第7話

「お前、うラギレよ?」

「....」

 またしても現れたソレは耳元でさっきからずっと「裏切れ」「殺せ」などと囁き続ける。

 別に戦闘に関しては支障はないものの、鬱陶しいことこの上ない。だが聞き続けているうちに自分の意思のように感じ始めた。

「裏....切るよ」

「おオ.....ウれしイねえ」

 楽しそうにそう言うと嘘のように消え去り、今考えていることは適当な場所で一人ずつ始末しよう。という思いだけだった。



「そっち行った! 死角に注意!」

「分かってる」

 長い銃身の零式を構えながら『ミント』が逃げ込んだ部屋へとスイセンが突入し、遅れてアヤメも部屋へと入った。

「クリア!」

「こっちも――どこへ消えたんですかね」

 構えていた零式を下ろし、スイセンが不思議そうな声で呟きながらあたりを捜索し始める。

 壁や床に空いた穴の中をのぞき込んだり時には撃ち込んだりするも無反応だった。

「ベタですけどここだったりして――」

 そう言いながらスイセンが零式の銃口部分でベッドの下をめくると中から『ミント』の触手が出てきて絡みついてくる。

「なっ、この!」

 絡みつかれた零式から振りほどこうと横に激しく振るも触手は離さず、段々メキメキと悲鳴を上げた。

「アヤメさん!」

 スイセンが呼ぶと、アヤメは捜索していた小部屋から飛び出し触手が伸びるベッドへ狙いを向ける。だが、すぐその隣にあるクローゼットの方へ狙いを変えて零参式のセレクターをフルオートに変えて引き金を引いた。

 鋭い連射音と共にクローゼットはたちまち穴だらけとなりそこから液体が滲み出る。

「aaaaaa...」

 いつものように奇声を上げながらバタンと倒れ、零肆式に絡みついていた触手の力も緩まり振り払ってスイセンは負荷確認をした。

「助かりました。流石、百発百中の『眼』ですね」

「スイさん達の持つ『眼』の方が良いですよ。こんな視るだけの能力なんて……」

 スイセンは褒めるつもりで言ったがアヤメは好意的に受け止めず、むしろ自分のその能力を軽蔑しているように呟いていた。

 その頃シオンとオダマキは長廊下で迫ってくる『ミント』の群れを相手取っていた。

「多すぎない!?」

「泣き言は後! 今は集中!」

 文句を言いながらも迫る『ミント』を相手取っているシオンは遮蔽物に隠れ、近づいてきたのを的確に撃ってまた隠れてを繰り返し、その奥でオダマキが零肆式の銃身を花壇に預けながら連射し続けて行動を制限させる。

「アンプル切れ! カバー!」

「了解!」

 一瞬引き金を引く指を止め、弾幕が晴れた瞬間にシオンが後ろへ後退し『ミント』たちもチャンスと言わんばかりに距離を詰めようと後を追ってきた。

「伏せて!」

 鋭い声にシオンはバッと地面に伏せるとついさっきまで頭があった場所を弾幕が通り抜け、『ミント』たちが倒れる。

「そのまま匍匐でこっちに!」

「うう....」

 ズルズルと身体を引きずるように進みなんとか撤退地点まで戻るとカルミアがアンプルの入った箱を手渡してきた。

「Ⅱ型は一番右側のです」

「ありがとう~」

 詰められているアンプルを取り出して胸ポケットに三本、腰のホルスターへ四本差してから新しく取り出した一本を零弐式に装填し発光したのを確認してオダマキと共に掃射する。

「aaa!kararara.....」

 突如一体が叫び、その声を聞いた『ミント』たちは押し寄せようとしていたが素直に応じ、彼女らに背中を見せて奥へと消えていった。

「え?」

「驚いた。リーダー格がいたとは」

 戦場に長年身を置いてきたオダマキも初めて見た光景らしく驚きと同時に警戒する口調で呟いていると近くでピクピクと蠢く生き残りを見つける。

「せめてひと思いに―――」

 零肆式の銃口を向け、引き金を引こうとして射線上にカルミアが出る。

「カルミア、どいてくれ」

「殺さないでください。生きた植物Ⅱ類を見るのは初めてなんです」

 カルミアはオダマキの脅しに屈しず逆に睨み返し反抗してくる。

 しばらく銃口を下ろさず、そのままにしていたオダマキはフッと笑いながら零肆式を収め、『ミント』たちが消えた奥へ歩みを進める。

「いいだろう。それで何かが分かるなら頼む」

「必ず希望に応えます!」

 どこから取り出した器具を両手に携え、虫の息の『ミント』へ駆け寄り仰向けにさせた。

「えいっ」

「uruaaaaaaaaaa!!」

 カルミアがメスを腹部に当たる場所へ入れると今までに聞いたことのない叫び声をあげた『ミント』は先程の弱々しかった様子はどこへ行ったのか全力で暴れ、シオンがそれを取り押さえる。

「カルミアさん早く!」

「言われなくても分かってます」

 取り押さえられながらも少女一人程度造作もないのかどんどん暴れ、終いには触手を周りへ無差別に叩きつけ始めた。

「ここが心臓のような場所ならここは…なら、コレは何?」

 グチャグチャと音を立てながらカルミアはメスで切り開き、丁寧に観察しながら構造は酷似しながらも人間には無い謎の臓器を切る。

「aaaaa....」

 謎の臓器を切られた『ミント』は無抵抗になり、やがてジュクジュクと泡と煙を上げながらいた場所はいつの間にか草が生い茂っていた。

「あれが核となる場所....」

「あ、ああ....」

 真剣に様子をメモしているカルミアとは対照的にシオンはさっきまで生きていたという実感のあった『ミント』が自分の手の中で死に、その死に際にこちらを見てきてうっかりそれと視線が合ってしまい、深淵を覗き『繋がって』しまった。


 許サナい助けて死にタクないイタイ痛いお願イ


「ああああ!!!」

「シオン!」

 覗いた際に生じた言葉はシオンの脳内を駆け巡り、まるで底なし沼のようにまとわりついて彼女を連れ去ろうとし思わず耳を押さえその場にしゃがみ込んで悲鳴をあげる。

「シオン! シオン!」

「誰か! 誰か来て下さい!」

 子供のように縮こまって泣きじゃくるシオンをオダマキが抱え、カルミアは近くで残党処理をしていたカンパニュラを探す。

 扉の開いていた部屋を五つほど探し、六つ目の部屋の中でカンパニュラが漁っているのをカルミアは見つけ、駆け寄りシオンの状態を詳しく話した。

「カンパニュラさん何か知ってますか?急にシオンさんが耳を押さえて泣きじゃくって.....って聞いてますか?」

「うん。聞いてるよ? それで、今シオンはどこに?」

 カンパニュラはこちらに顔も向けず未だ捜索を続け、カルミアは少し憤慨しながらもオダマキが一緒にいることを伝える。

「そう。なら今ここに居るのは私たち二人だけなんだ?」

「ええ、まあそういうことになります」

 カンパニュラの発言に薄気味悪さを覚えたカルミアだがそんな心配は気のせいと言わんばかりにカンパニュラが捜索を打ち切り、部屋を出ようと彼女の前を通り過ぎていった。

 考えすぎだったと思ったカルミアは胸をなでおろし、ついて行こうとした瞬間にカチャンという扉のロックがかかる音が聞こえる。

「え?」

「まずは一人」

 そう言いながら振り返ったカンパニュラの目の色は透き通るような青から濁った緑色に変色し、こちらを見据えながら後ずさるカルミアへ迫ってきた。

「え、え、辞めてください。なんの冗談―――むぐっ!?」

「冗談でも何でもないよ。君は死ぬの」

 冷ややかに、それでもどこか同情的な口調でカンパニュラは言いながらカルミアの口へ枕を置き、上から押さえつける。

「んー! んー!」

 自分より小さいカンパニュラだが軍人である彼女の筋力はカルミアよりも強く、必死の抵抗も空しく意識が遠のき始めた時にロックがかかっていたドアが蹴破られる音が響き渡った。

「っ!––––はぁ、はあ」

一瞬そちらに意識を取られたカンパニュラの隙をついてなんとか逃げたカルミアはドアの前で仁王立ちするオダマキに駆け寄る。

「カンパニュラ?」

「隊長....」

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