第3話 幸運的な出会い
俺は今、暖かくも酷く冷めきった食事をしている。
木組みで暖炉のある暖かい小屋で……。
森の入り口、そこから少し進んだところで倒れていたらしい。
「ほら。これもお食べ。あんなところで倒れていたんだしっかり食べなきゃダメだよ!」
「ふぉふぉ。そうじゃ、まずは腹を満たすと良いぞ」
らしい……ということをこの人たちが教えてくれた。
やっぱり夢ではなかった。父と母……「俺」という人格を形成した地球に存在したある意味”本物の父と母”とは違う二度目の人生の父と母を失ったこと、その事実に俺は悲しんでいること。
不思議だった。転生したラノベの主人公、それも良い年をした男が”偽物の親”になぜ愛が生まれるのか。
そうだ。自分を愛してくれた人に本物も偽物もない、第二の親を殺されてそんな知りたくもないことを知った。
カタリ、と食器を置き俺は深々と礼をする。
「わざわざ作りたての食事ありがとうございました。それに服まで用意していただけるなんて感謝のしようもないです……」
「はっははは!若いのがそんな気を使うもんじゃないよ!」
豪快に笑っているところをみれば気のいい人だとわかるこのおばさんは俺に料理を振る舞ってくれた。
「ふぉふぉ!お前さんの背丈に合うか不安だったがぴったしのようでよかったわい」
こちらもまた穏やかな正確なのがひと目でわかる。
二人合わせたらまるで老夫婦のようだ。
二人とも姿が少し透けているように見えるのは気のせいだろう。
「あらあら。目覚めたのね坊や~?」
ちょうど来たみたいだ。
「あの、あなたが僕をここまで運んでくれたと聞いています。その、ありがとうございます助かりました」
「坊や。その、あなたは何であんなところで倒れていたのかしら……?」
「実は……」
俺はこれまでの村を出ることになった経緯を話した。
転生者であることは言う必要もないだろうから省いた。
才能を期待され、沢山の人に可愛がってもらったこと。
儀式で期待はずれ、それも異教徒扱いされてしばらくしてから両親が血祭りにあげられたこと。
そして自分も危うく殺されかけて必死に逃げてきたこと……。
「……大変だった。という同情はすべきでないと思うのだけれど大変だったわねぇ。それで?あなたはこれからどうしていくつもりなのかしら?」
手持ち無沙汰な俺に突き放すような言い方だがこれはこの世界ならば当たり前だろう。
そもそも子供とはいえ行き倒れの人間を助けて食事と寝床を貸すだなんてお人好しも良いところだ。
これ以上迷惑はかけられない。
「森を出てどこか街にでも出て仕事を探そうと思います、それがだめなら物乞いでも」
「あらぁ?健気なことね~?」
でも、と彼女は続く。
「この森からは出ることができないのよぉ」
と、そこへ翁が入ってくる。
「ふぉふぉ!主やそれ以上いじめるのは可哀想にございますぞ」
「そうだよ!もうちっと分かりやすく説明したあげな!」
婆も入ってきた。それにしても『主』ってどういうことだ?
「あら?私たちが普通ではないとわかるのね。仕方ないわこれも何かの縁と思って特別に教えてあげるわ」
そう言って口元に笑みを浮かべながら彼女は言った。
自分は魔女の一族であること。
もうしばらく街には行ってないこと。
この森は彼女が管理していて結界によって行き来が制限されていること。
婆と翁は遥か昔、魔女に使えていた人族であること。
婆と翁は今となっては幽霊種であること。
そして……
「俺と同じで異端者扱いされてる、か?」
何とも奇遇、運命いや神様のいたずらなのかもしれない。
何はともあれ運が良い。異端者扱いされた者同士ならば友好的な関係を築くことができるかもしれない。
それがビジネスライクな協力関係でも構わないしどちらにしても俺にとってはメリットだ。
「はあ。それにしてもここはいくらあなたが異端者扱いされた私と同類とはいえ入ってこれるような場所ではないのよ?」
「いや、そんなこと言われてもな……入ってこれたのは事実なんだから。結界に欠陥があったとかじゃないんだろ?」
どうやら彼女、いやネリアは数百年と生きているらしいが幼い頃異端者扱いされ魔女の一族の手から母親と一緒に逃げたらしい。
100年もしないうちに母を殺されてしまい苦肉の策でこの森を隠れ蓑にしているうちに結界の効力が高くなって今では普通の人間なら森を認識することですらできないとか。
100年単位なのがどうしても気になるが長命な魔女の一族ならではのスケールの大きさだ。
「まあそんなわけだから。でも、あなたはこの森で一生を終わらしたくはないのでしょう?」
「ああ。俺にはやらなければならいないことがたくさんある」
「そうでしょうね。でも今は出してやらないわ。あなたが一人でも生きていける……そうね、一人ですべてに抗えるぐらい強くなってもらうまでは、ね」
「俺はお前たちほど長くは生きてられないんだけど」
「ふぉふぉ!大丈夫にございます。我らもネリア様に鍛えられた者ゆえ、最後は……に……しまいましたが」
「え……?」
「あんたが気にすることじゃないから平気よ!だけど大丈夫よ、私だってネリア様に鍛えられて強くなった!あんたもきっと強くなれるさ」
強くなれるなら損はない。いやこの世界なら良いこと尽くしだ。
俺はその日からネリアに鍛えてもらうことにした。
地獄の日々とは露知らず。
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