20話「二人目の勇者パーティー」
イザベラが働き出して、暫くたった頃。
この街では、すっかり人と魔族の共存が実現しており、人はミレイラ、そして魔族はイザベラという圧倒的存在の元、平和な日常が送られているのであった。
そして、この融和はこの街に限らず、気の合った人と魔族が他の街でも徐々にだが共存の道を探り出しており、そんなある意味世界平和に向けた広がりが、この街から生まれつつあるのであった。
――しかし、その流れに反発する勢力も当然現れる
魔族との融和を良く思わない、冒険者を中心とした一派がどうやら暗躍しているようなのだ。
しかもその理由というのが、『魔族が敵で無くなったら、自分達の仕事が無くなるから』というのが一定数いるというのだから信じられない。
大切な家族や仲間の命を奪われた事に対する恨みによるものであれば、それはどれだけ時間をかけてでもお互いが納得できるまで向き合う問題だと思う。
しかし、自分達の生業のため、魔族を良しとしないというのは目的と行いが全くの逆だ。
本来平和のために戦っていたはずなのに、戦うために平和を嫌うなんて本末転倒もいいところだ。
そんな問題を抱えながらも、だからといって神や魔王と敵対出来るような存在も居ないため、今日まで特に問題は起きていないのであった。
そして、そんなある日のこと。
いつものようにイザベラが働く店で食事を取っていると、勢いよく店の扉が開かれる――。
「おう、ここか?魔族が働いてるっつーふざけた店はよ?」
扉を開けた男は、明らかに中にいる者達を挑発するように、小バカにした言い方でそう言い放つ。
そしてその声は、デイルのよく知っている人物の声だった――。
「――ガレス」
デイルはその男の姿を見て、思わずそう呟いてしまう。
それは間違いなく、かつて勇者パーティーとして共に旅をした――そして、デイルの事を裏切った幼馴染の一人、ガレスだった。
かつては絶対の盾と呼ばれたガレスだが、今はミレイラにその力を奪われてただの冒険者になっているとは聞いていたが、今一緒にいる他の3人が今のパーティーなのだろう。
全員、この場にいる人も魔族も見下すように薄ら笑いを浮かべ、言い方は悪いがいかにもガレスのお仲間だなと正直思ってしまった。
「デイルじゃねぇか!ハッハッハ!随分と生ぬるい事してる街があると思って来てみれば、お前がいるんじゃ納得だわ!」
ガレスはデイルを見るなり、本当に可笑しそうにお腹を抱えて笑い出した。
相変らずガレスはデイルの事を見下し、そして今では強く恨んでも居るのだろう。
「あー、あれがガレスの言ってた使えない幼馴染か?」
剣士の装いをした男が、ガレスの肩に手を置きながらニヤリと笑って話す。
「へぇ、あの子がねぇ。まぁ可愛い顔してるけど、ガレスの男らしさと比べたらねぇ」
魔法使いの装いをした女も、デイルを見ていやらしく笑った。
「二人とも駄目ですよ。初対面の人を笑っては。でも、あんな見た目をしていてもガレスさんを傷つけた張本人なんですよね、正直許せません」
そして最後に、聖女の装いをした女性がデイルに向けて非難の視線を向けてくるのであった。
3人ともガレスをとても信用しているようで、色々と勇者パーティー時代の話とかを聞いているのだろう。
三者三葉に、デイルに対して良くない感情をむき出しにしてくるのであった。
「――何の用?」
しかしそこへ、たまたま席を外していたミレイラが戻ってきた。
ミレイラはガレスを見るなり、無表情の中にも少しだけ嫌悪感を露わにしていた。
「――ミ、ミレイラも一緒だったのか」
そしてガレスも、流石にミレイラの登場にはたじろいでしまう。
なにしろ、それまで勇者パーティーとしての圧倒的力を実は付与してくれていた張本人であり、ガレスがどうあがいても触れる事すら出来ない絶対的な相手なのだ。
「ガレス?どうした?」
剣士の男が心配して声をかけると、ガレスは震えながらも薄ら笑いを浮かべ口を開く。
「――そうかい、そういう事かい。おいデイル!お前は相変わらずだなっ!」
「な、何がですか?」
「とぼけるな!結局お前は、今もそうしてミレイラの後ろに隠れながら、こんな生ぬるい事をさせてるんだろ?デイルらしい、甘っちょろい考えだよな!」
ガレスは、この街の人と魔族の融和はデイルがミレイラを利用してつくり出したものだと思っているようで、そんなデイルの事をあざ笑ってくるのであった。
「――なんじゃデイル、あの醜い男とは知り合いか?」
「あ、イザベラさん。えぇ、その――勇者パーティーとして、一緒に冒険していた元仲間、です……」
騒ぎに気付いてやってきたイザベラさんは、ガレスに向かって不快そうな視線を向けながらデイルに話しかけてきた。
「そうか、仮にも仲間だった者に対して、随分な言い草じゃな――」
「あん?なんだてめーは?それに今、醜いとかなんとか言ったな?言っちゃあれだが、俺は昔から結構モテるんだよ!それこそ、ハハ、そうだよデイル!お前の好きだったアリシアだって、簡単に落としちまえる程になっ!アリシアの奴がどんなだったか、話聞くか!?」
ガレスは、デイルを挑発するようにそう言って大げさに笑った。
かつてデイルが好きだったアリシアの事まで持ち出されるのは、確かに聞いていて気持ちの良いものでは無かったから、ガレスの挑発は成功していると言えるだろう。
自分の事ならまだしも、同じ幼馴染のアリシアの事まで蔑むガレスを前に、普段は温厚なデイルの中にも流石にどす黒い感情が渦巻いてくる――。
「――デイル、こいつ消す」
「――デイルよ、1分待っておれ」
そんなやり取りを見ていたミレイラとイザベラは、完全にキレてしまっていた。
物凄い殺気を纏いながら、ガレス達に鋭い視線を向ける。
その様子に、ガレスとそのパーティーは一瞬にして顔が青ざめる。
まさかデイルをバカにしただけで、この二人がキレるなんて思いもしなかったのだろう。
――でも、さっきガレスが言った言葉は確かに一理あった
デイルはいつもミレイラの後ろに隠れて、ただ守られているだけだったのだから。
だからデイルは、自分のために怒ってくれている二人に向かって、優しく声をかける。
「――二人とも、怒ってくれてありがとう。その気持ちだけで、今の僕はあの頃よりずっと幸せだよ。だから、ここは大丈夫」
そしてデイルは、一度大きく深呼吸をすると、自分の頬っぺたを両手で一度強く叩いて気合を入れ直す。
「――これ以上はお店の迷惑になります。ガレス、続きはお店の外でしよう。全員まとめて、僕一人で相手になるよ」
デイルはガレスの事を強く睨みながら、そう言葉を返したのであった。
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