6話「戦いのあと」

 魔王軍の幹部をたった一撃で倒してしまったミレイラは、僕を背負いながらゆっくりと陸へと降りた。


 すると、周囲の人々は変わらず口をあんぐりと開けたまま、降り立ったミレイラに注目していた。


 あんな大魔術というか、最早あれが魔術なのかも怪しい攻撃を見せられては無理も無かった。



「……神だ……神が裁きを執行なされたのだ」

「そうだ……ミレイラ様こそ、我らの神様に違いない……」


 ようやく現実を受け入れる事が出来た人々から、そんな声が聞こえてきた。

 その声は次第に大きくなり、あっという間にミレイラ=神がこの場全体の共通認識になった。


 この日から、この街を中心に『ミレイラ教』が普及するのだが、この時の僕達は当然思いもしなかった。



 そもそもだ、このミレイラが神だなんて事自体……大当たりだった。


 僕は「そうなんです、この子実は神なんです!」と言いたい気持ちをぐっと堪えていると、叩き上げ一家の四人が僕達の元へと慌てて駆け寄ってきた。


 そして、



「「「数々のご無礼、本当に失礼いたしましたぁ!!」」」


 四人は綺麗に、ミレイラに向かってジャンピング土下座を決めたのであった。



「気にしていない」

「いや!しかし!」

「気にしていない」

「でも!!」

「気にしていない」


 リーダーの戦士が何を言っても、「気にしていない」の一点張りのミレイラ。

 その表情は、やはり全く興味が無いといった具合に無表情のままであった。



「あ、あのっ!先ほどの魔術は……なんですか……?」


 魔術師の女が、これだけはどうしても確認したいといった様子で恐る恐るミレイラに質問した。



「あれは、愛」

「愛?」

「そう、愛の力」

「……な、なるほど?」


 全然分かっていない様子だったが、もう答えたとばかりに口を閉ざしてしまったミレイラに、彼女はそれ以上は聞けない様子だった。


 なにはともあれ、こうして魔王軍の危機は去った事で、傷を負ってしまった人々の治療もあるため全員一先ずは街へと戻る事になった。




 ◇



 街へ戻ると、あっという間にミレイラの功績が街中に広まっていた。


 そのせいか、僕達はすれ違う人全員と言っても良いほど口々に感謝された。

 これまでも、街行く人々から声をかけられる事には慣れていたが、今のそれはこれまでのものとは大きく異なっていた。


 例えるなら、以前は有名人扱いだったものが、今はまるで英雄のように称えられているのだ。


 だが、当のミレイラはというと、やっぱり全く気にする様子もなく無表情でトコトコと隣を歩いていた。



「デイル大変」

「ん?ど、どうかした?」

「魔術を使ったらお腹が空いた」


 なんとミレイラさん、ちょっと前に食事をしたばかりだというのに、もうお腹が空いたと言い出した。


 まぁでも、あれだけの攻撃魔術を行使したのだ、エネルギーを消耗したのだろう。


 こうして僕達は、再び先ほど行ったお店へと向かった。



 ◇



 お店に入ると、先ほどまで居た冒険者達が祝勝会を開いていた。


 最初に来たときよりも熱気は高まっており、未曾有の危機から解放された事もあってお店側も大盤振る舞いのサービスをしてくれているようだった。


 そんなところに、主役であるミレイラが現れた事で、当然店内は大盛り上がりとなった。


 それからは、ミレイラの前に沢山の料理が並べられ、それからミレイラが居ることを聞き付けてやってきた叩き上げ一家に弟子入りを懇願されたがバッサリと切り捨てられていたり、とにかく楽しい時間を過ごす事が出来た。



 そして、食事を終えた僕達は宿へ戻ると、店主さんからの熱い抱擁が待っており、それから宿泊代も無料にして貰えた。


 そんなミレイラの活躍のおかげで、色々と優遇して貰えるのは嬉しいが、僕だってもっとみんなのために活躍出来るようになりたいなと思ってしまう自分がいた。



 そんなこんなで、色々あった1日だったけれど、なんとか無事に終える事が出来そうだった。


 とりあえず、今日はもうゆっくり休もうという事で部屋に入ると、鍵が掛かっていたはずなのに部屋の中には1人の少女が立っていた。



「お待ちしておりました。ミレイラ様」


 そう言ってその少女は、ミレイラに向かって深々と頭を下げたのであった。


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