金木犀
時任 花歩
木の隅の小さな花
ふたつみっつ咲いただけで、ふわっと香りがする。木の隅の小さな花。遊歩道を歩きながら鼻で季節を感じる。昨日までは、まだ草の匂いがすると思っていたが、今日はもう金木犀の甘い匂いがする。その匂いに足を止め、辺りを見回すと、緑色に小さく橙色が浮いている。もう、秋なのだ。あと1.2週間もすればこの小さな橙色が緑を覆い隠して、甘くていい匂いで町中を満たして、そして全て、床に落ちる。散ってしまえば香りはしない。橙色の絨毯を作って終わる。沢山の足や車輪に踏まれて黒く、ぐちゃぐちゃになる。金木犀が咲くと気持ちが上向きになって、毎日外に出ようと思える。でもこの花はすぐに散る。散ってしまえば終わってしまう。来年咲く金木犀は同じ花じゃないんだ。私よりも命が短い花に憐れみの情が湧く。物事は始まる前と最初のほうがいい。真ん中まで終わるとどんどん楽しみと悲しみが入れ替わって最後は祭りの後みたいに寂しくなってしまう。でも、花の美しさはその儚さにある。散ってしまうから短い時間しか咲けないからこそ美しい。永遠の美なんてないんだろうな。永遠である事が美ではないから。今年も金木犀が咲いて私の心は花やぐ。意図していなくても、花に救われる人は沢山いる。私は足を一歩前に出してこう呟く。
「じゃあ可愛らしいあなた、今年もそのかぐわしい香りで世界を少しだけ明るくしてくださいね。」
金木犀 時任 花歩 @mayonaka0230
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