! 


 僕はロビンさんを押し退け、黙って玄関に入ろうとした。けど……入れなかった。何故なら玄関は足の踏み場もなかったからだ。



 赤や白の薔薇・薔薇・薔薇・薔薇・薔薇だらけで!!



「えっとね、マフィン君に提案があるんだ」


 言葉を失くした僕の横で、ロビンさんがコホン、と咳払いをした。


「今すぐ荷物をまとめて、お母さんのお家に行った方が良いんじゃないかな」

「そうだ、早くカリフォルニアへ行け」とホームズさんも言う。いや、あの……

「な、何言ってんですか?!」


 僕にこのサンクチュアリから出て行けって?!


「何でですか?!」

「おふくろさんは歓迎してくれるだろうが」

「はあ?!」


 それが嫌だから、僕は家出同然に引っ越して来たんだよ!!

もし母さんと一緒にカリフォルニアに行ってたら、一生レタスにレタスにレタスにレタスの悲惨な生活が続くことになるに決まってるんだ。

 それはホームズさんも知ってるでしょ?! 初めてバーツで会った時に推理してたじゃん!! てか、助手の話はどうした!!


「僕はサンクチュアリと同等の下宿をいくつか知ってるよ。お母さんの所が嫌なら、そこへ引っ越せば良い」


 ロビンさん、悪いけど全然ありがたくない!!


「でもさ……今出て行った方が、君のためだよ」


 ロビンさんはため息をつきながら長いまつ毛を伏せる。


「心の傷が浅い内にね」

「は? どういう意味ですか?!」

「何故なら、お前さんの望みは叶わないからだ。ユウミさんは……未来の」


 そして、二人は同時にとんでもない事を言った。


「俺の嫁さんだ」

「僕の奥さんだ」


 ちょっと待てやああああああああーーーーーーーーっ!!

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