57 フィナ、遊びに来る。義妹怒る
次の日の金曜日―
真菜が義兄に襲われるために、リビングで少し無防備な格好でお昼寝しているフリをしているとインターホンの音が鳴る。義妹がインターホンの受話器を取って応対すると、その来訪者はいつか来ると予想していた彼女であった。
「こんにちは、真菜ちゃん。今日はね、ケーキを持ってきました。一緒に― 」
「宗教の勧誘は結構です」
真菜はフィナの言葉を途中で遮ると、通話を切って受話器を元の場所に置く。
すると、またインターホンが鳴る。まあ、当然である。
「もう、なんですか!? うるさいですよ!?」
「あの~、真菜ちゃん? 宗教の勧誘ではありませんよ?」
「じゃあ、新聞の勧誘ですか?! 間に合っています!」
「まっ 真菜ちゃ― 」
ガチャン! 真菜はそう言うと叩きつけるように受話器を戻してしまう。が―
バシッ! とその直後、真菜の頭に和馬のチョップが叩き込まれる。
「ちょっと、
「うるせーよ、オマエは何をやっているんだ? フィナさんに失礼だろうが!」
和真は真菜の抗議を無視して叱りつける。
「だって、きっとよからぬ事を企んでいます!」
「そんな事ねえよ! 今日、彼女は家に泊まりに来たんだよ」
「はぁ!? なんですか、それは!? 私は聞いていませんよ!?」
「ああ、言い忘れていた」
もちろん、嘘である。言ったら、反対するのは目に見えていたからだ。
「ほら、やっぱりよからぬ事を企んでいたじゃないですか!」
「今日、彼女がちょっとしたホームステイを味わいたいという事で、家に泊まらせて欲しいって言ってきたんだよ。この間の戦いで、親切に色々骨を折ってくれたから、断りづらかったんだよ…」
「むぅ~~~!」
真菜はほっぺたを膨らませて、不満そうな顔をする。
しかし、義妹も前回の件では、恩に感じていたので受け入れるしか無かった。
そんな真菜を無視して、和真は早足で玄関に向かう。
リビングに残された真菜は、不満顔のまま短くしていたスカートの丈を元に戻す。
そして、ソファーの上で体育座りをして膝を抱え込むと、いじけた声でボソリと呟く。
「…………
義妹がしばらくブツブツと独り言を言っていると、玄関から和真の声が聞こえてくる。
「お待たせしました。さっきは
「いえ、こちらこそ突然押しかけてごめんなさい。これお土産のケーキです」
「わざわざ、ありがとうございます。遠慮なく上がっちゃって下さい」
「はい。お邪魔します」
和真はフィナを客間兼居間へと案内して、座布団を2つ敷いてそこに座るように促す。
「飲み物を用意してきますね。紅茶かコーヒー、それとも緑茶にしますか?」
「それなら、私が― 」
「大丈夫です! 俺に任せてください!」
「では、緑茶をお願いします」
和真はフィナの申し出を遮ると、台所の方へ向かって行く。
すると、真菜はまだ不機嫌な様子でソファーの上に寝転がっており、和真を視界に捉えると嫌味を言ってくる。
「張り切っていますね…。フィナさん、美人ですもんね…。浮気者…… 」
和真は不貞腐れた義妹を無視して、手早くお茶の準備を始める。
「真菜、フィナさんが買ってきたケーキ、冷蔵庫に閉まっておくから後で食べろよ?」
そう言うと和真は、真菜の返事を待たずにケーキを冷蔵庫の中に仕舞った。
その後、テーブルの上に置かれた二つの湯飲みには緑茶が注がれており、それをフィナの前に置く。
「どうぞ、熱いので気をつけて飲んでください」
「はい、いただきますね」
フィナは笑顔を浮かべながら、湯呑みを手に取って口に含む。
「真菜ちゃんは、まだ不機嫌そうですか?」
緑茶を一口飲んだ後に、フィナは心配そうに問いかける。
「大丈夫ですよ。ケーキを食べたらすぐに機嫌が良くなりますよ」
そう言って、和真はケーキを食べ始めるが、フィナは不安そうに彼を見つめている。
「流石に、そんな単純な子ではないと思うのですが……」
「真菜は甘い物… 特にケーキが好きなので、今頃ご機嫌になっていますよ」
和真はそう言うと、心配そうなフィナとは対象的に自信満々にケーキを頬張っていく。
「うそっ… 何なのコレ…! (このケーキ凄く美味しいです。)フィナさんのことなんて、大嫌いなのに…! 悔しいけど、(幸せを)めちゃくちゃ感じちゃうよぉ…!」
彼の言葉通りフィナの事が大嫌いだった真菜であったが、高級ケーキの前にあっさりと<陥落>していた。
「フィナさんになんて、屈したくないのに… 手が自然に動いて、食べるのを辞められない… (美味しさで)頭の中が蕩けちゃいそうだよぉ~! 私は決して、こんなモノに屈しないんだからぁ~!」
()内の台詞は補足で、真菜は言っていないため―
「心配してきてみれば、何きわどい台詞を口走ってんだ!」
「はぅ!?」
和真はエロマンガみたいな台詞を言って、R指定を引き上げそうになっている義妹の頭に制裁のチョップを叩き込む!
「
頭を押さえて、涙目になりながら抗議してくる真菜に、彼は平然とした顔で答える。
「うるせーよ。年頃の娘がはしたない言葉を口にしやがって、これは暴力ではない躾だ。チョップされたオマエも痛いかも知れないが、チョップした俺の手と心も痛いんだ」
「むぅ~!」
和真の昭和あたりで聞いたような台詞に対して、真菜は不満そうに睨んでくるが、残りのケーキに手をつけると、先程までの事を忘れてすっかり上機嫌になる。
「これは、きっと高級なケーキです! 教会の財力にモノを言わせているに違いないです! まあ、今日だけは特別にフィナさんの事を認めてあげましょう! ぱくぱく」
すると、先程までの事を忘れてすっかり上機嫌になる。
そんな真菜を見て、和真はそっと胸を撫で下ろすが、この時の彼はこのあと起きる惨劇を知る由もなかった……
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