7話「部屋の中」

 鍵の掛かっていたはずの部屋に、何故か姿を現せた一人の少女。


 少女はミレイラに気が付くと、深々と頭を下げながら挨拶をする。


 しかし、いきなり「ミレイラ様」ってなんだ?


 少女は長いフワフワとした金髪をしており、色白でブルーな瞳をしていた。

 それから、その背中には白い翼が生えており、頭の上には金色の輪っかが浮かんでいた。



 ……うん、これはもう完全にあれだね。


 実際に見た事なんて当然無いけれど、ミレイラが神であるならば彼女の正体はあれで間違いないだろう。


 ――そう、彼女の姿は、どう見ても天使そのものだった


 しかし、なんでそんな天使さんがいきなり現れたのか、そもそもどうやってこの部屋に入ったのか色々謎は深まるばかりだった。



「ミレイラ様、この世界で先ほど神のお力を使われましたよね?理由を確認してこいと命令を受け、天界よりやって参りました」


「そう」


 なるほど彼女は、今日ミレイラが使ったあの魔術かも怪しいあれの確認のために遥々天界からやってきたというわけだ。



「神の力を行使するのは、世界のバランスを壊します。ですので、下界で生活するのはもうミレイラ様の自由でいいですから、もう少し節度を守って頂かないと上に色々言われて困るんです」


 ……あれ?なんか空気変わって来たぞ?


 この天使の子、相変わらず敬語は使っているけど、明らかにミレイラに向かって文句を言いだしてるぞ。


 ミレイラはというと、そんな天使さんの事をいつもの無表情でじーっと見つめているだけだった。



「聞いてますかミレイラ様?もう、とにかく忠告しましたからね!今後はせめて事前にわたしに連絡してからにして下さいね!」


 そう言うと、天使さんは深いため息をついて「それじゃ帰ります」と力なく呟いた。


 だが、去ろうとする天使さんは僕の目が合ってしまうと、何故か天使さんは目を丸くして驚いていた。



「え?あれ?も、もしかしてデイ――」

「――サイレス」


 天使さんは驚いて何か言おうとしていたが、ミレイラの魔術により一切言葉が発せなくされてしまっていた。



「ミーシャ。お黙り」


 どうやら、彼女の名前はミーシャというようだ。

 変わらず無表情な中にも、怒りの感情を込めたミレイラにそう言われたミーシャは、少し青ざめながらコクコクと頷いた。


 明らかに、さっきミーシャは僕の事を見て何か言いかけたと思うけど、ミレイラはそれ以上喋る事を許さなかった。


 なんだかよく分からないけど、まさに触らぬ神に祟りなしだと僕は何も聞かなかった事にした。



「ミーシャ、ゴーホーム」


「――もうっ!酷いですミレイラ様!あ、もう喋れる」


 それからミーシャは、「と、とにかく忠告しましたからね!」と言ってふわっとこの場から姿を消したのであった。



「騒がしい子。うざい」


 去って行ったミーシャに、ミレイラはぼそっと一言面倒くさそうに呟いた。

 ……最後の一言は、聞かなかったことにした。



「よ、良かったの?」

「問題ない。無視でいい」


 まぁミレイラが良いと言うのであれば、それ以上僕がとやかく言う事でも無いと思いそれ以上は聞かないで置いた。



「……それよりも、デイル」

「ん?どうかしたミレイラ?」


「今日は沢山魔術を使った」

「うん、本当今日はミレイラが居なかったらやばかったと思うよ。ありがとう、ミレイラ」


「……じゃあ、ここで貸しポイントを使う」


 僕がお礼を言うと、ミレイラはその白くてマシュマロのような頬をピンク色に染めると、恥ずかしそうに貸しポイントを使いたいと申し出てきた。


 まぁ今日は本当にミレイラはよく頑張ったし、その頼み事を僕は色を付けて聞き入れる事にした。



「うん、いいよ。で、頼み事は?」

「デイルに抱かれて寝たい」

「え?」

「デイルに抱かれて寝たい」

「ミレイラさん?」

「デイルに抱かれて寝たい」


 ダメだ……何を言っても壊れたように同じ言葉を繰り返すだけのミレイラさん。


 まぁでも、本当にそんな事で良いなら今日だけは特別に聞いてあげる事にした。

 僕が「分かったよ」とオッケーすると、ミレイラは少しだけど嬉しそうな表情を浮かべた。



「……あと、一緒にお風呂に入りたい」

「それは却下です」


 味を占めたミレイラが、ついでのように更に過激な事を要求してきたので、そちらは即答でお断りしておいた。


 今度は本当にダメだと伝わったようで、「難しいのね」と不満そうに呟いたミレイラだった。


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