49話「決着と絶望」
オグニは、両手に持つ大剣を全力で振るう。
魔力を帯びた大剣、そして、磨きぬいた剣技により、大剣からは凄まじい爆風を巻き起こす。
生み出されたその爆風は、一撃目の比では無かった。
大地を抉り、巻き起こる砂埃と共に剣の軌道上にある全てを粉砕する圧倒的な一撃は、絶対不可避の一撃だった。
聖女が防御魔法を展開し、魔術師が風魔法でその勢いを相殺しようと試みるが、防御魔法は簡単に破壊され、そして風魔法ごとオグニの生み出した爆風は全てを飲み込んでいく。
その結果、二人はそのまま数十メートルは離れた場所にある岩まで弾き飛ばされてしまう。
身体強化魔法も付与しているようで致命傷でこそないものの、筋力の無い女性二人に今の一撃は相当なダメージを与えていた。
そしてもう一人の青年はというと、レイネと一騎打ちで戦っている。
青年の剣技はやはり素晴らしく、素早く繰り出される剣技の数々はオグニの目から見ても素晴らしいの一言だった。
この青年ならば、本当にあと数年鍛錬を積めば部隊長クラスにもなれるだろう。
それ程までに、貴重な才能を持っているのは確かだった。
しかし、それでも相手はレイネだ。
そんな青年の剣技の数々も、レイネの握るレイピアにより簡単に防がれてしまう。
元々軽量の武器であるため、青年が力任せに振るう剣技の数々よりも速く、レイネのレイピアが全てを容易く受け止める。
その様は、やはり一方的であった。
青年にも身体強化魔法が付与されているようだが、青年の剣技の合間合間に突き出されるレイピアにより、既にその全身は傷だらけになっていた。
そう、レイネはあの次々と繰り出される剣技を完璧に受け流しながらも、そのうえで攻撃まで仕掛けているのである。
それこそが、レイネの真骨頂なのであった。
一撃必殺のオグニに対して、レイネはその素早い攻撃によりあらゆる相手を凌駕する。
それはオグニをもってしても脅威の一言で、もしオグニとレイネが一騎打ちをした場合、勝てるかと言われると正直怪しい程に。
それ程までに、オグニからしてもレイネの実力は本物中の本物なのであった。
そして、そんな戦いもあっけなく決着がやってくる。
全身の傷と疲労から、青年の繰り出す剣技が大きく鈍ってしまった隙を、レイネは見逃さない。
その隙を狙って、レイネは手にしたレイピアを青年の胴体へ向かって複数回突き刺す。
その速度はあまりに早く、ほぼ同時。
そして突き刺された青年は、その衝撃で大きく後ろに弾かれてしまう。
「ぐわぁー!」
青年の悲痛に塗れた叫び声が響き渡る。
そしてその叫び声が、この戦いの決着を意味していた。
こちらも致命傷にこそなっていないものの、よろよろと立ち上がる青年に彼女達にはもう、オグニとレイネという圧倒的強者の相手をする事など、傍から見て不可能なのは明らかであった。
「……ま、まだだ。ここから、先には……絶対、に……」
それでも、青年の心は折れてはいない。
「……ええ、そうよ。私の、魔法は……こんなもんじゃ、ない……」
「……そう、ですよ……まだ、護れます……」
そしてそれは、オグニに弾き飛ばされた彼女達も同じであった。
全身ボロボロになりながらも、まだ立ち向かおうとする彼らに、オグニは思わず笑ってしまう。
それは、蔑んだ嘲笑などではない。
諦めずに立ち向かってくる、その強い意志に感心してしまったのだ。
「やはり、惜しいな」
「ええ、でも仕方ない。これは任務」
「そうだな」
だからオグニは、この一撃で終わらせる事にした。
まだ自身には遠く及ばないものの、将来有望な若者をこれから殺めなければならない事に心を痛めつつも、握った大剣を振るい最後の一撃を放った。
――しかし、その時である。
オグニの放った暴風は、突然現れた謎の黒い霧により全て飲み込まれてしまう――。
「なんだっ!?」
「――ギリギリセーフってところかしら」
そして黒い霧の中から、一人の女性が姿を現す。
黒いドレスを纏った、赤髪の女性――そしてその女性の頭には、黒い角が二本。
「――魔族か」
「ええ、そうよ。好き勝手やってくれたみたいね」
「ふんっ、何者かは知らんが、どうやら彼らよりは強そうだな」
「――オグニ。この女、危険よ」
魔族の女を見て、レイネが珍しく警戒をしていた。
その表情には焦りの色まで現れており、普段無表情なだけにこれが異常事態な事を意味していた。
「二人で最初から全力で行こう。でなきゃ、多分やられる」
「――それ程か。全く、恐ろしいな」
普通なら、オグニはそんな言葉など信じないだろう。
しかし、最愛にして、その実力を認めるレイネの言葉にオグニは素直に従う。
この魔族の女は、最早そういう次元の相手なのだとオグニも本能で理解する。
「――この子達をこんなに傷つけた事、後悔させてあげるわ」
そして魔族の女は、そう言ってどこから取り出したのか禍々しい鎌の切っ先をこちらへ向けてくる。
「我の名は、レラジェ。魔王軍四天王の一人として、今から貴方達を冥府まで送ってあげる」
静かに、しかし怒りの籠ったその言葉――。
目の前に立つ魔族の女の放つ凄まじい圧力を前に、オグニは無意識に一歩引き下がってしまっている事に気付いたのであった――。
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