53 さすらいは義妹との茶番の後で
<怪傑バシット>
それが和真のコスプレしていたキャラクターの名前で、昔テレビで放送されていたヒーローアニメの登場人物であった。
そのタイトルは【スキル上限が100の世界で、俺だけ全てのスキルが上限突破しているので、親友の仇を取るために戦っていたら、いつの間にか無双してしました】である。
その内容は、主人公のさすらいの冒険者<
早河剣は町で悪事を働く悪の組織と戦い、その組織の戦闘員と雇われている用心棒の達人と戦うことになる。
そして、用心棒は何らかのスキルが100で、自分が<世界で一番>であると自負しているが、早河は「だが、アンタのそのスキル…。世界じゃあ二番目だ」と言って挑発する。
そうなると用心棒は、「ならば世界一は誰だ!?」と問いただしてくるので、気障な舌打ちをした後に、深く被った帽子の鍔を押し上げると親指で自分を差す。
それに怒った用心棒は勝負を挑んできて、その自慢のスキル100の技を披露するが、早河は限界突破してスキルが100以上になっているために、それ以上の技を見せつけて勝負に勝利すると、負けた用心棒は早河の腕を認めて一旦退却する。
だが、その後組織が総出で報復に現れて、多くの場合は街の人などを人質にとり、早河を抵抗できないようにしてから痛めつける。
だが、早河は隙を付いて脱出すると、親友の開発したバシットスーツを着用して、<怪傑バシット>として現れ構成員を叩きのめすと用心棒と組織のボスとの決戦となる。
そして、用心棒とボスに勝利した早河は、ボスに「阿諏訪六郎を殺したのは貴様か!?」と問い詰めるが、各組織のボスは真犯人ではないために「違う、俺じゃない!」と答えるので、ボスにバシットアタックを喰らわせて気絶させ駆けつけた警察に逮捕させる。
というのが、主なストーリーである。
和真がこのアニメのファンになったのは、12歳くらいの頃だったと思う。当時、このアニメを見ていた和真はこのキャラになりたいと思った。
ハズレの【天啓(ギフト)】を与えられた自分と違って、優秀なスキルをいくつも所有して、その力を使って悪党を懲らしめる早河の姿に強い憧れを持ったのだ。
そして、遂にその憧れの早河に― ヒーローになれたのだ!
皆からはダサイと言われてしまったが……
(だが、それでも構わない! 憧れのヒーローになれて、俺は今最高に幸せな気分なのだから!)
和真がそう思いながら笑みを浮かべていると、真菜がテント内に慌てた感じで飛び込んできて、開口一番このような事を言ってくる。
「
「お願い? いいぞ。俺は今気分がいいからな! 内容次第では、協力するぞ」
憧れのヒーローになれて、気分が高揚している和真はそのように答えてしまう。
「
「5分ってオマエ…、それは無理だろう… 」
「大丈夫です!
「おい! それは遠回しに俺が早ろ― いやいや、早いって言ってんのか!? そんなことないから! 長いから!! たぶん……」
まあ、まだ経験が無いのでなんとも言えないが、男としてここはこう言っておくべきだと、本能が言っている。
和真は、年頃の真菜の前なのでセクハラにならないように、言葉を選んで言い返すがそれは無駄な配慮であった。
「
「…………」
義妹は、顔を赤くさせ自分の体を隠すように両腕で抱きかかえながら、上目遣いにそう告げてくる。その姿はとても艶めかしく見えるが、和真は興奮などしていなかった…………
むしろ引いていた…… だって中身は残念な義妹だもん。ヤンデレだもん。恥じらい無いもん。俺、恥じらいのある女の子が好きだもん。
和真は少し沈黙した後に、いつもとは違うこのような反応を見せる。
「バシットアタッーーーク!!!」
「はぅ!!?」
和真は少し高いテンションで、真菜の頭にチョップを食らわす。
いつもの彼なら、真菜とあと数ターンやり取りをした後にチョップなのだが、今の彼は先程まで正義のヒーローであったために、卑猥な言葉を平気で言ってくる義妹に戒めのためにチョップをしたのであった。
真菜にとっても、その3ターン目からの和真のチョップは想定外だったので、不意打ちを受けた彼女は、義兄に抗議を始める。
「ちょっと、
「おいこら、年頃の女の子が、そんな卑猥な言葉を連発するんじゃない!」
「はううっ!?」
またしても、義妹の頭にチョップが叩き込まれた。
まあ、和真の女性の下ネタ発言への感性が古いというか過剰なのは否めないが、嫁入り前の女子高校生である義妹の下ネタ発言を注意するのは義兄の務めなのだ! と本人は思っている。
だが義妹が、義兄の前でだけそういうことを言っているのも知っているので、彼はチョップを緩めに叩き込んではいた。
そのツッコミを受けた真菜は、「ぐぬぬ~」という擬音が聞こえてきそうな表情をしながら、頭を両手で抑えながら悶える。
「またチョップした… 2度もチョップしましたね!? 親にもチョップされたことないのに!!! もうやりませんから! 誰が二度と
義兄のツッコミに義妹は顔を真っ赤にして、頬を膨らませながらどこかで聞いたことがあるような反論をしてくる。
「うるせーよ! 「今のままだったらオマエは鈴虫だ。俺はそれだけの才能があれば、フィアを超えられる奴だと思っていたが、残念だよ」とでも返して欲しいのか?」
なので、義兄もどこかで聞いたことがあるような返しをする。
「何の話をしているんですか!? そもそも私は、勝利のご褒美で抱いてもらおうとしただけなのに、どうしてこんな扱いを受けなければならないんですか!?
真菜が、そう宣言したところでタイムアップとなり、テントの中にフィナが飛び込んできた。
因みにこの一連のやり取りは、僅か5分で行われていたのだが、体感時間は10分ほどあったため、二人はとても濃密な時間を過ごしたように錯覚してしまっていた。
内容は馬鹿なことだが……
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