目には目を。マシンガントークにはマシンガントークだ。

『何言ってんのよ!! 私がそれを認める訳ないでしょう!!』


 ――これは、僕が家に帰る道すがら、マイクの携帯を借りてサンクチュアリの話をした途端、母さんが叫んだ言葉である。


『私に何の連絡もなく一日留守にしたと思ったら、そんなとこに行っていたなんて! アンタは私と一緒にカリフォルニアに行くのよ! それしか選択肢は無いの! 馬鹿な事を言うのはやめなさい!』

「そ、そんな選択肢なんか、クソ喰らえだよ……!」

『まぁ! なんて事を言うの!!』

「だって、僕の夢は野菜を作る事じゃない! 畑の手伝いなんて嫌だ! レタスなんて嫌いだ!」

『はあ?! アンタは甘い、甘い、甘過ぎるわ! ウチの苺とおんなじくらい甘いっ!!

世の中を舐めてるでしょう!! 夢見る仕事に就いている人なんて、ほんの一握りしかいないのよ!!』

「どうして僕が、その一握りの人間になれないって断言出来るんだよ?!」

『アンタは大学に落ちたでしょうが!!』


 つまりそういう事なのよ! そう一言母さんは叫び、電話を切ってしまった。全く酷い。酷すぎる。


「困ったなあ……」僕は空を仰いだ。

「母さんが保証人になってくれないと住めないのに……」

「え、保証人?」マイクは僕の顔を覗き込んだ。

「問題はそれだけ?」

「うん。お金は大丈夫なんだ。伯父さんが残してくれたのがあるから」


 来年の試験の時まで下宿に住む為にそのお金を使わせてもらっても、伯父さんは怒らないだろう。医者になる事、これは僕だけの夢ではなく、伯父さんとの約束でもあったのだから。


「そっか、なら問題ないね!」マイクはいたずらっ子のようにニヤリと笑った。

「え?」

「僕のお爺ちゃんに頼めば良いんだよ。ジョンの伯父さんは、僕のお爺ちゃんの親友だったんだからね。きっと一肌脱いでくれるって! 今から電話してみよう」


 ピ、ポ、パ、ポ……


 最初のコールで電話は繋がり、更にマイクの第一声「お爺ちゃん! ジョ…じゃなくてリーハの下宿の保証人になってあげてよ!」で全ては完了した。


『オッケー!』


 マジか……。本当にマジか……




 それから何日かが瞬く間に過ぎた。

 僕は下宿住まいを諦めたふりをして、「カルフォルニアってどういう所なんだろうね」とか言いながらせっせと引っ越しのための荷造りをした。マイクも来て手伝ってくれた。

 マイクのお爺ちゃんは、「お母さんのことは心配しなくて良い。私が話をつけるからね」とも言ってくれたので、気がかりなことは何もない。凄く爽やかな気分だ!



 そしてついに出発の日が来た。「図書館に行ってくる」と嘘をついて家を出た僕は、駅から母さんに電話をかけた。さすがに帰らないことを黙ってはいられない。


 よし。


 目には目を。

 マシンガントークにはマシンガントークで行こう←


「はい、もしもしアンジェラで…「母さん! 実は『図書館に行く』って言ったのは嘘なんだ! ごめん! それでね、僕はもう家に帰らないよ。僕はこないだ話した下宿に住む事にしたんだ。家賃は安いし、すっごく良いところだから。大家さんも優しいんだよ。だからお願い! 母さん、もう一度だけチャンスをちょうだい! 僕はそこで一年間勉強を頑張るから! それで、来年こそは絶対に大学に入ってみせるから! じゃあ、またね! 何かあったら連絡するね!」


 ガチャン!


 勝った、勝ったと思う…!

 僕は勝利に酔いながら受話器を置いた。

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