55  祝勝会(身内)





 作戦終了後、数日掛けて町に戻ってきた和真達は、親しい者達が開いてくれた<無事に帰ってきてよかったね! お祝いしよう会>に参加していた。


 といっても、参加者は母親と咲耶、郁也と由愛、そしてフィナだけである。


 数日後には、この街の<ユビキタス支部>で今回の作戦成功の祝勝会が盛大に行われる事になっているが、和真と真菜には親しい人達が開いてくれたこの会の方がとても嬉しかった。


義兄にいさん! どうして、彼女がこの会に参加しているんですか!?」


 真菜は、このおめでたい場に似つかわしくない不機嫌な表情で、和真にフィナのことを問い詰めてくる。


「それは、彼女には今回色々世話になったからな。感謝の意味も含めて招待したんだ」


「へぇー、そうなんですねぇー。義妹いもうとの気持ちなんて全く気にせずに、誘ったんですね~」


 そう言って、真菜はとても冷たい目を和真に向けてきたが、その目はすぐにヤンデレ目になり、義兄を脅し始める。


「やっぱり、義兄にいさんにはお仕置きが必要ですね……。今回は特別に二つに絞ってあげます…… <舌を抜かれた後に喉を潰される>と<喉を潰された後に舌を抜かれる>のどちらか選んでください…… 私的には<前者>が良いと思いますが…… どうします?」


「どっちも一緒じゃねえか! しかも、どうして前者を勧めた?!」


 和真がそうツッコミを入れると、真菜はこう答えた。


「だって……、喉を先に潰すと舌を抜く時の義兄にいさんの悲鳴が、聞けないじゃないですか?」


(もう嫌ぁ……、この子ぉ……)


 和真は心の中でツッコミを入れた……。

 ―が、このままでは喉と舌が危険なので、すぐさま話題を変更する。


「ほっ ほら、真菜ちゃん。親友の由愛ちゃんが年上ばかりに囲まれているせいで、緊張してあまり楽しめてなさそうだから、相手してあげた方がいんじゃあないかな? なっ?」


「大丈夫ですよ。あの子は、のんびりした性格ですから、呑気に過ごしていますよ。なので、まずは義兄にいさんのお仕置きをしましょう」


 真菜の言う通り、由愛はニコニコしながら座っている。

 だが、ここで引き下がれば舌と喉がヤバいので、和真は食い下がることにした。


「……確かにそう見えるかもしれないが……、きっと心の中では寂しがっているよ! かわいそうに…… 無事を祝いに来た親友が相手してくれないなんてな」


「…………」


 和真にそう言われた真菜は、唯一の親友である由愛を無碍に扱えないのか、彼女のほうをチラチラと見た後に、彼にこう言ってきた。


「私はこれから由愛ちゃんとお話してきますから、義兄にいさんはその間に他の女の子と仲良くしては駄目ですからね!」


 そう言い残すと、彼女は急いで由愛のところに行き、由愛と話し始めた。


「ふぅ……」


 真菜と離れることができて、和真がホッと胸を撫で下ろすとそこに咲耶がやってくると、彼にだけ聞こえる小さな声で話し始めた。


「ねえ、和真。あのフィナさんって、フィマナちゃんに似てない? ほら、覚えてない? 小さい頃に少しの間だけ一緒に遊んだフィナさんと同じ金髪の子がいたじゃない?」


 咲耶は、和真の母親と談笑するフィナをちらりと見るとそう言ってこう返事をする。


「ああ……、俺もそう思って初めて会った時に聞いてみたけど、<違う>と本人に否定されたよ」


「そう……。じゃあ、他人のそら似かしら……」


 そう呟いた咲耶であったが、その表情は納得していないように和真には見えた。


(咲耶もフィナを見て、フィマナに似ていると感じたのか…。でも、本人は違うって言っているし…)


 和真も一度は他人だと納得した事であったが、咲耶まで似ていると感じるのであれば… と、考えてしまう。


 すると、そこに近くで話を聞いていたのか、和真の表情が気になったのか、彼はそんな言葉を投げかけてくる。


「まあ、<この世には自分にそっくりな人が3人はいる>っていうからな。他人のそら似もあるだろ」


 そんな事を言った後、彼は自分の考えを話し出す。


「もしくは、彼女には何か重大な秘密があって、正体を明かせないとか?」

「例えば?」


「実は転生者とか、実は女神とか、実はチート能力保持者とか… あっ! 未来人という可能性もあるかもな」


「最後のはともかく、2番目のはあり得なくはないんじゃないか?」

「いやいや。異世界転生者の可能性だってあると思うぜ」


 和真はのりつっこみのような感じで、郁也のラノベや漫画から着想を得たであろうオタク考察に乗っかった後に、以前から彼に言いたかったことを告げる。


「そうだ、親友よ。今度から、真菜にR-18禁やそれ相当の内容のラノベや漫画を貸さないでくれよ。あいつが変な知識を得ると困るんだよ。頼むよ」


「分かった。善処しよう」


 和真の頼みに対して、郁也は神妙な顔つきになって了承してくれたが、彼の目はどこか遠くを見つめていた。


(コイツ……。絶対、またやるだろうな……)


 和真は心の中で、そう思ったが口に出さなかった。

 すると、今度はフィナが近づいてくる。


「あら、みなさん。何のお話をしているんですか?」

「ああ、いえ……。別に大したことではないですよ。それよりも、楽しんでいます?」


「はい、楽しいです。和真、今日はこのような会に呼んでいただいて、ありがとうございます」


 フィナは和真に向かって、笑顔で答える。


「それはよかった」


 彼女の返事にこう答えた和真ではあったが、フィナは真菜と言い合っていた時も、終始笑顔で対応していたので、この笑顔は作り物なのか、それとも心の底から楽しいと思っているのか判断がつかなかった。


 彼がそう疑ってしまったのも、そもそも彼女が正体を偽っているかもしれないからだ。


(いかんいかん……。疑うような目で見ちゃ駄目だよな。彼女は今回の作戦の時に、色々世話を焼いてくれたじゃないか)


 和真は気持ちを切り替えると、彼女達との会話を楽しんだ。


 その時、背後から殺気を帯びた視線を感じる!


 その視線の持ち主の正体は一目瞭然だが、和真は一応確認のために振り向いてみると、そこには案の定、ヤンデレ目の真菜がいた! どうやら、和真が自分の忠告を無視して、咲耶とフィナに話しかけたりしているために嫉妬をしているらしい。


「後でお仕置きです! 後でお仕置きです! 後でお仕置きです! 後でお仕置きです! 後でお仕置きです! 後でお仕置きです! 後でお仕置きです! 後でお仕置きです! 後でお仕置きです! 後でお仕置きです! 後でお仕置きです! 後でお仕置きです!」


 和真には、そんな言葉が聞こえてくる― いや、恐らく心の中で呪詛のように呟いているのだろう! 彼は背筋をゾクッとさせた。



 ※「和真、この後お仕置きされたの? 大丈夫?!」と心配な読者様へ


 和真は会が終わった瞬間に自室に逃げ込んだので、お仕置きから逃げることが出来たので、安心してください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る