42話「ゴールドハンター」
「オラァ! 次はどいつだぁ!!」
アレジオール軍の兵士を三人立て続けに弾き飛ばしながら、一人の男が愉快そうに笑う。
その男こそ、Sランク冒険者チームの『ゴールドハンター』でリーダーを務めるデヴィスだった。
彼の繰り出す多種多彩な剣技により、アレジオール軍の兵士達をもってしても簡単に弾き返されてしまうのであった。
「貴様らぁ! 俺の崇拝して止まないレラジェ様の命令だぁ! いいか? ここから先へは誰一人だって絶対に通さねぇからな!」
四千を超えるアレジオール軍へ剣先を向けて、デヴィスは全く怯む事なく高らかにそう宣言するのであった。
「……あーあ、また始まったよ」
「はぁ……」
そして、そんなデヴィスの背後に立つ二人の女性――アーリャとミリスは、呆れたように深いため息をつくのであった。
そう、あの日レラジェに大敗北を喫して以降、デヴィスはすっかりレラジェに陶酔するようになってしまったのである。
その美しいご尊顔、そしてグラマラスな身体つきに魅了されたデヴィスは、次の日からレラジェの言う事だけに従うまるで下僕のようになってしまったのである。
その結果、それまでデヴィスに惚れ込んでいたアーリャとミリスはというと、すっかりそんなデヴィスに寄せていた気持ちも冷めてしまい、今ではただの同業者というレベルにまで関係は冷え切ってしまっているのであった。
「それに引き換え、デイルさんは良いわよね……」
「ええ……、あの天使のような微笑みこそ、神々が我々に与えてくれた奇跡なのですわ……」
そしてそんな二人は二人で、今ではすっかりデイルのファンになっているのであった。
あの母性を擽る可愛らしいルックスに合わせて、やる時はやる男らしさに、二人はもう文字通りメロメロなのであった。
そんなわけで、デヴィスはレラジェ、そしてアーリャとミリスはデイルと、それぞれ新たな想いを寄せる矛先を見つけているのであった。
そんな、一見バラバラになってしまったように思えるゴールドハンターの面々だが、それでも三人の目的はたった一つだった。
――この愛すべき街に、邪魔者は誰一人として通さない
そう、気持ちはバラバラになったものの、三人の目的はここにきて初めて明確に一致しているのであった。
レラジェやデイルだけでない、三人はあの日以降この街の多くの人や魔族のお世話になっているのだ。
だから自分達は、彼らへ恩を返すという意味でも、決してここから先へは誰一人として進ませるわけにはいかないのであった。
「ほら! デヴィス! 左から五人来てるでしょしっかりしなさい! そっちは私がやるからデヴィスは右!」
「遅いですデヴィスさん! 加速魔法を付与するのでさっさとしてください!」
「ああもう! 分かったよチクショウ!!」
そして何より、これまであった主従関係から、三人が目線を合わせて横並びになった事で、以前とは比較にならない連携が出来るようにもなっていた。
バラバラになったように見えて、むしろ真の実力を発揮するゴールドハンター。
今のこの三人は、アレジオール軍が束になったところで止められるような相手では無いのであった。
「……やれやれ、厄介なのが出て来たな」
「そうね、でも任務は任務。さっさと片付けましょう」
目の前に広がる光景は、たった三人を相手にしているというのにあまりに一方的な戦況だった。
そんな戦況を眺めながら、殿に控えていた二人の人物が腰を上げる。
それは、今回の作戦の部隊長を任命されている大剣使いのオグニと、レイピア使いのレイネである。
本来は、同じ幹部の二人はそれぞれ別々の部隊に別れて侵攻すべきところなのだが、こうして行動を共にしているのには理由があった。
それは――――二人が愛し合っているからである。
元は二人とも作戦には従順に従う真面目なタイプだったのだが、根が真面目な分恋をすると周りが見えなくなるところがあり、こうして偶然を装っては二人で行動を共にしているのであった。
当然部下達は、それが偶然ではなく必然である事など分かり切ってはいるのだが、威厳があり、そして圧倒的実力者の二人がそうするのであれば、配下の者はもう従うより他ないのであった。
「彼らのような、上辺の愛で生きている愚か者。正直、見ているだけで不愉快だわ」
「ああ、そうだな。俺達の愛の力を、奴ら紛い物にしっかりと見せつけてやる必要があろう」
こうして、ついにゴールドハンターの三人と向かい合うオグニとレイネ。
そう、これは互いに譲る事などできない、恋の争いなのであった――。
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