第2話 二度目の一歩目
俺の人生が終わった、そしてもう一度人生を歩むことができるらしい。
だがどうしてだろうか。
とても暗いし何も感じられない。
これでは人生が始まる前に退場することになってしまう、行きが苦しい!
クソっ出口はどこだ!?
うお!?
瞬間、耳を刺すようなそれでいて喜びを含めたような音が鳴り響く。産声だ。
あ、そっか。俺赤ん坊から再出発だったわな。
自分の喉から発せられた音を聞きながらようやく気づく。
「あなた!元気な男の子よ」
「ああ!よくぞ!よくぞ頑張ってくれたフレイ。この子の名前はアルペ、アルペだ!きっとこの村一の、いやこの国一の作家にして見せるぞ!」
は?作家……だと。んあ?眠気が……強い……。
俺の第二の人生が始まって10年後……
「アルペ、やっぱりお前は天才の物語師になれるぞ!」
「アルペ、あなたはきっとこの国一番の幸せを手に入れられるわ」
両親はずっとおおはしゃぎ。村のみんなも村長もみんな俺をちやほやさせてくれる。
そうして俺はすくすくと育った。
まるで乙女にでもなった気分になってしまうが中身がおっさんなもので時々心配になる。
だが、俺の誕生日。すべての平和が崩れた。
俺の誕生日は今年で10回目。そして齢10にもなる子供には儀式が待ち構えている。
【語り手授かりの儀】
儀式の内容はそれぞれが本を授かる。
それだけのものなのだが、そう簡単なものではない。
授かる本の外観と出来映えによって人生の左右が決まってしまうのだ。場合によっては死刑。
意味わからん。
そしてお察しの通り、当然のように期待されていた俺は期待はずれだと言われてしまった。
挙げ句の果てに村から出ていってくれと……
父親と母親は村長宅からしばらく出てこない。
俺は残り三日でこの村からでなければならない。
それまでにすべての準備を終えて父親と母親にも別れぐらいは済ませておきたい。
「アルペ!」
「おわっ!?……ってなんだリンラルかよ。あんまり俺と関わんない方が良いと思うぞ」
「まったく。僕を舐めないでほしいなぁ?僕は君が授かった本ごときで君を評価なんてしないさ。きっと君の両親も同じことを考えているはずさ」
あ、そうそうと言ってリンラルは服の中から小袋を取り出した。
「これ。僕からの選別、持っていきな」
「お前……これどうしたんだよ」
中身は袋一杯の銀貨。これほどの大金なんて持っているのはこの村でも村長一家ぐらいだ。
「ふん!あの頑固で馬鹿な親父からちょっとばかし猫ばばしても罰当たりなんかなりはしないさ!それより言うことがあるんじゃないのかい!?」
「お、おお。やっぱり盗んでやがったか。いやありがとう、これだけあれば王都に出向くまでなんとかなりそうだよ」
「ふふん。わかればよろしい」
そう言って満足げに頷くリンラル。
こいつは人の本質を見抜くのに長けていて気も利かせられる。授かった本もたしか『妖精の目次録』とかいって大層なものらしい。完璧超人だ。
村長の息子娘は沢山いるが次期村長はリンラルで間違いないと言われている。
まあ当の本人は村長である父親を嫌っていて村長になる気もないと言っているが……。
「じゃあ僕はここら辺で失礼するよ」
「おう。ありがとな」
さて。今日はもう暗い。相変わらず父も母も帰ってこないけど今日はもう寝よう。
そうして俺は呑気に父も母も何事もなく帰ってくると思い込んでいた。
異変に気づいたのはその日の夜だった。
村の井戸から水を汲むのは禁止されているから川まで水の補給をしに行った帰り、村がやけに騒がしいと思い物陰からこっそりと覗くと何やらかがり火を焚き、赤い何かが吊るされているのが見えた。
「はぁ……???」
それが何であるか分かった俺は膝が抜けた。
最悪最低、何てことだ。そんなことがあって良いわけがない。違うと信じたい。
だって、だって。あれは……
「父さん?母さん?」
村人の盛り上がりが一層激しくなった。
「はぁっはははは!!見ろ!これが異教徒を作り上げた男と女の末路だ!!三日三晩洗礼によって浄化したことでこやつらの罪も許されようぞ!?」
な、何が洗礼だ……?何を言っているんだ?
ありえないだろ。こんなことは。
酷い。酷すぎる。刺し傷に殴打された跡、皮が剥がされた跡まである。それに母は弄ばれた跡まで……。
あの厳しく威厳のあった父も優しく誰よりも可愛がってくれた母も、見る影もない。
『アルペっ!逃げて、今すぐに!』
っ……!リンラルの声だ。
『いいから!!君の父が!母が!願った幸せは君だけのものじゃない!』
だけど……父と母が弄ばれたんだ。
いつか、いつか絶対に報いを受けさせてやる。
それまで、それまでは……
『そうだね。いつかこのクソッタレな村から僕を連れ去ってくれ。でもそれまではダメだよ!』
「絶対に、絶対に許さない!!」
『アルペ逃げて!早くっ!!』
「おい!異教徒のガキがいるぞ!?」
「捕まえろっ!」
「村の平和は乱させんぞ!」
ちっっっくしょう!ふざけやがって!
俺は右も左も意識せずひたすら走った。一晩中。
夢であってほしいと何度も願った。願っても空は明けるだけ。
そしてどこかもわからない森の中でトサリと倒れた。
いっそこのまま死んでしまいたいと思いながら意識を手放した。
そこへ影が三つ。
「珍しい来客じゃないかぁ?」
「ってこれ人の子じゃなぁい?」
「しかも加護持ちとはな。驚いたわい!」
少しだけ、無償に……聞こえる声が心地よく感じた。
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