5話「魔王軍幹部」

 押し寄せる魔王軍。


 そして、魔王軍との戦いを繰り広げる兵士と冒険者の一団。


 その戦いは熾烈を極めたが、やはり種族としての個体値の差が徐々に表れ、少しずつ人間側が押され始めてしまっていた。


 それでも、叩き上げ一家の活躍により何とか前線が踏み留まっているといった状況だった。


 だが、誰がどう見てもこの状況が優勢だとは言えなかった。



「ちくしょう……数が多すぎるな」

「ハァハァ……だな……」

「そろそろ治癒魔術も限界になってきました……」

「わたしも、そろそろ魔力が尽きちまいそうだよ……」


 叩き上げ一家の四人は全員、既に満身創痍といったところだった。

 しかし、これまで色んな冒険者を見てきたが、この四人は本当によく戦っていると言える。


 互いが非常に上手く連携し合い、同格のはずの上位魔族相手でも常に有利をキープしながら戦い続けているのだ。


 だがそれでも、そろそろ前線の限界は近い様子だった。

 まだ魔族の半分以上が残っているにも関わらず……。



 そんな中、ミレイラはどうしているのかと言うと、人間と魔族の戦いを上空から眺めながら、ピンチになっている所へ支援を行っていた。

 人間側が絶体絶命の状況になっているところへ、ミレイラは綺麗に魔族だけ電撃で撃ち抜く事で犠牲者を減らしていた。


 そんなミレイラの様子を、苦肉の表情を浮かべながら叩き上げ一家の四人は見上げてきた。



「勇者パーティー!お前たちは戦わないのか!」

「貴方が見ていろと言ったから、見ていた」


 リーダーの戦士が、苦虫を噛み潰したように話しかけてきたところで、ミレイラは淡々と答えた。



 ――貴方たちが参戦するなと言ったから、参戦していないだけだと


 これには、叩き上げ一家の四人もぐうの音が出なかった。


 そして、



「先の言葉は、撤回する……力を、貸してほしい……」

「分かった」


 リーダーが代表して謝罪すると、ミレイラは何の感情も無くすぐにオッケーした。

 それは本当に、全て言われるままにしていただけだという態度で、その事がより四人に責任を感じさせていた。


 自分達の下らないプライドのせいで、この危機的状況を生み出してしまったのだから。



「それじゃあみんな、下がって」


 ミレイラはそう言うと、無数の魔法陣を一斉に展開した。


 その魔法陣の数に、叩き上げ一家の魔術師は目を丸くして驚く。



「何よ……あれ……」


 その常識ではあり得ない規模の魔術を前に、人も魔族もこの場にいる全員が思わず見上げてしまう。


 そして、



「――乱れ雷」


 ミレイラがそう詠唱すると、振り下ろした杖の先端から無数の雷撃が一斉に飛び出した。


 そしてその雷撃は、敵である魔族のみ正確に捉えると、そのまま身体を一気に貫いたのであった。


 その激しい電撃は、一瞬にして魔族の身体を芯から丸焦げにする。

 こうして、たった一つの魔術で魔族の軍勢を壊滅させたミレイラ。



 その、一瞬にして敵が全て倒されてしまった光景に驚く兵士に冒険者達。


 そしてそれは、叩き上げ一家の面々も同じであった。

 ようやく、自分達が醜い嫉妬で貶していた相手の持つ本当の実力を目の当たりにした事で、彼らはそのレベルの違いを前に何も言わずただ固まってしまっていた。




「貴様!!何をしたぁ!!」


 そして、最奥に控えていた魔王軍の幹部が激昂しながらついに表へと出てきた。


 その姿は、まるでドラゴンのようであった。

 体長は10メートルを軽く超えており、一目で怪物という言葉がしっくりとくる凶悪な姿をしていた。



「ひぃ!!」


 冒険者達から、思わずそんな悲鳴まで聞こえてきたが無理も無かった。


 普段相手にしている魔物と、今目の前にいる化け物とでは全く比較にならないのだから。



 そして、その圧倒的な存在を前に、人間としての本能が警告するのだ。


 ――あれには絶対に敵わないから、今すぐここから逃げろと



 だが、それでもミレイラの表情は一切変わることは無かった。

 ただ変わらぬ無表情でその幹部を見つめると、魔王軍の幹部の言葉を無視してそのまま呪文を詠唱し出した。



「我の名において、魔を討つ力をここに顕現させる事を許可する。神の雷よ降り注げ。そして、デイルはこれで私に惚れる事間違いなし!――神罰の雷!」



 そうミレイラが詠唱するのと同時に、突然天空がずれるように割れた。


 そしてその割れ目から、巨大な雷が魔王軍の幹部目がけて一瞬にして落とされた。



 ズゴーーーーン!!



 物凄い音がした。

 それと同時に、雷の光で一瞬にして視界が真っ白に染まる。


 そしてようやく視力が回復すると、先ほどまで魔王軍の幹部が立っていた大地は丸焦げに深く抉れてしまっており、そこには草木一つ残されてはいなかった。



 ――完全なる、オーバーキルだった。


 その、あまりにも一瞬すぎた結末に、最早ここにいる全員口をポカンと開けて呆然とする事しか出来ないでいた。


 それは、仲間であるデイルですらも同じだった。


 今の魔術はなんだ?というか、今のが本当に魔術だったのかどうかも怪しいレベルだった。


 あんな攻撃ができるなら、魔王城に一回落としたら全ておしまいなのではないだろうかと思える程、先ほどの一撃はあまりにも一方的すぎたのだ。


 とりあえず、100倍火力どころでは済まなかったミレイラに驚きつつも、デイルはそれでも一つちゃんと伝えなければならない事を伝えるため話しかける。




「あのね、ミレイラの事は好きだけど、別にこれでは惚れないよ?」



 その僕の言葉を聞いたミレイラは、耳を真っ赤にしながら「難しいのね……」と一言悔しそうに呟いたのであった。


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