3話「冒険者」

 すっかり日も落ちた頃。


 僕はミレイラと共に、宿屋の店主さんオススメのお店で食事を取る事にした。

 なんでも、この街で一番出てくる料理が美味しいお店との事で、店内はいつ行っても大勢の人で賑わっている程なのだそうだ。


 しかし、夜は仕事を終えた冒険者たちで賑わっているから、気性の荒い輩もいるんだけどねと店主は苦笑いを浮かべていたが、でも勇者パーティーの二人なら問題ないわねとそのまま紹介してくれた。


 もしそれでも何かあれば、何でもわたしに言って頂戴ねっ!と最後に投げキッスと共に送られた僕達は、そのままその紹介されたお店へとやってきた。



 扉を開けると、確かに宿屋の店主さんが言っていたとおり店内は既に大勢の人で賑わっていた。

 そして、今日も一仕事終えた後であろう冒険者達が、お酒を飲みながら盛り上がっていた。


 店内を見渡すと、ウエイトレスさんはどうやら全員女の子のようで、メイド服のような少し露出の高い衣装でお仕事している事もあって、彼女達の接客も目当てなのか店内には男性客の方が圧倒的に多かった。



「デイル、あーいうの好き?」

「え?い、いや、まぁ、ハハハ」


 ついつい目で追ってしまっていたのが、ミレイラにバレてしまった。

 僕は慌てて笑って誤魔化したが、好きか嫌いかで言ったら正直好きだ。


 きっと、女の子が可愛いコスチュームを着ている姿が嫌いな男の人なんていないと僕は思う。


 ミレイラは、そんな僕の事をいつもの無表情でじーっと見てきたが、興味を失ったのか「あそこの席が空いている」とそのまま空いているテーブル席へと腰掛けた。



「いらっしゃいませー♪って!?えっ!?もしかしてデイルくんですかぁ!?こっちはミレイラちゃん!マジっ!?」


 席につくと、すぐにウエイトレスのお姉さんが注文を取りにやって来たのだが、僕とミレイラに気が付くととても驚いていた。


 ちなみに、なんで僕達はこうも世界中で顔を知られているかというと、それは全世界に発行されている世界新聞に度々勇者パーティーとして写真を載せられているからだ。


 魔術によって情景を切り取り、それを絵として保存したものを新聞へ印刷する事で、僕達がいつどこでどんな功績を残しているのかがタイムリーに全世界に知れ渡っているというわけだ。



 結果、そんなウエイトレスさんの声に反応して、周りの人達から僕達へ向けて視線が一気に集中してしまった。



「うお!マジだ!ミレイラちゃんじゃねぇか!」

「ねぇあれデイルくんでしょ?実物は可愛いだけじゃないっていうか、ちょっとカッコよくない!?」


 客も店員も、突然現れた僕達に一気に大盛り上がりだった。

 こういうケースは今回が初めてじゃないからもう慣れたものだけど、それでもやっぱりこれから食事をする僕達としては、この雰囲気はちょっとご遠慮願いたいところだった。



「ほう、こちらが勇者様パーティーってか。勇者の姿は見えないようだが?」


 そんな僕達のところに、騒ぎに気が付いた男女二人ずつの計4人の集団がやってきた。


 戦士、武道家、魔術師、治癒師のパーティーといったところだろうか。

 彼らは全員揃って、自分たちより明らかに年下の僕達を蔑むような目をしていた。



「つかよ、こんなガキんちょに本当に世界を任せられるのかって話だよなぁ?」

「本当ね、でもちょっと可愛らしいじゃない」

「どうでもいいけど、この子が本当にわたしより高位の魔術を扱えるようにはとても見えないわね」


 リーダーっぽい戦士の男に続いて、他の3人も口々に僕達の事を好き放題言ってくれている。


 こういう冒険者に絡まれるのも、実は少なくなかった。

 でもそれもみんな、これまで彼らが一生懸命努力してきた事の裏返しなのだ。


 これまで数々の死闘を切り抜いてきた自分達が、まだ17歳になったばかりの僕達より劣っているなんて認められないという気持ちから、こうして絡んでくるというのがこれまでの経験からも度々ある事だった。



「お客様困ります!店内での揉め事はご遠慮願います!」


 しかし、事態に気が付いたウエイトレスさんが間に入り彼らをこの場から引き剥がしてくれたため、どうやら今回は大ごとにはならずに済みそうだった。



「ふん、どうせこの近くへとやってきている魔王軍の幹部が目当てなんだろうが、その首は俺達が頂くからお前たちの出る幕はない。行くぞ」


 リーダーの戦士がそう言うと、流石にこれ以上事を荒立てる気は無いようで素直に引き下がってくれたから良かった。



「おい、あれ叩き上げ一家の4人だろ?Aランクパーティーが絡みに行くなんて珍しいな……」


 遠巻きに見ていた冒険者のそんな会話が聞こえてきた。


 なるほど、自信はあるように思えたけれど、どうやら彼らはAランクパーティーのようだ。


 冒険者にはそれぞれパーティー毎にランクが振られており、上から順にAからFまでに区分されている。


 つまり、Aランクというのは冒険者の中でも最上級を意味する。

 一部、その中でも特に優れたパーティーに対してはSランクという位を与えられているものもあるらしいが、僕はまだ会った事は無かった。


 それにしても、叩き上げ一家なんて変わったパーティー名だなと思っていると、間に入ってくれたウエイトレスさんが謝罪と共に彼らについて教えてくれた。


 ウエイトレスさん曰く、どうやら彼らはこの辺では今一番実力のある冒険者パーティーなのだそうだ。


 彼らは元々、別々のBランクパーティーでそれぞれがエース級の活躍をしていたメンバーだそうで、そんな彼らが話し合って一つのパーティーとして集結したのが今の叩き上げ一家だそうで、1人ひとりが数々の戦いの中で叩きあげられてきて今があるという事で、パーティー名をそんな名前にしているとの事だった。


つまりは、彼らはこの辺の冒険者のエリート選抜パーティーであり、そんな彼らがまた切磋琢磨して尚も叩き上げを継続しているのだから、Aランクパーティーというのも正直頷けた。


 彼らは普段、冒険者という仕事に誇りを持って日々取り組んでいるらしく、だからこそ神の祝福なんてものにより急に力を授かった僕達の事が気に食わないのだろう。


 こういうパターンも、今回が初めてではなかった。

 以前はガレスにより全員返り討ちにあっていたけど、彼らは真剣にこれまで努力していたからこそ気に食わないと思ってしまうその気持ちは、正直分からないでもなかった。


 だって僕自身、少しでもみんなの役に立てるように毎日努力を積み重ねてきたけれど、他の4人のような凄い能力に恵まれたわけでもない僕は、これまで何をしても追いつく事なんて出来なかったから……。


 だから僕自身、神の祝福なんてものを恨めしく思った事が無かったと言えば嘘になる。


 どうして僕だけこんなに弱いんだってね。


 でもその神っていうのは、実は今僕の目の前に座っているミレイラなわけで……あれ?だったらミレイラにお願いしたら、僕にも力を与えてくれるのだろうか?


 ……いや、というかそもそもどうしてミレイラは、僕にだけビーストテイマーなんていうレアではあるけど他の3人とは違って支援特化の能力なんて与えたんだろう……?


パーティーのバランスと言ってしまえばそれまでだけど……。



「デイル、お腹空いた。早く注文しよ」


 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、先ほどの出来事も全く気にしていない様子のミレイラは早く注文しようといつもの無表情で話を振ってきた。


 とりあえず、僕も正直お腹がペコペコだったからあとは食事をしながらでも聞いてみようと思い、僕達はとりあえず食事を注文した。


 それから届けられた食事は、宿の店主さんの言う通りどれもとても美味しかった。

 漁業が盛んなだけあり、魚介類の料理はどれも鮮度が高く良いお出汁が出ていてとても味わい深かった。


 しかし、食事中僕が神の祝福についてミレイラに質問しようとする度、ミレイラから絶妙なタイミングで話を振られて質問する隙が得られなかった僕は、結局最後までその事を質問する事が出来なかった。



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