39話「不在と駄目イド」
「なにやら、魔族領で不穏な動きがあるみたいでな」
「不穏な、動き……」
「ああ、我がおらぬことを良いことに、人間を良く思わぬ連中が何やら結託しようとしているという話じゃ。そんなもの、魔王である我が許さん」
イザベラの話では、どうやら今魔族領で人間に対して過激派な連中が結託しようという動きがあるようだ。
しかし、魔王であるイザベラが率先して作り出したこの平和を、その配下が自ら壊そうというのであれば、そんなものイザベラとして認めるわけにはいかないに決まっているだろう。
「というわけで、我は魔族領へ戻り様子を見てくる」
「そう。一人で平気?」
「我は魔王じゃぞ。己の配下の者どもに後れなど取るか……と言いたいところじゃが、どうやらその動きの中心にいるものは、元々我に対しても反発することの多かった伯爵家の者らしい。あやつが動いているのであれば、一筋縄にはいかぬだろうな」
「――分かった。だったらわたしも行く」
イザベラの話を受けて、だったら自分も行くとさも当然のように引き受けるミレイラ。
そんなミレイラの様子に、イザベラは驚く。
「い、いや、そんな」
「妹が困っている。だったらわたしは、妹の手助けをするだけ」
「じゃが……」
「行くと言ったら行く。決定事項」
「そうか、分かった……ありがとう」
これまでの付き合いで、ミレイラが一度言い出したら引かないことをイザベラも分かっているのだろう。
素直に礼をするイザベラに、ミレイラは満足そうに一度頷いた。
こうして急な話ではあったものの、イザベラとミレイラは魔族領へ向かうこととなったのであった。
「じゃあ、二人がいない間この街は僕に任せてよ」
「デイル、近々この街にも新たな災いがやってくる。そしてそれは、デイルが乗り越えるべきこと」
「僕が、乗り越える……」
「そう。わたしも早く戻ってくる。だからデイル、それまでこの街のことはお願い」
真面目な面持ちで、デイルにお願いをするミレイラ。
だからデイルも、決意を籠めて頷く。
一体何が起こるのかは分からないが、こうしてミレイラが言うのであればそれは確実に起きることなのだろう。
こうして、急ではあるがミレイラとイザベラは魔族領へと向かうこととなったのであった。
◇
ミレイラとイザベラが旅立って、五日が経った。
「あー、自由って最高だわぁ」
いつも寝泊まりしている宿の一室。
ミレイラの監視から完全に開放されたカレンはというと、メイドという役目を忘れてベッドの上でくつろいでいた。
幸いデイルを襲っては来ないが、気の抜けた今のカレンは完全に自由人そのものである。
「あー、このままずっとダラダラ過ごしていたいわぁー」
「駄目だよカレン、そんなところミレイラに見つかったらまた叱られちゃうよ」
「あら、平気よ平気。あの化け物は今ここにはいないもの♪」
デイルが注意するも、カレンはこの調子で全く聞く耳を持たないのであった。
そんなカレンにやれやれと呆れつつも、デイルはミレイラとイザベラのいない分今日も働くことにしたのであった。
こうして宿を出たデイルは、一先ず店に顔を出し様子見がてら食事を済ませることにした。
「あ、じゃあわたしはスクランブルエッグで! ここの食事、中々悪くないわよねぇ」
そして当然のように、我が物顔で同じテーブルにつくメイドが一人。
「あ、わたしはデイルの護衛も兼ねているので、サボっているわけじゃないわよ」
「まだ何も言ってないんだけどね……」
「ふふん、細かい話はいーのよ! さ、食事にしましょうご主人様ぁ♪」
こんな調子でミレイラ不在の今、完全にカレンのペースに巻き込まれているデイルであった。
「にしても、平和そのものねぇ。冒険者をやっていたのが嘘みたいだわ」
「カレン、あまりそういうことを口に出さない方がいいよ」
「え? どうして?」
「ミレイラ曰く、フラグっていうらしい」
「フラグねぇ……ふーん、よく分からないけれど分かったわ」
腑に落ちない様子のカレンだが、一応分かってくれたようだ。
まぁ実際デイルとしても何の話かは分からないが、とにかく言葉には言霊ってやつを帯びているらしいから、あまり気の抜けた言葉は口にしない方がいいという話らしい。
「た、大変だ!! 北の丘の上から敵襲だ!!」
そう、じゃないとこんな風に――って、敵襲!?
慌てて駆け込んできた元冒険者が、店の扉を開け放ちながらそう知らせてくれたのであった。
「敵襲って、何事ですか!?」
「ああ! デイルさん! いきなり北の丘の方角から、王国の部隊がこの街に攻めてしてきやがったんだ! 今、元Sランク冒険者の皆さんが応戦中です!」
「王国だって!?」
よりにもよってミレイラ不在時の敵襲で、しかも相手は冒険者ではなく一国!?
その非常事態に、デイルはもはや食事どころではなくなってしまった。
「僕も今すぐ向かいますっ!」
「え、ちょ! 待ってよデイル!? これがそのフラグってやつかしら!?」
こうして店を飛び出したデイルは、急いでその北の丘へと向かったのであった。
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