11.鮮血は朱殷と見紛うことなかれ
『まずはグラム、貴様の言い分はこうだ。そのエネルギーとやらの"何か"が貴様に足りぬ。それでは幾ら相手に攻撃を加えようとも、自らの能力の【射程】では届く前に撃たれてしまう。という事だな』
「う……うん!」
『つまりセカンズの説明も同じ。【距離】が問題なのだ』
ターバン男たちの距離は、このセカンズがカイリらを招いた大広間の端に当たり、もしグラムが駆け出し彼らに手を出すなれば、感づかれて撃たれるのは自明の理。ましてや無力なカイリやレンにも手を出されれば被害は免れない。相手がそのまま距離を近づけてくれさえすれば、話は変わるのだが。
「何をゴチャゴチャ言ってやがる!!!」
気性の荒いローブ男がズボンのポケットから何かを取り出す。チェーンネックレスのようなそれを、男はカイリらに向かってそれを振ると、チェーンが伸び拡がりカイリとグラム、レン、セカンズの身体、手足を縛りつけ拘束する。言わば最先端の拘束具だ。
「ゲェーッ、何だこりゃ!!動けねえ!」
「大人しくしろ!このガキ三人は闇市で売り捌くとして……セカンズ、アンタは徹底的に
大きくなったチェーンネックレスが手枷足枷となり身動きの出来なくなった四人。ターバン男は不自由なセカンズに近づき、その頬をペチリと触るように叩き、どす黒い感情を露わにする。
「やばいぃぞぉ!!グラムやセカンズはともかくオレやレンはどうなるか!」
「あらぁ慌てちゃってカワイイ。アタシが"飼って"あげようかしらネ」
カイリを気に入るオカマ覆面男はニコニコとしながらも、銃を突きつける姿勢は崩さない。
「(……くそ!このオカマ、油断させようにも銃を持つ手が乱れやしねえぞ!)」
「(カイリ)」
「(ん?)」
色々な策を講じるカイリに、縛られたグラムはこそりと話しかける。
「(セカンズの目……あれは何か策がある目だよ。それもこっちに何かを訴えかけてる)」
「(いや…お前の真反対を向いているから見えないけど………そうなんだな?)」
「(うん……こっちから何か仕掛けれたら、セカンズもなんとかできるって顔、してる)」
互いの背中どうしをくっつけるように拘束されている二人はそれぞれ真反対の方向しか見えない。
今のグラムはセカンズの方向を向いている。カイリには見えないが、グラムのいう事を信じる。
「(……しかし、どうしろと?エネルギーが足りないとか言ってたのはどーすんだよ)」
「(そこなんだよね……それを補えれば____)」
ううん、と首を垂れるグラム。
『ふむ、貴公と我の能力ならそのエネルギーとやらを、補えるかもしれぬ)』
「(……オレらが?)」
「さあて………上層にこの事を連絡せねばな。T地区代表を生け捕りなんてどんな報酬をもらえるやら…」
「今捕獲してるからって逃げないとは限らんぞ?」
「黙りやがれ!誰が発言を許したァ!!!!」
セカンズを捕まえたことに愉悦を覚えるターバン男をからかうセカンズ。それに対してローブ男はサブマシンガンの銃口を向け、セカンズはそれに応じて大人しくする。
「あ、もしもし。俺だ!セカンズをひっ捕らえた________え?どうした?……そ、そそs、組織が、全滅ぅ!!!!???ヴァインドア?誰だそいつは?おい、もしもし…もしもし!!!」
「……!」
おそらくこのターバン男は自らの組織の本部へと連絡を取り合おうとしていたのだろう。が、その組織の一員に報告をする前に「ヴァインドア」と名乗るものが組織自体を潰したらしい。そこで連絡は途絶えたのであろう。
その「ヴァインドア」をローブ男が語った瞬間に、セカンズの目が変わる。
「また、アイツが……」
セカンズはその名を知っている。知っているが、何やら芳しくない趣きのような…
「騒がしいわネ、アイツったら。ケイタイ片手に何を騒いでいるのかしラ」
オカマ口調の覆面男は縛ったままのカイリとグラムに銃口を突きつけたまま、二人から視線を離さず泰然としている。
「(……さっき言ってたの、成功、するんだよな?)」
『(ふむ。我を信用せぬなら無事にM地区に帰れんぞ?)』
「(わかってるよ)」
グラムはオカマ覆面の一瞬の"隙"を伺っている。視線が別の方向へ向いたその一瞬をだ。
カイリはグラムからの合図を大人しく待つ、それだけだ。
『組織が、全滅ぅ!!!!???』
向こうでセカンズとレンを警戒していたローブ男が、声を上げる。
咄嗟のその声には、オカマ覆面もたまらず視線をローブ男の方へ向けてしまう。
「今だ!!!!」
「よし、ネギー頼む!!」
グラムの合図を起点にカイリはネギーへ指示を促す。
『御意。還元する』
ネギーはその能力によってカイリの左手を漆黒に変え、カイリはその黒く塗れた左手でグラムの右手を握る。
するとどうだろうか、グラムは一瞬とも言えないような微かな時間の間に、自らを拘束していた巨大化したチェーンネックレスを破り、飛び上がってオカマ覆面へと一気に間を詰める。
当然、拘束を解く音に気づいたのでオカマ覆面は咄嗟にカイリの方は振り向く。しかし時すでに遅し。オカマ覆面男の顔面にはグラムの拳が入り、何を言う間もなくオカマ覆面男は向こうの瓦礫へと吹っ飛ぶ。
「な…どうした!!」
「おっ…落ち着け!!!あのガキが何がしやがったんだ、ガキ一人に何が出来る!!打て______」
ローブ男が動揺する中、ターバン男は先程の通話から落ち着きを取り戻し、カイリ達の方へ銃を向けさせ発砲しようとする。
が、グラムはそれを見逃さない。
グラムはターバン男の首根っこを掴み、ローブ男の方へそのまま投げつける。
「ぐげぇ!!!!」
あまりの勢いに、二人は気絶する______かに思えたが、ターバン男のほうはまだ意識があった。投げつけられた方がクッションになったようだ。
「く、くそ…殺してや」
「そこまで!」
「……な、なんだこのガキは!!!それにセカンズは何処に…」
「目の前だよ」
突如足元に現れた、三人の青年以外のもう1人の少年が足元に居座る。少年化したセカンズだ。
セカンズは再度、身体を成人に戻しターバン男にアッパーカットを決め、見事に気絶、K.O.。
のびた二人と瓦礫に埋もれた一人。カイリらは見事傷付かずに、危機を回避できたのだ。
「いや〜、まさか俺らの能力が活きるとはな」
「か、カイリくぅん!!グラムくんも、一体どうやってあのオネエ系の覆面さんを、やっつけたんスか!!!??」
「あ?あ~う~ん、グラムのおかげというか、なんというか…」
恐怖から解放され涙目でカイリに質問するレン。カイリを掴む手はガタガタと震えていた。
ピンチを切り抜けた根拠はグラムの能力にあった。
グラムの能力とは。
エネルギー…それが食物からだろうが火力だろうが運動エネルギーだろうが何でもよい。付与された力をほぼ100%自らの運動エネルギーとしてフル活用できる、という能力であり、ネギーはそれを『動力変換者エンジネーター』と名付ける。
ネーミングセンスが相変わらず微妙である。
物理法則を若干無視しているような、現世の理を歪曲しているような能力だが、肝心のエネルギーが無ければ相応の対価のそれは生み出せない。
グラムが大食なのはその為であろう。
で、その覆面男達との距離を、撃たれる隙もなく詰めるのには十分なエネルギーが先程のグラムには無かった。要は『ガソリン不足』状態だったのだ。
しかしどうだろう。エネルギーといえば生み出せる人間がここにいるではないか。そう、斗枡カイリとネギーだ。
カイリはネギーに指示を出し、物質と反物質の反応…即ち【対消滅】を左手で行う。1グラムでかなりものエネルギー…それも核兵器に匹敵するエネルギーを生み出せるが、それをそのまま放出するのはカイリどころか建物まで爆発四散してしまうのでは、と誰もが思うはず。
しかし、その手をグラムが握り、エネルギー自体を握った手を介して「吸収」するとすれば話は別だ。
ネギーによって加減された量の、ごくごく僅かな量の物質、反物質の対消滅によって得られたエネルギーをグラムが受け取る。するとグラムはフル稼働のパワーを以てして、頑強なチェーンネックレスの拘束具を無理やり引きちぎることが出来、尚且つオカマ覆面男の反射的な反応さえも追いつかぬスピードで制することが可能になった訳だ。
人体が認識して反射的に何か行動を起こすまでのタイムラグは、常人で0.5秒。グラムが拘束具を引きちぎり間合いを詰めるまでの行動は、0.41秒。オカマ覆面男が振り向いても何もできないのは当たり前である。
「そっちにヘイトが集まりゃ、後はこっちで対処できたのによ」
セカンズはそう語る。
自身の能力によって自らを少年化したのは、身体を収縮しチェ-ンを緩め抜け出すため。その変化する切っ掛けをグラムたちにアイコンタクトで知らしていたのである。セカンズも、グラム程ではないがパワーには自信があるようだ。
「いや、グラムもセカンズも助かった。俺だけじゃなくレンもどうなってたか」
「これはカイリとネギーのおかげでもあるよ!あの考えがなくちゃなんにもできなかったもん!!」
礼を言うカイリにこちらこそとばかりに答えるグラム。
「被害を最小限に抑えてられたのは少年、君のおかげだ。まあ、このアジトは見ての通りもうボロボロだが、ちょうど引っ越しをしたいとも考えていたし。死人が出なくて何よりだな」
部屋全体を見渡しながらセカンズは今後の引っ越し先を考える。
「………もしM地区に来ると言ったらどうする?少年」
「え?………まあ、ウチ飯屋やってるんで、良かったら」
「フフ、気を抜いて遊びに行くことも考えておくか!」
セカンズはほくそ笑む。偶然か必然か、出会う者を誰も傷つけないこの少年が、二人のSIを引き入れる「何か」を彼は持っている。そして追加でもう一人…その彼の魅力に惹かれている者が増えたと、彼は心の中で思った。
「さて、ほんじゃあ……この、のびてる犯罪者三人を警察に届けるか。裏路地の帰り道、案内してくれるか?」
「もちろんだ!」
カイリはセカンズにそう言うと、まず瓦礫に埋もれたオカマ覆面男を拾い出そうと壊された大広間の壁へ近づく。
それが、甘かった。
起き上がった、いや、事前に目覚めていたオカマ覆面男はカイリの胸を寝た状態のまま拳銃で撃ち貫く。カイリの胸に、心臓部分に穴が開く。耳を
「………っは…」
「…腐れガキが……アタシを見くびったわネ」
オカマ覆面男の覆面は頭の右上部分が破けており、茶色い髪がはらりと出ていた。目つきは親の仇を見るような形相である。
「____________…………………………何をしたの?」
「見たらわかるわよネ??情けをかけるほどこの世は甘くないってのをこの子の凡庸なオツムに________」
横たわったカイリをただただ眺めるグラムの問いにオカマ覆面男は起き上がりながら答える。だが________
「もう喋るな……………………」
「おぶち!!!!!!!!」
答えは遮られる。グラムは先程カイリの能力で授かったエネルギーの余力を持て余している。その余力を目の前の愚かな男に対し、ふんだんに「殴る」事へと昇華させる。
「ぽが!!!がっ!!!!!!!…………………!!!??」
もはや喋る、ではなく悲鳴を上げるのも苦しいくらいにまで限界まで顔面を
「殺しちゃう………殺しちゃうから……喋んないで…」
グラムは泣きそうで泣いていなく、ただその憎悪に満ちた感情と憐れむ感情をごちゃまぜにしながらひたすら顔面を潰そうとする。が__________
「やめておけ」
「…!」
グラムの手を掴み、くいっと止めるのはセカンズ。
「もう気を失っている。気持ちは分かるが、落ち着け」
「でも…………!!!!!」
カイリはぐったりとして動かず、背中の穴からだくだくと血が体の外へ出ていく。隣にはレンがボロボロと泣きじゃくってカイリの名を連呼している。気を失ったオカマ覆面男は、もう少し止めるのが遅ければ頭の無い死体になるところであっただろう。
「警察と救急救命士は手配している。いずれにしても心臓を撃ち抜かれたわけだが…命の保証は出来かねる」
「そんな…助けてよ!!!セカンズなら出来るでしょ!!!!!"能力"で!!!!!」
「……………」
セカンズの"能力"を使えばカイリを助けられるかもしれないとグラムは泣きながら言うが、彼は何故か答えない。
斗桝カイリ、一世一代のピンチ。
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