50話「レラジェ」
魔王軍、四天王か――。
急な大物の登場に、オグニはじんわりと嫌な汗を流す。
魔王軍四天王と言えば、それこそ勇者パーティーでなんとか相手になるような存在。
それが果たして、どのぐらいの実力を秘めているのかは知らない。
けれど、そもそも自分達部隊長クラスが相手になるのであれば、とっくに魔王軍など存在しないはずなのだ。
つまりは、今目の前に立つ相手とはそういう次元の存在だという事だ。
それがどのぐらいの強さかは分からないが、少なくとも五芒星の一人を相手にするようなものだろう。
そんな、明らかな格上の存在を前にオグニは笑う。
――つまりは、ここで勝てば我々も五芒星って事だよな
これはピンチではなく、チャンスなのだ。
そう考え直したオグニは、隣のレイネに目配せをする。
そして、アイコンタクトで連携を取ると、早速レラジェにこちらから攻撃を仕掛ける。
オグニは先程と同じく大剣を振るい、暴風を生み出す。
しかし、レラジェはまた黒い霧を生みだすとオグニの渾身の一撃も簡単に無にされる。
だが、その霧の存在はこちらも既に把握済みのため、その隙に近接したレイネがレイピアを突き刺す。
オグニとレイネの阿吽の呼吸。
ほぼ同時に五発放たれたその攻撃は、レラジェの胴体を容赦なく突き刺した――はずだった。
キィイイン
大きな金属音が鳴り響く。
それは、レイネの放ったレイピアがレラジェの持つ鎌で防がれた音だった。
そしてレイネは、攻撃を防がれただけでなく、そのまま振るわれた鎌により容易く弾き飛ばされてしまう。
「ぐう!」
「レイネ!」
心配したオグニは、慌ててレイネのもとへと駆け寄る。
幸い致命傷ではないものの、レイネの着ている鎧は先程の衝撃で砕けてしまっていた。
片手でただ振るわれた一撃なのに、硬度の高いレイネの鎧が砕かれてしまったのである。
その有り得ない力の差に、オグニは戦慄する。
――化け物かよ!
こんなの、五芒星どころの騒ぎではないだろ!
そう思ったオグニは、もうレラジェに勝とうだなんて気は完全に消え失せ、代わりにどうやってこの場を切り抜けるかに考えをシフトする。
「あら、もうおしまい? この子達を傷つけたお返しをし足りないのだけれど」
「……ほ、ほう。それは恐ろしいな」
「フフフ、そうね。貴方達のしようとした事の愚かさを、ようやく理解出来たようね」
怪しく微笑むレラジェは、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
その光景に恐怖したオグニは、慌てて全力で大剣を縦に振るう。
振るわれた大剣は激しい衝撃を生み出し、レラジェに向けて波動の刃が放たれる。
その波動は大地を割り、凄まじい勢いでレラジェの身体を真っ二つに切り裂くと思われた。
しかし、同じくレラジェは鎌を振るうと、オグニの生み出した波動を容易く相殺する。
そうして、変わらずその足を止めないレラジェは、ゆっくりとオグニのもとへと歩み寄ってくるのであった。
「――オグニ、逃げて!」
「レイネッ!?」
恐怖で震えるオグニに、レイネはそう叫ぶと再び駆け出してレラジェに向かってレイピアを放つ。
放たれたレイピアは、オグニも初めて見るレイネの全身全霊の一撃。
ほぼ同時に十発放たれたレイピアは凄まじい勢いを生み出し、レラジェの全身に向けて放たれる。
その全身全霊の一撃は、人間の限界にも等しいまさに神業だった。
その結果、流石のレラジェでも捌ききる事は出来ず、そのうちの一撃がレラジェの肩に突き刺さる。
「ぐっ! やるじゃない」
攻撃を受けたレラジェは、肩を突き刺されながらも愉快そうに笑う。
その光景が意味するのは、レイネ程の実力者の全身全霊の一撃をもってしてその程度だったという事だった。
だからレイネは、相手に攻撃が通った事への喜びよりも、その程度でしかなかった事に対する絶望が勝ったのだろう、慌ててレラジェと距離を取ろうとする。
しかしレラジェは、そんなレイネの腕を掴んで離さない。
全力でレイネが離れようと抗うがビクともしない。
「この私に傷を負わせた事、誇っていいわよ」
「ふ、ふざけるなっ! 離せ!!」
「別にふざけてなんていないわよ。感心してるのよ?」
「ぐわぁあああ」
そう言って、握る力を強めるレラジェ。
その苦痛に、レイネは叫び声をあげる。
「レイネを放せぇえええ!!」
そんなレイネのピンチに、慌てて駆け寄ったオグニはレラジェに向けて全力で大剣を振り下ろす。
しかし、レラジェは逆の手に持つ鎌で簡単にその一撃を受け止めると、逆にオグニの身体をそのまま弾き飛ばす。
力に自信のあったオグニだが、女の片腕に力負けしただけでなく、そのうえ弾き飛ばされてしまったのだ。
その有り得ない状況に驚きながらも、成すすべなく弾き飛ばされるオグニは絶望する。
自身が負けただけならまだいい。
だが、目の前では最愛の相手の腕が掴まれ、今まさにやられようとしているのだ――。
それなのに、助ける事も出来ずただ無様に弾き飛ばされている自分に、これまで築き上げてきた己の全てが崩れ去る音がした……。
「離しなさい」
――しかしその時。
突然どこかからそんな声が聞えて来たかと思うと、レラジェ目がけて一閃する。
その攻撃を悟ったレラジェは、間一髪レイネの腕を離して避けていたが、不意をつかれた事もあり余裕はない様子だった。
「躱した? 驚いた」
「――何者かしら」
それはオグニにも、一体何が起きたのか分からなかった。
しかし、レラジェの前に突如として現れた少女のおかげで、間一髪レイネは助けられたのであった――。
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