第3話
「––––それでアンタは本部から来た作業員で
「はい...これで容疑も晴れたんですし解いてくれません……か?」
椅子に縛り付けられたまま、片目を隠す程長い薄いピンクの髪の間から伺い見てくる元不審者へアキノは事情を聴いて仔細を理解した後でも縄を解かず、そのまま書類と一緒に机の上に置いていたホルスターベルトから銃を抜いて額に銃口を突きつける。
「まあ、私たちの元に来た時点で死ぬけどね」
「え?」
アキノが引き金を引こうとした瞬間、シオンが出てきた。
「その人殺さないでアキノさん!」
「シオン? 大丈夫なの?」
銃を下ろし、シャツを着た状態のシオンに質問すると無言で頷く。
「その人、私たちと同じだった」
「…本当?」
コクコクと無言で頷くとアキノはやっと不審者の縄を解き、縄を解かれた不審者は勢いよく立ち上がりテントの外へとダッシュで去っていった。
「本当に同じだったの?」
「えへへ」
アキノはシオンのその笑顔で嘘だと気づき、大きめのため息をついているとアヤメがホルスターを腰に巻いて不審者の後を追おうとしていたので止めた。
「シオン、ああいうときは怒っていいんだよ。いつもみたいにニコニコしてないで拳を使っていいの」
「そんなの可哀そうだよ。あと私も痛くなるからヤダ」
少し膨れながら反抗するシオンにアヤメはデコピンを軽くしながら笑い、ポケットから一つ小さな木箱を出して渡す。
「これ何?」
「開けばわかるよ」
ワクワクしながら開けて中身を見たシオンは満面の笑みを浮かべ、取り出す。
取り出したソレを光に透かしたり、軽く揺らして煌めきを見たりしてはしゃぎ、しばらくしてからアヤメに向き直り感謝する。
「ありがとう! アヤメ!」
それはアンプルだった。アキノから既にシオンが使用できるセットの予備が尽きてしまい、できれば探してほしいということを受けこの短時間で彼女は探し、二本だけ見つけ箱詰めにして渡したのだった。
「ただいま戻りました」
「あ! スイさん! ねえねえ見て~!」
時同じくしてテントに疲れ果てた声と共に、アヤメより少し背が高く肌の露出が少ない兵士が入ってきて、シオンは渡されたばかりのアンプルを見せようと駆けて行った。
「おお、シオンさんお久しぶりですね。いつもは中期強襲と長期任務重なりませんから、今日もいないのかと寂しく思っていたところです」
「久しぶり! アヤメもいるよ!」
無言でアヤメが会釈するとスイセンはフェイスカバーを外しながら笑顔で返し、シオンがまたまた話しかける。
「でねでね、さっき皆で不審者を捕まえたの!」
「不審者?」
突然スイセンは顔を曇らせ、事務作業をしていたアキノの手も止まり、パチパチと言うタイプライターの音が消えた。
「あの、失礼します……」
「うぇ!?」
突如スイセンの背後から淡いピンク色の髪を揺らしながら出てきた少女を見てシオンは驚き、声を上げた。
「さっきの不審者!」
「ん? もしかして彼女のこと?」
頭に包帯を巻き、アタッシュケースを抱えてスイセンにベッタリな少女をシオンは注視する。
「私シオン。さっきはごめんね」
「か、カルミア・ツツジです....」
出された手をおっかなびっくりしながら握り返したカルミアにシオンは笑顔で飛び跳ねる。
「やった~! 友達だ~!」
「ああ、そうそう。彼女は本部から『贈り物』を持ってきたんです」
目で合図をするとカルミアは大事そうに持っていたアタッシュケースをテント中央にある長机に置く。
置いたアタッシュケースの錠前をカチカチと弄ってロックを解除し、最後に自分の首に提げていた鍵を差し込んで錠を開く。
「はいじゃあ、型順に並んでください」
「スイさん、オダマキ隊長来てません」
アヤメの指摘に彼女は頷き、列に加わるよう促し自身が先頭に並ぶ。
「私とあなたはこれですよ。アキノさん」
「おお、なんというか……凄いね」
アタッシュケースにある銃の中からアキノとスイセンは『Ⅰ』と刻印された銃を取り出して列から外れ、続いてシオンが『Ⅱ』と刻印された銃を、アヤメも『Ⅲ』と刻印された銃を持ち、最後にカルミアが『Ⅳ』と刻印された銃を取る。
「これは、零シリーズという首都で最近開発された試作銃です。装填方法は皆さんが使っている旧式と同じ方法でアンプル挿入、そして安全装置を外せばすぐに撃てます」
「へえ……どれくらい撃てるの?」
シオンは箱から取り出したばっかりのリボルバーと形がよく似た銃を持ち上げたり空洞のシリンダー部分にアンプルを差し込もうとしたりして遊びながら質問する。
「シオンさんが持っている零弐式銃は一本のアンプルで45発射撃可能です」
「おお! 私たちが今使っている弐拾年式が20発しか撃てないから大幅増量だね!」
カルミアが強く頷き、言葉に少し熱が籠る。
「さらにシオンさんの使用している零弐式は形状を古式なものに変更し、使い勝手もいいように頑張りました。重量は比較すると―――」
「ストップストップ! 私そういうの分からないから頭パンクしちゃう」
制されてからカルミアは喋りすぎたと反省しながら、アキノとスイセンが抱えている方も説明をする。
「アキノ、さんとスイさんが持っているのは零式銃と呼ばれていて狙撃に重きを置いて開発されており、一本のアンプルで15発射撃可能です」
「なるほど。射撃センスのあるⅠ型のため、ってことか」
ボルトを引くとアンプルを挿入する場所が見え、アキノは試しにアンプルを一本差し込んでボルトを戻す。
銃身が黄色に発光し、射撃可能なのを示しアキノはテントの外に出てスコープを覗き込む。
「倍率は?」
「最大二十倍です」
ひゅう、と口笛を吹いて感心しながらアンプルを取り出して早速動作点検を始めた。
「私のは? 明らかにみんなと違うようだけど」
アヤメは弐拾年式より少し大きめな拳銃のような形をしたモノを見せながら質問する。
「アヤメさんのは零参式銃と言って、装弾数は皆さんの中でも二番目に多い五十発。自動化拳銃なのでフルオート射撃も可能です。ですので残弾管理、アンプル量も気を付けてください」
「言われなくても分かっているわ」
スライドを引いてカチン、と言う金属同士の当たる音を聞きながら満足そうにアヤメは笑っていると同時にテント真ん中に吊るしている無線から指令が入る。
《旧首都奪還作戦、試行#403を開始せよ》
「このタイミングかあ.....」
「さあ隊長抜きとは言え頑張りますよ」
「まあ、隊長ならもう現地にいるかも」
「誰か私のパンツ知らない~?」
「アンプルセット持って行ってよねシオン」
「あ、忘れてた!」
まったり緩い会話をしながら急がず、慌てず迅速に装備を整え新しく渡された銃をホルスターに収めたシオン、アヤメは真っ先にテントを出て移動し、アキノとスイセンはスリングに肩を通しながら後を追った。
「ま、待ってください!」
慌ててカルミアは机に放置されていた弐拾年式を持ってテントの外へ出て行った。
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