7.Wデート?/強盗と能力とLと

「こ、ここのミートパイ旨いっスね!」


「きき、気に入ってm貰えてなによりフフョ」




 双方ぎこちない会話が続く。


先程SNSを通してお互いに居場所を確認し合い、とうとう出会いを果たし挨拶を交わす………が、対面した瞬間に緊張もあってか言葉を発せなかったため、SNSにて連絡を交わし、昼時であるため近辺のレストランにて食事をとることにしたのであった。








「(女性とこんなに話すのなんてやっぱ緊張するっス~~!!)」


「(やっばいこんな陽キャイケメン来るとか聞いてないしどうすりゃいーのよオッフ)」




 レンの向かいの席にいるオフ会の相手はSTSのユーザー名"れぷとん"、名をレプトメット・イオナと言う。




 彼女は自身を陰キャラと称しており、陽キャラを相手にすると言葉が詰まって動けなくなったりするほどに耐性が無い。


 そんな彼女はゲーム内、STSのチャットでは饒舌であり、うっかり調子に乗ってオフ会だのなんだのを口滑らせてしまいレン…もといユーザー名"おうどん"があっさり飲み込んでしまい今回の件に至ったというわけだ。






 普段妹とくらいしか話さないようなゲーム浸りの生活をしているためか、レンの女性への耐性が無いというものより格段に酷くコミュ障である。


 それが容姿も性格も陽キャラのそれであるレンに対してはなおさらだ。




「(オイイイイイイ聞いてねえよチクショウ!!STSのゲーム廃人ならもっと陰の者っぽい感じだろうが!!結構タイプではあるけども)」




「(もしかして自分が女性に慣れて無くて緊張してるのバレてたりしてるんスかね…なんか雰囲気というか目つきが睨まれているような…)」




 両方とも全く違うことを考えながらも、出されたミートパイを口にする。












「全くよぉ、姉貴も慣れねー他人サマ相手に大丈夫かよ。ネットイキリも現実では通用しねーぞ」


「まぁそう言わずに、ウチのも女性には耐性無いやつなんだ。これからどんな感じに発展するのか見守ってあげようじゃありませんか」






 同じ店、レン達の席から斜め後ろの席に隠れてレン達を監視しているカイリとアンペイルはそう話しながら注文していたフライドポテトをつまむ。






「まー姉貴のアレではそういう仲に発展なんかしやしねーよ。まあいい年だけどさ」


「そんなもんかね。逆にアンペイルはそういう奴はいないのか?」


「んぼっふ!!!!???」




 飲み干そうとしていたモノメロンソーダにむせ返りカイリに吹き出す。








「…………あの」


「て、てめぇが変な事聞きやがるからだろうが!!!色恋だのなんだのオレにはなぁ…!」




 アンペイルは、目の前のこの男_______斗桝カイリを見て、以前の店での出来事を思いだし、顔を赤くする。




「おや、おやおやおやおや??まさかアンペイルさん???そういった方に心当たりが…」


「殺す」


「すみません店の割引券あげます」






 立ち上がり凄まじい殺気を放つアンペイルにカイリはこうべを垂れるように頭を下げ、飯屋とますの割引券を差し出す。アンペイルはゆっくり差し出された供物を受け取り、即座に席へ腰を戻す。






「……誰だって恋の一つや二つくらいするもんだ。茶化すんじゃねーよ」


「すみません……」




 わかればいい、と一言放つアンペイル。その顔はどこかもどかしそうである。












「……」


「……………」




食事を終え、本来ならばアフターコーヒーを飲みながら会話に花を咲かすレンとレプトメット。しかし二人の間にある距離はぎこちない。


 レンがゲームの話題に持ち込んでも、レプトメットは自前のコミュ障をなるべく出さぬようにしているため口数も少なくなり、必然的に話題を膨らます事が出来ないでいた。






「……き、気分転換に外、歩きましょうか」


「ヒョ……そそうですねそうします、しましょう」






 会計のために席を立ち、会計札を手に取ってレジへと向かおうとする二人。しかし_______














「いらっしゃいませ。何名様で…お客様!?」


「う……………うぁ…あ……へへ、金…を、出せ」






 店の入り口から入るなりその客はガシャン!と扉を引きちぎるかのように壊す。目的は強盗のようだ。






「金……金が欲しい、ああ…………無ければ、この店丸ごと………燃やす」






 金が欲しい、とうめくその強盗は深呼吸をしたかと思えば、ふぅーーーーっと"炎"をレストランの床にぶちまける。






「きゃああああああ!!!!!」




 ひとりの女性ウエイトレスの叫び声を発端として、店内の客たちは一斉に非常口へと逃げ出す。








「な、なんスか?いったい何が………も燃えてる!!?」


「……っ!!非常口こっち!はやく逃げ…」




 レン達も気づいた。レプトメットはすぐさまレンのカーディガンの袖を掴み非常口へ駆け込む。


 しかし、炎はちょうどレン達の行く手を阻むように非常口を燃え盛る火で塞ぎこんでしまう。




 カイリ達や数名の客と従業員も同様に逃げ遅れてしまい、轟轟と燃える炎は次第にその範囲を増やしていく。






「やべぇアンペイル!!強盗が放火魔しだしたぞ!!死ぬぅ!!」


「落ち着け店員!店の奴らは全員オレが守ってる」


「………守ってる?どういうことだ?」






 アンペイルの言っていることが分からぬカイリ。が、周りの避難し損ねた人たちを見ると、何故かその人たちの周りはちょうど火がそこを"避ける"ように燃え広がりを見せない。カイリ達の足元の火も同様だ。






「オレの『能力』で人には炎が寄り付かないようにしてる。オレの居るところから離れんなよな」


「…………超能力って奴か!?初めて他のを生で見た」


「"他のを"?……まあそんなもんだ」






 アンペイルは電気を自由自在に扱うことができる超能力者だそうだ。


 その力を使って『超音波を発生する』電磁波を皆に纏わせて、その音波が電磁波周りの火を消しているのだそう。




「しかし………困ったことにレジの金を漁ってるアイツを捕まえようにも、オレがこっから動きゃ向こうの客や従業員がこの電磁波を纏わせれる範囲から外れちまう。ヤツはこのまま逃しといて消防隊や警察サツに援護を頼むしかなさそうだ」






 どうやらアンペイルは身動きを取れば犠牲が出るので、動かず強盗を見逃して消防署の救助ののちに捕獲するつもりのようだ。だが_______








「おい、アイツこっち向いてないか……」


「ああ、嫌な方に運が向いてらあ」






 強盗は鼻から火をぶふぅと吹かし、アンペイルの方向へのそりのそりと歩いてくる。


 周りの炎はますます強くなり、アンペイルはそれに応じて能力で電磁波をさらに強める。










「まいったぜ…………お前ら守るのに能力割きすぎて今のオレじゃアイツを対処できねえ」


「マジか…………」




 アンペイルは人命救助を最優先と考えているが、今強盗に強力な一発をお見舞いされては店内の人間は全員天国行きである。








「金……お、お、オマエ、持ってないか…………」










 強盗はますます近づいてくる。まさしく万事休す。


















「な、なんか火が近づいてこないっスね……」


「この能力……ひょっとしてあの子が……!!」


「え?どうしたんスか?」


「え、いや何でもないんですっホヒ」






 レプトメットは慌ててレンに反応する。彼女は実の妹の能力で自らが助かっていることに気づいたようだ。






「_____あ、"れぷとん"さん、足元……」


「ッッ、だ、大丈夫。大丈夫だから」




 レプトメットの足首はほんの少しであるが、火傷を負っていた。


 それを心配そうに見つめるレンは、辺りを見渡し、電磁波のおかげで未だ蒸発していない飲み水がガラスコップの中にあった。


 それに自らの持っていたハンカチを浸し、手際よくレプトメットの足の火傷をそれで包む。






「これでよし…と」


「…ねえ、どうして?ふ、普通の人には今、この状況でそんなに冷静に、今日会った素情も知らない誰かのためにできるはずないのに。貴女はな、なぜ施せるの……?」




 レプトメットが問う言葉に、レンは答える。






「人は誰しも運命共同体っス。自分のため、誰かのためとかじゃなくって、助け合うことで見えてくることや生まれる何かがあるはずなんっス。そういうの、なんかの漫画で読んだことあるんスけど…名前が思い出せなくて」




 たははと自重ぎみに笑うレン。レプトメットは、彼のその真っすぐな瞳に全てが語られているように思え、愚かな質問をした自分を恥じた。








「ともかく!ここから出れるように救助を頼みたいんスけど電波が届かなくて……」


「そ、そうですね…」




アンペイルの能力の電磁波によってジャミングされているのであろうか、電子端末の電波は遮られている。絶望的な状況であるが………






『(メルトぉ、もうじきに警察と消防は来るぜェェ)』


「(そう、ありがとうニトロ。助かったわ)」




 レプトメットは心の中である人物『ニトロ』と交信する。










「じきに消防隊が鎮火してくれるはずよ。警察もすでに何人か到着してるようだし」


「へ?電波繋がらないのにどうやって……」


「こ、この携帯は最新機種でしゅ……」


「へーさすが最新機種はすごいっスね!!!」








 取ってつけた様な誤魔化しにあっさり騙されるレンと、隣で安心するレプトメット。




「それなら無理に何かせずにじっと待ってた方が賢明スね!"れぷとん"さんはさすがっス!」


「メルト」


「え?」




 唐突なレプトメットの発言に理解が追いついてないレン。




「わ、私はレプトメット・イオナ。メルトって呼ばれてるからそう呼んでくれたら……その…」


「…ああ!自分は宇堂寺レンっス!!レンって呼んでください、メルトさん!」






 互いの"本当の名前"を教え合う二人。


 改めての自己紹介でニコニコしているレン。そして頬を赤らめながらも「よろしく」と小声で答えるレプトメット、及び、メルト。


 目前の焼け野原に似合わず、なんだか甘酸っぱい雰囲気が二人から醸し出されていた。


















「金……カネ…カネが…ないとオデは……」






 じりじりと温度を上げ、空気中の酸素も少しずつ少なくなっている店の中では、熱を持った強盗が能力で逃げ遅れた人々を守るアンペイルに近づく。




「なあ、あのオッサンもアンタと同じ超能力者なのか」


「超能力者というより、『薬』の乱用者だ。てめぇにゃ説明しても分からねえだろうが、『薬』に適用した人間が使える能力をそのまま犯罪に運用してるって言えばわかるか?」






 アンペイルが説明をしている間にも、強盗と火の手は徐々に近づく。




「ありゃあ多分『薬』の力を抑制する薬を買う代金を強盗して集めてるんだろうな、オレにゃわかるさ」


「『薬』って、まさか【チップ】の事じゃ…」


「な、なんでてめぇが知って……!!!!」






 アンペイルの目前に、強盗は立ちはだかる。それも、大きな口を開け、息を思いっきり吸って大きな火炎を吐き散らそうとして。




「金……持ってないなら殺、すぅ~~~~~~~~~」




 彼の一吸いは長い、しかし確実にカイリ達を焼き殺せるほどの火炎を、蓄えている。






「……クソ、ちょっとツイてねーな。これに耐えれたら褒めてくれよな、店員!!!」




 アンペイルは火炎を迎える気満々だ。しかし、アンペイル自身もそれに耐えられる余裕など何処にもないことは分かっている。










「……ちょい待てよ」




 カイリはアンペイルの後ろでそう呟く。




「守ってくれてんのはありがたいけど、なんでも一人で背負い込むなんてやめてくれよ」


「……うっせーな!てめぇ何もできねえならすっこんでろ!!!」






 カイリはアンペイルの横に立ち、そう言い放つ。アンペイルはカイリの身を案じ、後ろへ下がらせようと言い放つ。












「やかましいバカ!!俺もそれに付き合わさせてもらう!!ネギー!俺に出来ることを、解析してくれ!!」






 アンペイルの"心配"を退けるカイリはネギーを呼びつけ、今できる最善の手を問う。


 アンペイルは『ネギー』という単語を聞き慣れず、不思議そうにカイリを見る。








『やれやれ、それでこそ我の器である貴公よ』


『貴公の左腕として、協力してやろう……奴に向かって、左手をかざせ』








 ネギーは呆れながらも誇らしく、カイリの要件を承諾する。カイリは言われたままの通り、強盗へ左の手の平をかざす。






「……で、どうすりゃいいんだ」








『そのままで、待機』


「え"ぇ"~~!?」




 カイリの驚きの声に呼応するかのごとく、強盗は思いっきりの火炎放射を口から発射する。














『ほれ、変換するぞ。じっとしておれよ』




 刹那、吐き出された火炎放射、そして周りで燃え盛る炎はカイリの左の手の平へと悉く吸収され、『仕舞い込まれる』。








「…………あ~~~~~~?」




 店内の火が全てカイリの左手に飲み込まれ、不思議に思っている強盗。カイリもアンペイルも、その感情は同じであった。








「…あ、今チャンスじゃね?」




 カイリがアンペイルにそう忠告すると、アンペイルは発破をかけられたかのように高速で強盗を組み伏せる。さらに……






「これはお見舞いって奴だ。受け取れ」


 アンペイルは強盗に指を突き立てる。


 すると強盗は一瞬感電し、ビクンと身体を跳ね上げたのち、ぐったりと身体の力が抜ける。








「……ネギー、何したんだ?」


『多量のエネルギーの塊がそこにあったから、それを物質化した。それだけのことよ』


「?????」






 ネギーの説明はこうだ。


 反物質と物質を対消滅させれば多大なエネルギーが発生する。


 ならば、そ・の・逆・も可能であるという事であり、「反物質人間アンチマン」の力で周りの熱や化学反応のエネルギーをそのまま物質と反物質へと還元したのだという。


 最も、生成された物質と反物質はほんの雀の涙以下の、1000分の1グラムにも満たない量なのだとか。




 カイリには、なるほどなあ、としか言えなかった。自分は左手をかざしただけなのだから。


 能力を使ったときからカイリの左手は漆黒に塗れており、説明している時のネギーの『顔』もそこから出ていた。






「カイリくぅん!!」


「あ、アンペイリア…!大丈夫だった?」




 妹の身を案じるメルトとカイリに抱き着くレン。二人とも無事であったようだ。










「とりあえず、一件落着……か」


「お疲れ様だな、"カイリ君"よぉ」






安堵するカイリの後ろから、アンペイルがぽん、と肩に手を置く。








「まずは礼を言っておく。あんがとよ。おめぇも、能力使いだったのは驚いたが……」








「もう一つ言いてぇのは」






 一呼吸置きカイリに言い放つ。






「てめぇか……???違法チップ使用疑いの『斗桝カイリ(とますかいり)』てのはァ」






 右手に持った資料を見せつけ、左手指でカイリを指差す。












「…違います」












 ガチャン、とカイリの手首から、手錠をかけられる音がした。








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