旧首都奪還作戦
第4話
「『ミント』とか出てこなかったら秘境探検みたいだよね~」
「シオンさん、一応戦闘区域ですので気を付けてくださいよ」
もう人の手が入らずに久しい、かつて営みが行われていた場所を五人の少女たちは通りを歩きながら、はしゃいでいるシオンをスイセンが宥めながら進んでいると店だった廃墟の中からチカチカと光るビーコンが目に入る。
「あったあった。それじゃあ、しばらくお世話になります」
「あそこイヤなんだよね...」
ビーコンの下にある隠されたレバーを引くと、小さな地鳴りを起こしながら廃墟の中にポッカリと人一人が入れる穴が現れ、そこから一人の女性が顔を出す。
「お、機械化混合隊の奴らじゃん。久しぶり」
「久しぶりですね連隊の皆さん。またしばらくお世話になります」
先頭に立つスイセンが世間話に応ずると頷き、首をひっこめたので順々に中へ入っていく。
中に入ると少し開けた鋼鉄の空間に出てそこを直進すると作戦室へとつながっており、そこではブリーフィングを終えたばかりだったのか戦闘服に指揮官や隊長を示す腕輪を着けた数人の男女が談笑していた。
そして談笑していた中で似合わないスーツ姿で長身の一人が彼女らに気づくと会話を中断して近づいてくる。
「久しぶりだね”フリージア”」
「その名で呼ぶのはやめてくださいオダマキ隊長」
秘匿基地内でアヤメは照れながらオダマキと呼んだ女性に抗議するとオダマキは彼女の頭を優しくなでる。
「隊長久しぶり! やっぱりいたね!」
「見ない間に(色々と)大きくなったねシオン」
天井の低い基地で頭をぶつける勢いで飛び上がり、三回目の飛翔でゴンッと鈍い音を基地内に響かせ、アヤメに抱えられて奥の医務室へと運ばれていった。
「早く書類片づけに帰ってきてくれよ、マキ」
「アキノ、君の技量であればなんとかなるって信じているからさ」
やれやれ、とどこか諦めつつも晴れ晴れとした笑顔でアキノは荷物をまとめて部屋へと向かう。
「昨日私たちが撤退する際、援護射撃をしてくれていましたね? ありがとうございます」
「何のことやら? でも、今こうして生きているのを見る限りなんとかなったらしいね」
スイセンに感謝をされたオダマキは爽やかな笑顔で返答し、がっしりと握手を交わして自分の部屋へと戻ろうとしてカルミアに止められた。
「あの、オダマキ隊長.....これ!」
「ん? 君は――コレを私に?」
背負っていた大型の機関銃のような黒い物体をオダマキにカルミアは背伸びしながら渡すと、抱きしめられる。
「ありがとう。これでまた前線で君たちを助けられる」
「わわわわ、私は――その...」
混乱と恥ずかしさから呂律が回らず結局顔を赤くしながら抱きしめられ続けるカルミアにオダマキは改めて感謝を述べる。
「本当にありがとう」
「ひゃ、ひゃい.....」
オダマキから離れられるとヘナヘナと腰を抜かし見上げたままのカルミアは彼女の容姿を注視した。
スラリと無駄のない肉体と後ろにまとめられた赤と紫の混ざる髪。直線的に区切られているのではなくグラデーションのようで、見る者に謎のときめきを抱かせる。
決め手は人を射抜きつつも優しさを含んでいるような鋭い目つき。
「ところで、コレの使用法を教えてもらってもいいかい?」
「わ、分かりました....あ、あの」
「ん?」
未だ立ち上がれないカルミアは顔をさらに赤らめながらか細い声で願いを言う。
「腰が抜けて歩けないので抱えてもらってもいいで、すか?」
オダマキは少し考えた後に頷き、笑顔を浮かべ承諾した。
「いいとも。さあ、掴まって」
「わわっ」
簡単に持ち上げられさらにおぶってもらうのだと勘違いしていたカルミアはお姫様抱っこでさらに顔を赤くし、もはや動くこともなく大人しく運ばれていった。
道中珍しいものを見るかのような好奇の視線や羨むような(主にアヤメからの)視線を喰らいながらカルミアはオダマキの部屋に抱えられて入る。
「それで、コレはどんな風に使うのかな? 博士」
「は、博士だなんて呼ばれる筋合いは.....コホン、これは零肆式銃と言ってここのレバーを引いてから上部蓋を開いて中にアンプルを置いてあとは戻してレバーを叩くと射撃可能になります。装弾数は一本のアンプルで百発撃てます。でも、可能な限り撃てるようにしたため威力はかなり落ちてます。気を付けてください」
照れながら話しつつもきちんと説明したカルミアにオダマキは頷き、零肆式銃を愛おしそうに撫でながら彼女と交互に見比べる。
「今まで私の部隊に君みたいな子は見たことがない。メディウムとも違うし、新入りかい?」
「私はカルミア・ツツジって言います! アンセルムス公国、第三研究試験科所属で実地研修も兼ねて花人機械化混合部隊に配属されました!」
首都からわざわざここまで来たという彼女をオダマキは驚きと感心の目線で見ていると白色電球が切れ、赤色に変わる。
「来たか」
「え?」
赤色に変色した瞬間、大半の仮設部屋の扉が勢いよく開き中から完全武装した兵士たちが無駄のない動きで外へと通ずる通路を駆けていきカルミア、オダマキ以下四人だけが基地に残った。
《こちら歩兵連隊レコンキスタ。現時刻より旧首都奪還作戦試行#403を開始する》
「こちらアリウス。奪還作戦試行#403を了解。我々も遅れてそちらに向かう」
《頼んだぞ!》
ブリーフィングルームで先に発った歩兵連隊と無線を交わしながら集合した五人を確認してからオダマキは作戦説明を始める。
「現在レコンキスタが旧首都三地区を奪還しようと行動を開始し、間もなく戦闘を開始する。今回、我々花人機械化混合隊はこれの奪還作戦には加わらずここを叩く」
そう言って地図上では時計台のある場所を指差す。
「ここを制圧すれば後続の特殊Ⅱ型花人が現在活動停止中の
「質問」
「どうぞ」
シオンが挙手し、オダマキが許可する。
「そこって強行偵察員が行方不明になった場所ですよね。これが施行されたってことは危険ではないと判断されたんですか?」
一瞬やや躊躇ってからオダマキは首を横に振る。
「確かにこの地点は彼女が行方不明になった場所だ。だが、行けと命令された以上細心の注意を払ってここを制圧するしかない。作戦内容は以上。出発は三分後、解散!」
パン、と手を叩くころにはすでに全員各々の装備を整えるため部屋に戻り、渡されたばかりの零シリーズにそれぞれの専用アンプルを挿入する。
「大丈夫。大丈夫。私は、できる......!」
緊張し、小さく震えているカルミアを囲むような陣形で秘匿基地の外を出る。
既に陽は傾き、遠くから奇声と怒号や悲鳴、何かを撃っているような音がしていた。
「さあ、作戦開始だ!」
オダマキの合図を聞くと四人は駆け出し、カルミアはオダマキに背負われて瓦礫まみれの廃墟の間を走り抜けていった。
目的地はかつて観光客などという概念のあった頃、旧首都の目玉でもあった時計塔。そしてまだ彼女らは時計塔からこちらを見ている存在に気づかなかった。
「みんな…ダメ」
こちらに向かってくる五つの点を時計塔から見下ろしながら楽しそうに嗤う生物の隣で座り込む少女は苦しそうに呟いていた。
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