47話「デーモンロードと神」

「――うふ、うふふふふふ、あはははははは!! すごい! すごいすごい!!」


 アイアンメイデンにより、デスウォリアーを三体消し去ったセシリア。

 しかし、残された少女は焦るどころか、何故か楽しそうに笑い出す。

 デスウォリアーがやられたというのに、全く動揺すら見せない少女の姿にセシリアは警戒を高める。



「貴女、やっぱり強いのね!」

「……随分と、余裕なようね」

「うふふ、そりゃね。だって私は強いもの」


 そして、その言葉と同時に突如として少女から禍々しいオーラが溢れ出す。


「貴女に選択肢をあげるわ。これから私の召喚する子にやられるか。――それともこの私にやられるか」

「――どっちも願い下げだが、どのみち貴女とはやり合わないと駄目そうね」

「ふふ、それもそうね。それじゃあ始めましょうか」


 その言葉と共に、目の前にいたはずの少女の姿が突然消え去る。

 その動きは、五芒星であるセシリアをもってしても捉える事が出来なかった。


 ――消えた!? どこっ!?


 焦ったセシリアは、一先ず防御魔法であるプロテクションを展開すると共に周囲への警戒を高める。



「どこ見ているの? ここよ」


 しかし、そんなセシリアを嘲笑うように背後から少女の声が聞こえてくる。

 慌ててセシリアは背後を振り返るが、少女の姿はまたしてもそこには無かった。



「ふふ、こっちこっち」

「このっ!」


 そして再び背後から聞こえる揶揄うような少女の声に、セシリアは憤りつつ声のする方向へ即座にメイスを振るう。

 だが、そのメイスは虚しくも空を切り、少女に触れる事もその姿を捉えることも出来ないのであった。



「姿を見せなさいっ! ホーリーレイン!」


 だからセシリアは、だったら自分から攻めに転じる事にした。

 唱えた魔法は、聖属性最上位魔法であるホーリーレイン。


 無数の光を上空に具現させると、一斉に周囲一帯に振り下ろす。

 その光景はまさに光の雨で、それはまさしく絶対不可避の一撃だった。



「どう? これなら――」


 そこまで言いかけたセシリアだが、あり得ない光景を目の当たりにして言葉を失う。


 なんと少女はそんな降り注ぐ光の雨の中、平然と立っているのであった。

 既に何十も少女に光の雨が突き刺さっているにも関わらず、まるでそれが少女に触れた瞬間消え去って行くように無効化されているのであった。


 そこで、セシリアは完全に悟った。

 今目の前にいるこの少女は、自分よりも上位の存在なのだと――。


 だがセシリアも、五芒星の一人。

 このままやられてしまうだなんて事は、何があっても許されなかった。



「――成る程、やっぱり化け物みたいね! だったら私も、出し惜しみ無しで全力でいかせて貰うよ!」


 そう宣言するセシリアは、巨大な魔法陣を展開する。

 そして、その魔法陣の中から出てきたのは、白銀の鎧を身に纏ったゴーレムだった。



聖なる守護者ホーリーゴーレム、召喚!」


 ホーリーゴーレム召喚。

 それは、聖属性最上位魔法にして、この世界でも選ばれたものしか扱う事の出来ない究極の魔法。


 召喚された聖なる守護者ホーリーゴーレムは、本来神々を守護するガーディアン。

 そんな神話級の力を持つ聖なる守護者ホーリーゴーレムを、神に認められし者のみが召喚する事を許されているのだ。


 かつて、当時の魔王軍四天王の一人も葬ったとされるこの聖なる守護者ホーリーゴーレムこそが、セシリアの奥の手であった。

 自身とこの聖なる守護者ホーリーゴーレムであれば、この化け物みたいな少女でも抑え込めるはずだと。


 ――だが、それでも少女は余裕を崩さなかった。



「ふふ、大きなゴーレムね。だったら私も、記念にとびっきりを出してあげる」


 そして、少女もまた巨大な魔法陣を展開する。

 そしてその魔法陣から出てきたのは、見るも悍ましい巨大な悪魔だった。


 牛の顔をした魔人で、その大きさは聖なる守護者ホーリーゴーレムをも上回っていた。



「な、なんなのよ――これは――」

「デーモンロードよ。そうね、滅多に貴女達の前には姿を現さないから、知らなくても仕方ないわね」


 セシリアの呟きに、少女は笑って答える。

 しかしセシリアは、その姿こそ知らないがその名には覚えがあった。


 デーモンロード。

 それは、かつてこの地に舞い降りた際、一つの国をたった一体で滅ぼしたとされる大災害。

 勇者も、あらゆる強者も全てが無に等しく蹂躙されるだけだったとされる存在が、今この少女により再びこの地に召喚されてしまったのである――。



「――あ、ありえなっ」

「あら? でも貴女達、この街に侵攻するってことはこの子を相手にするよりもっと恐ろしいものを敵に回しているのよ?」

「ど、どういう意味だ――!?」


 言っている意味が分からないセシリアは、ただ困惑しながら叫ぶことしか出来なかった。

 しかしその瞬間、目の前のデーモンロード以上にあり得ないものを目の当たりにする事になる。


 それは、アックス達本陣が控える方向からだった。

 突如として白い光が天を突き刺すと、割れた天空からゆっくりと姿を現す白銀の龍――。


 その姿は、正しく神。

 その神々しさから、恐らくあれは神龍と呼ばれる神なる龍と見て違いないだろう。


 デーモンロードが国を滅ぼしたとされるなら、あの神龍は魔族の国を滅ぼしたとされる神。

 つまり、元々神を信仰する我々アレジオールに対して神が敵対するはずもなく、自分達側の味方に違いないと思ったセシリアは勝利を確信する。



「ハハ、ハハハハハハ! よく分からないけれど、形勢逆転かしら!? 神のご加護だわ!」

「そう、加護ね」


 しかし、それでも少女は微動だにしない。

 いくらこの少女が強者だと言っても、神が相手では成す術などないはずだ。


 それなのに一切の同様すら見せない少女に、セシリアも何かがおかしいことに気が付く。


 そしてその違和感は、すぐにはっきりするのであった。



「――この街へ攻め入ろうという不届き者は、貴様らか」



 この街とは、勿論今セシリア達が侵攻しようとしているバーデンという港町のことだろう。

 つまりそれは、この神なる龍もまたセシリア達の敵である事を意味しているのであった――。


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