22話「召喚獣」

 これは、ある日のこと。

 僕はミレイラと共に日課の戦闘訓練をしている時の事だった。


 みんなの役に立ちたいと日頃から思っているけれど、やはりビーストテイマーというスキルの限界を感じていた僕。

 だからミレイラにお願いして、僕はこうして戦闘訓練を付けて貰うようになったのだ。


 ビーストテイマーの能力は、元勇者パーティーの中でも劣っていたのは事実で、みんなの足を引っ張っていたと言われれば僕はその事を否定できなかった。


 でも、だからと言って僕はこのままでいるつもりは無かった。

 僕だって、いざという時に大切な誰かを護れる力を手に入れたかったのだ。


 しかし、そんな僕に対してミレイラは、そんな力なんて必要無いと言って初めは聞き入れてはくれなかった。

 自分がいれば何も心配無いと言って、僕に頑張る必要は無いのだと逆に説得されてしまったのだ。


 でも僕は、それでも自分を変えたかった。

 もう護られているだけの自分は嫌だったのだ。


 こんな事起きるわけがないのかもしれないけれど、もしミレイラに危機が降りかかった際にミレイラの事を護ってあげられるような男になりたかったのだ。

 だから僕は、そんな気持ちをミレイラに一生懸命説明した。


 すると、そんな僕の思いが伝わったのかミレイラは、あれだけ否定していた訓練に付き合ってくれるようになった。


 そしてそれからというもの、訓練に付き合ってくれるミレイラはこの間まで断っていたとは思えない程熱心で、どうしたら僕がみんなを護れるようになるかを真剣に考えてくれていた。



「――よし、デイル。召喚獣を持とう」

「え?召喚獣?」


 そしてある日の訓練中、ミレイラがいきなりそんな事を言ってきた。

 召喚獣って言うと、勿論あの召喚獣の事だろうか?

 でもそれって、滅多にいないとされている召喚術士が扱えるスキルの事だった。

 だから当然、ビーストテイマーの僕にはそんな能力なんて備わってはいない。



「――そう、デイルはテイムするだけでいい。そしたら召喚獣の方から勝手に召喚されてくる」


 えっと、ミレイラさん?何を言ってるんです?

 自分から召喚される召喚獣なんて聞いた事が無いんですけどと、戸惑う僕を無視してミレイラは呪文を唱え出した。



「我が名はミレイラ――。この名の元に顕現を許可する。空を、大地を切り裂く者よ。我の要求に応えよ。そして、デイルが私を護りたいというから、その手助けをする事を特別に任命して貰えるラッキーな蛇よ、我に感謝しながらさっさと顕現せよ――」


 後半はやっぱり意味が分からなかったが、ミレイラがそう唱えると割れた天から白い光が差し込む――。


 そして、その光の中から姿を現したのは以前イザベラとの戦いで一度姿を現した事のある――神龍だった。


 そして神龍は、ミレイラに向かって口を開く。



「――なんだ、今のは」

「言葉通りよ」

「――いや、その上でなんだ今のは」

「うるさい蛇ね。――さぁ、デイル、この蛇をテイムするのよ」


 呆れた様子の神龍さんを無視して、ミレイラは召喚した?神龍さんを指さしながら僕にとんでもない事を言ってきたのであった。


 ――いやいや、神なる龍をテイムするってありえないでしょ


 僕が戸惑っている事に気付いたミレイラは、神龍さんの方を向いた。



「――今から、デイルにテイムされて。それから、デイルに加護を与えて」

「えぇ、なんだそれは――い、一応我も神なのだが?」

「――何か問題ある?」


 文句を言う神龍さんに対して、謎の物凄い圧をもって静かに言葉を返すミレイラ。

 そんな、ここぞとばかりに神の圧を解き放つミレイラに、同じ神の神龍さんでさえも気まずそうな表情を浮かべると、諦めた様子で僕の前まで顔を近付けてきた。



「――まぁ、なんだ、その」

「え、えぇ、なんかその、ミレイラがすみません」

「いや、まぁいい。我も暇をしておったのだ、これも余興と捉える事にしよう――。では、デイルと言ったな?今からお前に我の加護を与える」

「加護?」

「あぁ、我の加護を受けた者は、我の力の一部が使用可能となる。はっきり言って、それだけでこの世界では無敵だろうな。ドラゴニックパワーってやつだ」

「そ、そうですか」

「あぁ、ではそういう事で、準備はいいか?」

「は、はい!」


 すると神龍さんの全身は白い光へと変わり、そしてその光は僕の身体目がけて飛び込んできた。

 その勢いは凄まじく、あっという間に僕はそのままその白い光に全身を包まれる――。


 そして、その光は僕の中にどんどんと吸い込まれていくと、何も無かったかのようにこの場から光は消え去ってしまう。



「――おめでとうデイル、テイム成功よ」


 そして、一通り見ていたミレイラは拍手をしながら近づいてきた。


 ――いや、今のはテイムとは言わないんじゃ


 そう思ったけれど、起きた事は巻き戻す事も出来ないため、諦めた僕はこのデキレースを受け入れるしかなかった。


 ――まぁきっと解除も出来るだろうから、神龍さんに悪いしどこかのタイミングで解除して貰えばいいかな



『まぁ、そういうわけでデイルよ。これから宜しく頼むぞ――』


 身体の奥から、疲れた様子の神龍さんの声が聞こえてくる。

 こうして僕は、神龍さんの言うドラゴニックパワーというやつを手に入れてしまったのであった。


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