21話「ガレス」
デイルはガレス達一行を連れて、以前ミレイラとイザベラが戦った平原へとやってきた。
当然、デイルに対する態度に腹を立てたミレイラやイザベラ、そして冒険者や魔族達も一緒にこの場へとやってきている。
そんな、ガレス達にとってみれば明らかにアウェーな環境にも関わらず、ガレスの下卑た笑みは変わらなかった。
「おいデイル。こんなところにまで来て、お前本気か?」
「ええ、どのみちこうするつもりだったんでしょう?」
「ああ、その通りだ。まさかミレイラがいるとは思わなかったが、今回はあいつに頼ったりはしないんだろ?」
「ええ、勿論」
「じゃ、余裕だわ」
そう言うとガレスは、腰に下げていた剣を抜いた。
かつてはみんなの盾として守備に徹していたガレスが、こうして剣だけを構えている姿は正直意外だった。
「俺はあれからよ、一からやり直したんだよ。ミレイラに力こそ奪われたが、俺は元々恵まれた体格と才能があったし、感覚だけは失われちゃいなかった。だから俺は、冒険者としてすぐにAランクまで駆け上がったんだぜ?」
ガレスは得意げにそう告げると、集まった冒険者達からはどよめきが起きた。
そう、Aランクとは冒険者の中でも最高位を意味しているからだ。
「つまりだ、俺は逆にミレイラの加護が外れたおかげで、本当の強さってもんを手に入れたわけよ?俺達のパーティーは、もう少しでSランクへの昇格の話も出てるぐらい、この短期間で色々なミッションをこなしてきた。はっきり言って、かつての勇者パーティーなんてお遊びだったって思えるぐらいなっ!」
成る程、ガレスはガレスでこれまで冒険者として死ぬ物狂いで努力をしてきたようだ。
それ故、再びこんな態度を取れているのだろう。
――だがそれでも、デイルはもうガレスを許すつもりなんて無かった
努力してようが何だろうが、平和を笑い、そしてかつては幼馴染として一緒に冒険した女の子の事をあざ笑ったガレスの事を、デイルは許す事なんて出来なかった。
「――話は分かりました。では、そのSランク目前のパーティー全員でかかってきて下さい。全て僕がへし折ってあげます」
デイルがそう言い放つと、ガレスは目を丸くして驚いていた。
そして、言われた事の意味を理解したガレスは、怒りでその表情を鬼のように歪ませる――。
「てめぇ!!ただのお荷物だったくせに粋がるようになったなオイ!!じゃあいいだろう!!全員ですぐにあの世に送ってやるよっ!!」
ガレスがそう叫ぶと、デイルの言葉には他のパーティーメンバーの3人も相当苛ついているようで、険しい表情を浮かべながら臨戦態勢に入った。
デイルはその光景を前にして、ふっと鼻で笑った。
本当に、ガレスという幼馴染はどうしてこんなになってしまったんだろうと、憐れみを込めながら――。
「死ねやデイルゥ!!」
ガレスはそう叫びながら、剣を振りかざしながらデイルへと超速度で接近する。
そしてその動きに合わせるように、剣士の男は別方向に回り込み、魔法使いの女は更に別角度から巨大な炎の攻撃魔法をデイル目がけて連射する。
そして聖女の女は、ガレスと剣士の男に向かって、複数の能力向上魔術を重ね掛けしていく。
成る程確かに、Sランク目前のAランクパーティーといった見事な連携だった。
ガレスがここまで自信を取り戻している理由も分かった。
――しかし、それでもデイルは動かない。
ただガレスの方だけをきっと睨みつけながら、棒立ち状態のままなのであった。
その光景に、流石に集まった冒険者や魔族、そしてイザベラまでも危機感を感じる。
「デイルっ!!」
イザベラは思わずそんな声を上げてしまうのだが、そんなイザベラの肩にそっと手を置いたのはミレイラだった。
「――大丈夫、デイルは負けない」
ミレイラがそう言いかけた途端、デイルの周囲が爆発する。
そう、先程魔術師の女が放った炎の攻撃魔法がデイルに直撃したのである。
何発も立て続けに打ち込まれたその攻撃魔法により、デイルのいた周りでは炎の大爆発が起きる。
そして、それでも油断をしないガレスと剣士の男は、その爆発の中へと剣で思いっきり斬りかかる。
その剣技にも魔法が込められており、剣が振るわれたその衝撃で再び大爆発が起きる。
「ざまぁねぇなデイル!!って、もう骨すら残ってねぇか!!アッハッハ!!」
そして、確実に始末したと思ったガレスは、ようやくそう大声で笑った。
それはまるで、これまでずっと抱えてきた苦しみから解放されたかのように――。
「――いえ、残念ながらこんな攻撃では全然足りないですよ」
しかし、舞い上がる砂埃の中からは、先程と一切変わらないデイルの声が聞こえてくるのであった――。
「――な、なに!?」
そのあり合えない状況を前に、流石にガレスも困惑の声を上げてしまう。
それこそ、当時の勇者パーティー時代を超える今の攻撃を受けて、ただの人間であるデイルが無事なはずが無いのだ。
「ガレスが変わったように、僕だって変わった。それだけの話ですよ」
薄まってきた砂埃の中からは、先程から恐らく一歩も動いていないデイルの姿が徐々に見えてきた。
しかし、その全身は白い輝きに包まれているのであった――。
「な、なんだその光は――!?」
「これですか?力を借りただけですよ?」
砂埃が完全に消え去ると、そこにはなんと無傷のまま、先ほどと変わらず棒立ちしているのデイルの姿がはっきりと見えたのであった。
その光景に、ガレス達は勿論、集まったギャラリー達も全員驚きの声を上げる。
ただ一人、ミレイラだけはこうなる事が分かっていたようで、何も言わず無表情のままそんなデイルの事だけを見つめていた。
――しかし、ミレイラのその頬は薄っすらとピンク色に染まっていた
「力を借りたってなんだ!?」
「忘れました?僕の能力はビーストテイマーですよ?」
「そんな外れ職業で、なんで今の攻撃を防げたんだって聞いてるんだよ!?」
そう、ビーストテイマーとは基本的に、近くにいる魔物や魔獣をテイムして利用する職業であり、基本的には支援がメインの不遇職なのだ。
勇者パーティーにいた頃のデイルも例外ではなく、他のビーストテイマーに比べればかなり高位の魔物をテイム出来たと言っても、他のメンバーに比べるとかなり見劣りのするものだった。
実際それは間違ってはおらず、残念ながら今でもその通りなのである。
だからさっきのはノリで言ってみただけで、デイルはひょんなことから圧倒的な力を手にする事となったのだ。
それは、この世で唯一無二の存在から受け取った絶対的な加護――。
突如、白く輝くデイルから白い光が天高く伸びる。
そして、その光は徐々に広がっていくと――中から巨大な影が現れる。
その光景を前に、ガレス達は驚きながら思わず後ずさりをしてしまう。
「――デイルよ。この人間、随分とお前に不敬な態度を取るのだな」
「気にしないでいいよ――神龍さん」
――そう、その光の中から現れたのは、従魔として語るにはあり得ない神なる龍、神龍なのであった。
その白く輝く神々しい姿を見て、ガレスのパーティーの聖女は膝をガタガタと震わせながら小さく呟く。
「――嘘」
「ど、どうしたメイリー!?」
どうやら彼女の名前はメイリーというらしい。
心配するガレスの声にも反応できず、メイリーは神龍の姿を見てそのままその場に尻餅をついてしまった。
「神龍って――無理、無理よ!終わりだわっ!!だって、神に逆らうなんて許されない事だものっ!!」
そしてメイリーは、絶望の表情を浮かべながら急に叫び出した。
「お、おい!メイリー!!しっかりしろ!!」
「しっかりしろですって!?ガレス、貴方何と戦っているか分かっているの!?神よ!!神の龍よ!?終わりよ!貴方のせいでもう全て終わりよっ!!」
壊れたように笑いだすメイリーを前に、顔を青ざめる他の三人。
そう、聖女であるメイリーだけ分かってしまったのだ、今目の前にいる白き龍の恐ろしさを。
絶対に敵対してはならない相手と、向き合う事になってしまっていることを――。
しかし、他の三人はそんな事は知らない。
だが、その大きさ、そしてその神々しさから、これが今まで見てきたどの龍とも比べ物にならない高位の存在だという事だけは分かった。
「くそっ!デイルのくせに!!」
しかし、ガレスは再び剣を握る。
自分がデイルなんかより劣っているはずがないという、確固たる自信がそうさせるのであった。
どんなにでかい龍だろうと、デイルで扱える程度の存在なら、自分が負けるはずが無いと思えたのだ。
だから、そんな興奮状態のガレスにはもう、先程の攻撃を完封された事実など完全に頭からは抜け落ちてしまっているのであった。
「どうせ見掛け倒しに決まってる!いくぞお前ら!」
ガレスがそう声をかけると、再びデイルに向かって駆け出すガレス。
そしてそれに連動するように、他の二人も攻撃をしかける。
攻撃魔法は炎からより高位の雷魔法に、そして剣士の扱う剣技も先ほどのものより一段上のものを振るう。
――しかし、結果は何も変わらない。
白く輝くデイルに、傷一つ負わせる事は出来ないのであった。
そして最後にガレスが、全身全霊の力を込めた一刀をデイルの脳天目がけて叩きつける。
――しかし、そんなガレスの振るった剣を、あろう事か非力なはずのデイルが片手で受け止めているのであった。
「ば、馬鹿な!」
「――終わりにしましょう。ガレス」
そしてデイルは、剣を掴む逆の手でガレスの腹に拳を叩きこむ。
するとガレスは、その衝撃で弾き飛ばされると、遥か後方にある大木に全身を打ち付ける。
「ぐはぁっ!!」
着ていた鎧も砕け散り、ガレスはその衝撃で血反吐を吐き出す。
「「ガレス!!」」
慌ててメイリー以外の二人は、そんなガレスの元へと駆けつける。
残されたメイリーはというと、相変わらず壊れたような表情を浮かべながら、ガレスの事など気にも留めずデイルの足元へと縋りつくのであった。
「あ、あああの、すみません、すみませんでした神様。わ、わたしは聖女として、か、神への巡礼を欠かした事などありません!これは間違いなのです!で、ですからどうか!」
「――神龍さん、どうしますか?」
「下らん。この女は聖女でありながらあのような下らない男に唆され、デイルに対して不敬な態度を取った。それが全てだ」
一応デイルが確認すると、神龍は一言バッサリとそう吐き捨てたのであった。
それを聞いたメイリーは、元々の整った顔が台無しな程、歪な笑みを浮かべながら再び壊れたオモチャのように笑いだしたのだが、デイルにもどうしたら良いか分からないためとりあえずそっとしておく事にした。
こうしてガレスとの戦いは、呆気ない結果で幕を閉じたのであった。
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