52 コスプレイヤー(義兄)無双する
身に纏うコスプレ衣装の酷評を受けた和真は、内心ショックをうけていたが今はそんな事を気にしている場合ではないと気持ちを切り替えると、目の前にいる敵を殲滅する事に集中する。
そして、真菜の所属する最左翼部隊と連携しながら、次々にアグレッサーを屠り、左翼の戦況は次第に好転していく。
その様子を見ていたローリー達は、最左翼がアグレッサーを押し込んでいく様子を見て、作戦の成功に希望を見出し始めていた。
(よし! このまま最左翼部隊が対峙する最右翼を殲滅して、そのまま右の敵に攻撃を仕掛けていけば、挟撃する形になって有利になるはずだ)
ローリーは、作戦の成功の成否を担う最左翼部隊の活躍に期待して、その戦況を注視する事にした。
「うおおお! オドの大きな刀!!」
和真はオドの刀にありったけのオドを込めて、大きなオドの刀の刀身を巨大にすると、アグレッサーの大群の中に飛び込んだ。
ネーミングセンスは兎も角、オドの巨大な刀はアグレッサーの巨体を一刀の元に斬り裂き、一撃で絶命させていく。
そして、そのまま敵陣深くに突っ込みながら次々と薙ぎ払っていき、その様子はまさに一騎当千と呼ぶに相応しく、その姿はまるで台風の目のような存在となり、周りにいたアグレッサー達を次々と巻き添えにして、どんどん数を減らしていった。
その活躍を見て、討伐者達も感嘆の声を上げる。
「あのダサい格好したヤツ、一人でアグレッサーを倒しているぞ!」
「あれだけの数のアグレッサーを倒せるなんて、相当な実力の持ち主だぞ……。ダサいけど」
「それにしても、あのダサいコスチュームは何なんだ?」
「さぁ? 俺にもわからん。でも…… いいじゃないか、カッコよくなくても。俺は好きだぜ」
などとやや否よりの賛否両論の声が聞こえて来たので、和真は少し凹んでしまいそのために、このようにアグレッサーに八つ当たりしながら刀を振るう。
「くっそー! 頑張って作った自信作だったのにーー!! おのれアグレッサー、許さんぞーー! だから、俺はお前たちを駆逐する!! 世界のためでもない! 俺自身のために!!」
怒りにより更に勢いを増した和真は、そのまま勢いに乗ってアグレッサーの群れの中を駆け巡りながら、次々と敵を屠っていく。
「なんかアイツだけ、違うゲームしているみたいだな」
「もう、アイツだけでいいんじゃないかな?」
討伐者たちは戦いながら、その様子を眺めてそう呟く。
その頃、マナルーラー達の方も順調に敵の数を減らせており、和真の戦果も含めると既に半分以上の敵を葬っていた。
「よし、この調子なら勝てるぞ!!」
「いける!!」
「一気に攻め込むんだ!!」
最左翼は遂に対峙していた敵最右翼を殲滅させると、今度は右横にいるアグレッサーの群れに右側面から、和真を先頭に攻撃を仕掛けていく。
前方と側面から十字砲火を受けることになった左翼アグレッサーは、為す術もなく蹂躙されていく。
そして、そのまま左翼アグレッサーの群れは壊滅し、次は中央部隊に攻撃が仕掛けられる事になり、このように挟撃を繰り返し人間側は徐々にアグレッサーを追い詰めて行くことになった。
数に余裕が出てきた人間側は、余った部隊を歪から出てくるアグレッサーに充てる事が出来きたので、不意打ちを受けるという事態を回避する余裕もあった。
こうして、少しずつではあるがアグレッサーは追い詰められていき、ついに全てのアグレッサーを殲滅させる事に成功する。
「諸君、最後まで気を抜くなよ! これより、<次元の歪み>を消滅させる!」
ローリーの言葉で、皆は緊張を取り戻して警戒しながら<次元の歪み消失爆弾>設置を見守ることになった。
「タイマーセットの後に、順次<次元の歪み消失爆弾>を<次元の歪み>に放り込んでいけ!」
爆弾設置班の隊長の指示に従い、時限式になっている<次元の歪み>を消すための装置を起動させて、次々に投げ入れていく。
和真はその様子を少し離れたところで、腕を組んで見守っている。
謎のコスプレ― もとい謎のヒーローの事が気になっていた一同であったが、設置作業警護に集中しなければならないので、その件については後回しにして今は設置作業に集中することにしたのだ。
そして、ついに最後の一個を投げ入れるとタイマーが作動してカウントダウンが始まる。
「5…… 4…… 3……」
そして、カウントが0になった瞬間に<次元の歪み>内で大爆発が起こり、それと共に空間の歪みが収縮していきその光景を見た討伐者たちは、驚きの声を上げていた。
やがて、完全に歪が収縮して消滅するとそこには見慣れた世界が広がっていた。
「うおおおーーー! <次元の歪み>が消滅したぞーーー!!!」
すると、討伐者たちは自然と歓喜の声を上げたり、お互いを称え合うように肩を叩き合い抱き合ったりと喜びを分かち合っていた。
(そろそろキャンプに戻るか)
そんな様子を和真は遠目で見ていたのだが、彼は人々の意識が<次元の歪み消失の喜び>から、謎のヒーローである自分に移る前に姿を消すことにした。
彼がその場を去った事に誰も気が付かなかったようで、後で少し騒ぎになったが負傷者の治療や犠牲者の遺体の回収などやらねばならない事を優先させる。
「真菜ちゃん。私達もそろそろテントに戻りましょうか?」
フィナに話しかけられた真菜は、満面の作り笑顔でこう答えた。
「<ジートロス教会>の<特別顧問>であるフィナさんは、もう少しここに残るべきだと思いますよ? 只の訓練生である私は直ぐにテントに帰りますけどね!」
義妹のこの言葉の意味は、もちろんフィナがこの場に暫く留まって帰ってくる間に、義兄と”イロイロ”するということである。
真菜の言葉を聞いたフィナは、一瞬だけ顔をしかめたがすぐに表情を取り繕って、彼女に負けず劣らずの満面の作り笑顔でこう返事をする。
「真菜ちゃん。お気遣いありがとうね。でも、大丈夫よ。<特別顧問>なんて、ただのお飾りだから実務なんて殆どないの。だから、真菜ちゃんと一緒に帰っても問題ないのよ」
二人はお互いに笑顔で会話をしているが、それは表面上だけのもので実際には二人の間に火花が散っているように見えるほど、険悪な雰囲気だった。
こうして<次元の歪み消滅作戦>は、終わってみれば予想よりも犠牲者が少なく呆気無く、大成功と呼べるほどの成果を上げ終了する。
そして、この大成功は世界中に衝撃を与える事になる。
<マナルーラー>に匹敵若しくは越える強力な力を持つ、ダサいコスプレイヤーの存在と共に……
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