第6話
時計塔の上から狙撃をしていた犯人は六人が塔の中に入っていくのを確認すると狙撃銃を下ろし、そのまま座り込んでいると声が聞こえる。
「オ前わザト外しタな?」
「黙れ。外道が」
耳元で不快な声でぺちゃくちゃと喋る何かに犯人は両耳を塞いで丸まりしばらくするとやがて立ち上がり、銃のスコープを外して地面に落とした。
「これからは嘘つき同士の騙し合いになりそうね」
ボルトを引くと空のアンプルが排莢され、パリンと床に当たって割れる。
既に先程の不快な声は聞こえず、意識は深淵に預けられた。
「ふう.....休息は終わりだ。さあ行くよ」
弾丸の雨に襲われ、そこから解放された六人は時計塔内で息を整えてオダマキが先導して時計塔内を探索し始める。
時計塔の一階部分はかつて宿泊施設だったらしい。だが大半は扉が封鎖されており、一つ一つを開けてクリアリングをしながら進んでいた。
「私が視ましょうか?」
「いや、アヤメの『眼』は温存。それに隊長の私にもカッコいい所を披露させてくれないか?」
オダマキはアヤメの申し出を却下しながらもフォローも欠かさずに歩いていると長廊下の奥にある扉が突然吹き飛んだ。
「警戒。十二時の方向」
スイセンが即座に零式を構え、それを視る。埃が舞う中黒い人影がユラユラとこちらに歩み寄ってきて姿を見せると息を呑む。
「カ―――」
「メディウム!」
スイセンらが名を呼ぶよりも早くアキノが下の名で呼び、零式を思わず下ろして駆け寄った。
「アキノ...あっ」
近寄ってくるアキノに手を伸ばそうとして足元の瓦礫に足を取られてバランスを崩す。
しかし、滑り込みでアキノが追いつき、小柄な身体は彼女の胸の壁ダイブした。
「生きてたんだな! 心配してたんだぞ!」
「アンタも元気そうね.....”キリン”」
目に涙を溜めながら喜びを隠せないアキノへ行方不明とされていた偵察員カンパニュラは笑いかけ、ガクッと気絶した。
「―――どれくらい寝てた?」
「二時間ピッタリ。相変わらずその体内時計だけは万全だな」
近くのベンチに寝かされていたカンパニュラは起き上がろうとしてコートのようなものが羽織られていたのに気づく。
「無いよりはマシだと思ってね」
「....ありがとう」
素直に礼を言われたことにアキノは驚いたのか持っていた時計の蓋をパチンと閉じてから硬直し、その顔に浮かべている絶妙な表情を見てカンパニュラはコロコロと笑っていると周囲を警戒していた五人が帰ってきた。
「あ、おはようカンパニュラ!」
「シオン久しぶり」
相変わらず活発なシオンに応じ、無言で肩を叩いた二人には笑顔で返すとオダマキが口を開く。
「報告を。メディウム」
「はい。───あれ?」
話そうとしてカンパニュラは突然この最近行った偵察任務の記憶が抜け落ち、思い出せなくなって沈黙した。
「メディウム? 大丈夫かい?」
「あ、大丈夫です。ただ思い出せなくて.....」
ズキンと頭に走った鈍い痛みに顔をしかめたカンパニュラへオダマキはそれ以上何も言わず、その様子を見て何かを思いついたシオンが近くの廃墟へと走っていき数分後に皆を手招く。
「久しぶりだし、カルミアのためにも自己紹介しない?」
とりあえず周りから拾ってきたらしい形様々な椅子が六つ円状の机を囲むように並べられそれぞれが席に座り、言い出したシオンから元気よく自己紹介を始めた。
「私はシオン! Ⅱ型花人で確か今年で十五歳!」
「アヤメ・フリージア。Ⅲ型花人でシオンと同い年」
「アキノ・キリンだ。いつか言ったけどⅠ型花人で十七歳」
「リコリス・スイセン。アキノさんと同じくⅠ型で年は十六歳です」
「カンパニュラ・メディウム。Ⅳ型花人で十三歳」
「十三歳なんですか!?」
カルミアの疑問にカンパニュラは不思議そうな顔をしながらも頷くとカルミアはさらに驚いた。
「アキレギア・オダマキ。花人機械化混合隊隊長でカンパニュラと同じくⅣ型花人だ。それで年は最年長の二十一」
「せ、成人済みなんですか.....」
カルミアの意見にオダマキは何かを知っているかのように意味ありげに頷き、手で彼女の番だと伝える。
「か、カルミア・ツツジと申します。アンセルムス公国では研究主任を務めていて、皆さんが今持っている零シリーズの―――試作品『001』の開発者です。あ、年は十七です」
「年上だったの! ごめんなさいタメ口で喋ってしまって」
謝るシオンにカルミアは慌てて顔を上げるように願い、みんなの距離が縮まった頃には既に陽は沈みかけており野営をすることにした。
「これが野営飯.....!」
「ただの
興奮しているカルミアへアヤメが説明するもそれでも十分、と言わんばかりに目を輝かせながら温められたそれを受け取り、今か今かとその時を待っていた。
全員がそれぞれ温められた携帯食の封を開けて中と対面し各々の感想を口にする。
「今日は.....お、肉だ」
「え~隊長いいな~。私またスパゲティ~」
「シオン私のと交換する? これミートボールだけど」
「ありがとうアヤメ~」
「スイセンは相変わらずそのビーツ? とかいう乾燥野菜か」
「ええ。ですがこれで尽きてしまったので明日からは携帯食生活ですね」
花人機械化混合隊と一人の研究者たちは近くにあった廃材から焚火を起こし、それを囲むようにして晩御飯を食べながら過ごした。
「ふう....」
「ごちそうさまでした」
食べ終わり、すっかり暗くなった外を見ているとオダマキとスイセン以外は既に寝袋を展開して寝る準備に入っておりカルミアも慌てて出発前にまとめていた旅行鞄から寝袋を取り出して包まる。
「じゃあ一時間後に」
「おやすみ~」
一瞬で眠った面々と違いカルミアは中々寝付けずに硝子が張られていたであろう枠からふと、外を眺めると現実離れした景色を目の当たりにした。
「わあ....!」
キラキラと星が煌めき、二等星どころか三等星まで見えそうなほど澄んだ星空。そして今日は運が良かったのか流星群まで見え、カルミアはその景色にうっとりとする。
「奇麗だな」
「ええ。野営の数少ない良い所です」
オダマキとスイセンは火を絶やさずに外を見ながら話し、その火でコーヒーを作り飲みながら過ごしているとアキノとアヤメが起きてくる。
「交代です」
「さっき飲んだばかりで目が冴えてるんだ。少し外を見てくるよ」
アヤメたちと交代した二人はそう言って時計塔の一階部分から中庭へと出てそこに寝転がり、視界から消えた。
「いいなぁ.....」
「まだ起きてたのか。研究者サン」
思わずこぼれ出た言葉に反応されたことに驚いたカルミアは寝袋に入っていることも忘れて飛び起き、その姿を見たアキノはコーヒーを吹き出してしまった。
「コーヒー飲める?」
「ええ。ありがとうございます」
出されたコーヒーは最低限の味しかせず、いかに軍の物は雑だと思い知らされたがカルミアはこの星空の下で飲めるコーヒーなら世界で一番美味しいと感じていた。
「その.....ごめんな」
「え?」
空を眺めていると突然アキノに謝られる。
「いや、初めて会った時アンタのこと蹴っ飛ばしたろ? 本当にごめん」
「べ、別にいいですよ! 私だってちょっと問題ありましたし....」
言いながらもカルミアの脳裏ではその時の情景が思い浮かび、ポッと赤くなる。
それからはお互いに何も喋らず過ごしているとシオンとカンパニュラが起きて交代した二人は再び寝袋に入り、眠りに落ちた。
明朝、起きた六人はパサパサの乾パンを口にしながら栄養を摂取し、近くにあった湧き水で顔を洗い、装備を整え出発する。
「本格的に捜索をする。気を付けてくれ」
「了解」
各員、二人一組のバディを組んで散開しオダマキとカルミアはロビーだった場所で待機していた。
十分後、カルミアがオダマキに質問をする。
「少しだけ周りを見に行ってもいいですか?」
「サンプル回収のため?」
コクコクと頷くとオダマキは離れすぎないを条件に許可した。
「これとこれは原種かな?──ん?」
コンクリート製の床をかき分けて生えていた草を切ったり解放済の部屋の中で見つけた微生物を試験管の中へ詰めたりしていたカルミアは部屋の中で舞う花弁を見つける。
それは紫色の花弁で、カルミアの手に触れた瞬間ジュクジュクと音を立てて枯れ塵になった。
「え? なにこれ.....」
不思議な体験をしながらロビーに戻るとオダマキが待っており、こちらに小さく手を振ってきたので近寄ると彼女の表情は硬くなる。
「こっちに走って!」
「え?」
言われた意味が分からずにいると黒い影が見え、思わず後ろを向くと自分より一回りも大きい『ミント』が立っていた。
「kararararara.....」
(あ、終わった)
カルミアは瞬時に察し、目を瞑っていると銃弾が飛んできて『ミント』は倒れる。
「早く! こっち!」
「あ、すいません」
放心状態だったカルミアの腕を引きながらオダマキはすぐにロビー部に放置されていた机をバリケード代わりにして零肆式を構えているとシオンが帰ってきた。
「あれ? どうしたの?」
「シオン、敵だ」
「了解!」
瞬時に零弐式を抜いてバリケードを飛び越えて迎撃に向かった。
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