コレは夢?!

 しかし、だ。途端に何か丸いものに躓いて、転びそうになった。

 不思議に思って足元を見ると、あのフランス人形の首がそこにあり、青いガラス玉の瞳で僕を見つめていた。

 何だ……さっきホームズさんが壊したからか……。

 少々ドキッとはしたものの、こんなことに構ってはいられない。僕は首をそのままにして、歩き出そうとした。ところがその時だ。人形は不意に悪魔のような形相になると、牙を剥き出して「シャァァァア」と僕に威嚇して来たのだ!


 うわあああああ!! 化け物!!


 僕は椅子ごと後ろにひっくり返り、頭や腕を嫌と言うほどテーブルの足にぶつけた。その痛いのなんのって……唸りながら僕は、絨毯の上をゴロゴロ転がった。

 でも本当にびっくりしたのはその後だ。なんと「ヒヒヒヒヒ」と不気味に笑いながら僕のそばへ、人形の首が転がってくるではないか!


 何なの?! ねえ、何なの?! コレは夢?!

 どうして人形が動いたり笑ったりしてるんだ?!


 腰が抜けてしまった。でもこれに追いつかれたらどうなるんだ……? 考えるだけでも恐ろしい。僕は必死に床を這い、キッチンの扉に向かう!

 ただ、人形が変な笑い方をしながら後ろに迫って来ているせいもあるとは思うけど、扉までの距離がすごく遠く感じて、気が狂いそうになった。


 辿り着いたら辿り着いたで、ドアノブを動かすのに手こずった。

 なんせ、中腰がやっとだ! まともに立ち上がれない! 冷や汗で手がずるずる滑る! 何度悲鳴を上げても、ロビンさんたちは喧嘩に夢中で、僕を気にしてくれないし! もうどうしたら良いんだよ?!


 その時、僕の頭の後ろで「ガチャ」と音を立て、キッチンの扉が勢いよく開いた。

 僕の制止は間に合わず、ユウミさんはいくつもの料理を乗せたお盆を抱え、にっこりと微笑みながら入って来た。


「皆さん、お待たせしました!」


 ああああ、ダメだよユウミさん!! 入って来ちゃ危ないよ!!

 

 ……血の気が引いたが、その途端だった。

 人形はハッとした表情を浮かべてテーブルの下へ姿を消し、ロビンさんとホームズさんはピタッと動きを止めた。そればかりか急に満面の笑みを浮かべ、何事もなかったかのように椅子に腰を下ろした。


「ユウミさん、ありがとうございます! とても楽しみにしていました。おや、これは僕の大好物じゃないですか!」

「これは素晴らしい!! ファンタスティックだ! ああ、ユウミさん、お疲れでしょう? 後は私達で運びますから、構わず休んでください。ささ、その椅子にでも座って……」


 おい……

 何だよその変わりようは?!

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