40話「アレジオール軍」
聖王国アレジオールを出立した騎士団総員二万人超の一団は、とある外れにある街を目指して進軍を開始していた。
「団長、本当に今回の相手はそんなにヤバイんですかね?」
「ああ、少なくともSランク冒険者を全て倒してしまえる程度にはな」
やる気のない副長からの問いかけに、騎士団長アックスは答える。
アックスからしても、相手の実力はよく分からない。
それは勿論、送られたSランク冒険者が一人残らずやられてしまったからに外ならない。
だがそれは、逆を言えば送られたSランク冒険者以上の実力者がいるという事の裏返しでもあるのだ。
十分警戒するに値する相手が待っていると言えるだろう。
「それにしても、だからって私達まで連れてくとか異常よ」
「……過剰戦力」
「クフフ、まぁ暴れられるのなら良しとしましょう」
「……」
そして、そんなアックスの言葉に反応したのは、同じく今回の遠征へ同伴する事になった聖王国アレジオールが誇る最高戦力の四人。
これまでは三人だったのだが、今回新たに一人加わる事で現在は四人となっている。
そこへ騎士団長のアックスも加わる事で、この五人がアレジオール四天王改めアレジオール五芒星と呼ばれる最高戦力なのであった。
アレジオール軍に属する兵士一人一人は、階級に応じて冒険者でいう所のCからAランク相当の実力を有している。
そして幹部クラスともなればSランク以上、アックス達五芒星にもなればそれをも大きく上回るとされている。
結局この国では、冒険者などを続けるよりも騎士団に入った方が色々と優遇されるのだ。
そのため、真の実力者の多くは冒険者を続けるのでは苦騎士団へ入り安定を手にするというのが常識になっているのであった。
つまりは、このアレジオール軍とは街の冒険者などでは太刀打ちできない程の強大な力を有しているのである。
――まぁSランクが負けた事自体は有り得なくも無いだろう。しかし、あそこにはグレイズとカレンも含まれていたと聞く
だがこの場でアックスだけは、それでもこれから戦う相手への警戒を高めていた。
何故なら、グレイズはまだ少し実力が足りなかったにしろ、カレンに関しては自分達と同等とも言える強大な力を有しているからだ。
そんなカレンがいても負けてしまったというのが真実ならば、それはもしかしたら自分達が単騎で挑んでも勝てるかどうか分からない相手だという事だ。
元々縛られる事が嫌いだからという理由で冒険者に甘んじていたカレンだが、いつかはこの国の最高戦力に取り込もうと思っていた相手だけに、その事の重大さをアックスだけは理解しているのであった。
そうして、移動を開始して数時間は経過しただろうか。
いよいよ目的地である、北の街バーデンが見えてきたのであった。
◇
「敵襲! 敵襲!」
街の付近へ到着したところで、早速異変が起きる。
こちらから仕掛けるつもりだったのに、まさか相手から先に察知して攻撃を仕掛けてくるとは思わなかったのだ。
「相手は元Sランク冒険者の面々! どうやら奴らは、敵側についている模様!」
「なんだとっ!?」
そして、そんなまさかの知らせにアックスは驚いた。
――Sランク冒険者が敵に回っているだと!?
てっきり全員魔族相手に始末されてしまったものだとばかり思っていただけに、彼らがまだ生きている事にアックスはただ驚いた。
そして、生きているだけならまだしも、何故か彼らが自分達に向かって盾突いてきている事が信じられなかった。
――ふん、所詮は冒険者ということか
買収でもされたのだろう、下らん。
やはり冒険者は冒険者、信用に値しない。
そして追加の報告によると、その場にいるのはカレンを除くSランク冒険者達。
確かにグレイズは危険だが、そこにカレンが含まれていないのであれば他は幹部クラスでどうにかなるだろう。
即座に戦況を把握したアックスは、命令を下す。
「これより、計画通りバーデンへの進行を開始する! 各幹部の判断に従い、行動を開始せよっ!」
今回の進行へ加わっている幹部は総勢十名。
それぞれがSランク冒険者以上の実力を持つ強者揃いだ。
そして彼らの元に2000人超の兵士を割り振り、分散して同時に多方面からの進行を開始する。
そしてアックス達アレジオール五芒星の面々は、一団の殿として正面から突破する事になっている。
――さぁバーデンに住まう化け物達よ、今回は先の冒険者の時のようにはいかぬぞ? どう出るか刮目させて貰おうか
こうして、いよいよ一国対魔族の対決が開始される事となったのであった――。
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