9.依頼来たりなば真実遠からじ

 昨日は救世主、もといグラムに助けてもらった。




 レストランでの事件からアンペイルに身柄を拘束された時はどうなるかと思ったが、レンがウネに連絡を入れていたこと、ウネがそれをたまたま店にいたグラムに教えていたこと、グラムが超人的な能力で"そのままの意味で"飛んできたこと、全てが噛み合ったことでカイリはその身を解放されたのだ。






 解放された後は駅に待つレンに電子端末で身柄の解放を報告し、駅に着いた後は二人でリニアモーターカーに乗りM地区へ戻る。


 レンはカイリの帰りを心底心配していた故に、駅で落ち合った時には泣いてすがってきた。おかげで着ていたフーディに涙と鼻水が染みつき、カイリの表情は安堵から嫌悪に変わる。






 翌日。


 お土産にマカダミアナッツチョコを所望していたウネは、カイリにそれが無いことを指摘。


 しかし、無事に戻ってきたことに安心したと言い、土産の件は不問にすると言った。


 孫の身柄とマカダミアナッツチョコは同等の価値なのかよ、とツッコミたかったが、そうこうする間もなく店を開ける準備に取り掛かる。












 正午。いつものように昼休みに学校を抜け出し訪れるレンと、時を同じくして現れたグラムはカウンター席に座る。






「…………昨日はありがとう」


「どういたしまして!!と言っても来てアンペイルもすぐ飲み込んでくれたしね、話が分かる人でよかったよ!」






 隣の席どうしになったレンとグラム。


 レンはグラムの事を知らないので、カイリが彼との出会いの経緯と、昨日の件の恩人であることをレンに話す。






「公営自警団の方がカイリくんを!?」


「知ってんのかレン?その公営なんたらを」








 公営自警団。




 発端はM地区に昔多くいた違法薬物取引組織に正義の制裁を与え、殲滅する為に集まった腕っぷし自慢たちの集まりである。


 その活躍は警察や政府からも一目置かれるようにもなったため、政府が犯罪を抑制するための公認の集団自警組織として認めたことから発足したものであり、グラムはその中でも"エース"と呼ばれている指揮官クラスの人物なんだとか。






「ほぁ~すっごい」


「身体の鍛えには自信あるってくらいだけど…指揮もそんなに得意じゃないんだ」




 昨日の跳躍も見せられて凄いとしか言いようのないカイリとは裏腹に謙虚なグラム。






「あ、そういえば昨日聞きそびれたんだが。『SI』ってなんだ?」


「あ…これ、教えてもいいのかなぁ」






 グラムは一瞬悩むも、カイリの質問の問いを答える。




 【SI】____Safety of Ideal の略称。


 それぞれの地区を守り、統べる7名の代表者の総称。


 公にその名を示していないが、その7名は中央地区の政治家にも圧をかけられるくらいの実力を持つ。


 グラムとアンペイルはその中に選ばれたM地区代表、I地区代表なのだとか。






「そりゃどうりでアンペイルに突っかかれるわけだ。ほいショーガヤキおまち」


「待ってました~!いただきますっ!!」






 グラムはいつものように生姜焼き大盛り5人前を頼み、出されたご飯特盛を早速かきこむ。地区の代表とは思えない牛飲馬食っぷりである。






「んん…あ、そういえばカイリくん」


「カイリでいいよ。何だ?」


「あっじゃあカイリ。キミに渡してって言われたものがあるんだ」


「俺に?」






 もしゃもしゃと千切りキャベツを頬張りながら自身のカンフーパンツのポケットに手を伸ばし、手紙を引き出すグラム。そしてそのままカイリにその手紙を渡す。






「んだこりゃ?誰からだよ」




 手紙の封を開けながら宛先を見るが、見当たらない。




「メトロから"直接"受け取ってきたよ。SIの一人なんだ」


「……………また"飛んで"受け取りに行ったのか?」


「ううん?ボクじゃなくって"向こうから来た"んだ」




 SIとかいう奴らは電気流したりぶっ飛んだり超人しかいないのか、と呆れながら手紙を開くカイリ。


 隣のレンは何が何だかさっぱりとした表情。








「?オイこれ真ん中に記号が書いてあるだけじゃ_____」




 手紙には中央に謎の記号がずらり。何かのコードでもあるまいし、とカイリが言った次の瞬間…








『やあ、こんにちは。ご機嫌いかがかな?斗桝カイリくん』


「お"お"!!??」




 カイリは驚きのあまり手紙を地面に投げつける。


 声がするのは手紙の方からのようだ。そしてその中央の謎の記号からは3Dホログラムによって映し出された人物の姿が。








『驚かせたかな?最新鋭の研究の一端で戯れに作られた声紋通信デジタル速達はすごいだろう。面白そうだから君用に用意したんだ』




「あ、アンタがメトロか?最先端の技術はすごいね」


『紙で私の姿を映して通話ができるなんて夢にも思わないだろう?こういうのを作るのに長けた友人がいてね』






 どうやらこの手紙は電話のような役割をしているそうだ。


 今はメトロ本人と通話を出来ている。




「まあ凄さは分かった。けど自慢しに来たんじゃねえんだろ?」


『冷たいねえ、もう少し砕けてからフランクに話そうと思っていたんだけど。では話そうか』


















『まず第一に。昨日の件に関してだが、アンペイルの勝手な行動に関して詫びよう。すまなかったね、どこからか流れてきた君への嫌疑についての資料を"彼"が見てしまったのも私の責任である』






『第二。君の能力はアンペイルを通して私も聞かせてもらった。何でも相手の炎どころか、周りの火やアンペイルの電磁波の一部さえも吸収してしまったと聞いている。それで守ってもらったと話していたよ』




『第三。君はグラムにまで一目置かれる存在になってSIを二人も懐柔してしまう人間だという事が分かった。君は本当にすごい人間だよ』






 何か文句を言うのかと思えば、メトロは非礼を詫びるとともに、カイリのその能力や人徳を評価し、賞賛し始めたではないか。


 実際の能力を制御してくれたのはネギーなので、何もしていないのだが。


 カイリもこれには拍子抜けである。






『そこでなんだが君に提案がある。君のその能力は勿論のこと、その人徳を見込んで、他のSIを"収集"してくれないかい?』


「え?」


『私はL地区の代表だが、同時にSIのメンバーを取り仕切るリーダーを担っている……しかしどうも私の発言力では皆を集めることが出来ないんだ』






 話を纏めると、SIの7名のうちL地区、M地区、I地区以外の4名を呼び寄せられるようにしろというもの。


 残りの地区の代表は一癖あったり都合が合わなかったり、面倒な人間だのこと。
























「え、嫌だけど」






 カイリは一蹴。面倒だからである。


 飯屋とますの手伝いも、自分は元々学生であることも含めて嫌な役職を受ける意味も無いからである。


 まず自分らの責務を赤の他人に押し付けるな、とカイリは一喝。








「ふうん。君の父親は政府の"粛正"の対象だと話を伺っている」




「!…その話は」


「嫌な思いしているのは分かっているさ。しかし私からはその父親についての情報を、SIの皆が纏まりさえすれば政府に介入して提供することもできるぞ?もちろん君の知りたがっている【チップ】については我々も調べているし、色々教えてあげられるしね」


「………………」
















 カイリは悩む。知りたい。チップの情報を。父親の現状に対しては、ウネもそうであろう。


 不安そうに見るグラムとレンの視線を浴び、考え込むようにクマの酷い瞼を閉じるカイリ。
























「……………………引き受けよっかな」




「カイリ……今ここで決断しなくても」


「カイリくん…いいんスか?」






 カイリは引き受けようとするが、周りで話を聞いていた二人は本当にいいのか、焦る必要はないのではないかと訴える。しかし____












「いや、受けるよ。バーちゃんにちょっと迷惑かけるけど、斗桝家にとっても大事なことだし。能力も安全に処理してえしさ。オレが今そう判断したから、受ける」




『…………いい返事だ。即答できる人は要領よくて好きだよ』


「いつ行ってもいいんだろ?時間かけて集めりゃいいさ。まあ用が済んだらいつもの生活に戻れるだろうしな」






 メトロは快く承諾したカイリに内心驚きつつも、気を良くしたようである。




『移動に消費する運賃や旅費などは同封したカードを使用してくれたまえ。経費として落とすからね』


 封の仲には黒いカードが一枚封入してあった。


 グラムが持っていたような格式の高そうな黒々としたカード。




『彼らの住所は後に送付する資料でお知らせしよう。では、君の活躍を願おう。またね』




 メトロは通話を切ろうとするが、カイリは待ったを掛ける。






「あ、待ってくれ。昨日の強盗なんだが…金が欲しいとか何とか言ってたのって」




『ん?ああ、君たちを襲った奴だね。彼の聴取によると、どうやらあのレストランを襲撃すれば報酬を与えてやると誰かが嗾けしかけたそうだよ…最も、そこからは彼もそいつが何者なのか答えられないようだけど』








 昨日カイリ達を襲った強盗犯について教えてくれるメトロ。


 それが偶然なのか、それともSIの一人、アンペイルのいた所だと分かって襲わさせたのかそれとも……などとカイリは色んな事を思い浮かべた。






『まあ何にせよ、治安のよいM地区よりは他の地区でそういう事はあってもおかしくない。用心棒にグラムでも付けておいたらどうかな?そこは自由にしてくれ。では』


「あ、ウッス…」






 メトロとの通話は途切れる。手紙は自動的に綺麗に折りたたまれ、床にぽすっと落ち着く。








「…地区代表の収集の任務を任されるなんてカイリくんすごいっス!!!」


「すごいよカイリ!!都合会う時ならいつでもボディーガードになってあげるから!!!」




 先程の会話も相まって、目をキラキラと輝かせカイリを囃し立てる二人。








「またやる事増えちまったな……本読む暇あっかな」


『…………彼奴きゃつめ、我に挨拶は無しか』


「いや君は名乗ってなかったじゃん」






 カイリがぼやく横で、メトロに不満を垂れるネギー。




















 「…さぁ、君ひとりでSIを、攻略できるかな?魅せておくれ、斗桝カイリ」




 L地区警察本部、屋上にて彼、メトロはカイリに希望を託していた。














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