50 作戦前夜






 真菜は和真にだけ聞こえるように、右腕側から密着して話しかけてくる。


義兄にいさん、あのフィナさんという方は、空気も読まずにいつまでここにいるんでしょうか? それよりも今日はいい天気ですね? どこかにお出かけしませんか? とにかく二人きりになれる所にいきましょう」


「まあ、その前に離れなさい」

「嫌ですよ。このままでは私が負けてしまうではありませんか」


「何に負けるんだ?」

「もちろんフィナさんの嫌がらせです」


「まあ、彼女の言うことも一理あるからな~。現に重要な作戦を目の前にして、回りがピリピリしているのにその空気を読まずに、頭お花畑で密着してくるヤツがいるわけだしな」


 和真の言葉を聞いて真菜はムッとする。


義兄にいさん、そんなこと言うなんて酷いです……」


 俺の好みである黒髪ロングの美少女に、涙目の上目遣いで見つめられると、流石に罪の意識を感じてしまう。中身はヤンデレだが……


「わかったが、とりあえず一旦離れてくれ。でないと、その本人が後ろで怖い目で見ているから」


 和真が振り返るとそこには、先ほどまでの笑顔とは打って変わって、微笑を浮かべヤンデレ目で威嚇してくる金髪碧眼の少女がいた。


(怖っ! あんな怖い目、真菜以外にする娘がいたのか!?)


 心の中で叫ぶ和真であった。


「二人共、私はそういう事をしないようにとここで監視しているんですよ? 今すぐ離れてください」


 フィナは冷静な口調で淡々と言ってくるが、目が笑っていない。

 というか、ハイライトが消え瞳孔が開いたヤンデレ目だ。


義兄にいさん、怖い! あの人のあの目! すごく怖いです!」


「オマエが言うな! お義兄にいちゃんは、毎日のようにその怖い目で、自称<可愛い義妹いもうと>に睨まれているよ!?」


 和真は自分の事を棚に上げ、フィナのヤンデレ目に怯える真菜に対して、ツッコミを入れる。


「フィナさんの言う通り、とにかく一度離れなさい」


「はぁ? 義兄にいさん、何を言っているんですか? 義兄にいさんはあの女の言葉を優先させ、怯える可愛い義妹いもうとを引き離して見捨てるつもりですか? そんな事が許されると思っているんですか!?」


 和真がそう言い聞かせると、真菜はフィナに負けないヤンデレ目で睨みながら、このようなことを言ってきた。


「おい、<可愛い義妹いもうと>よ! 今すぐ鏡で自分を見てみろ! フィナさんと同じ怖い目をした女の子がそこに写っているから!!」


「今はそんな話をしていません!! 義兄にいさんの裏切り行為の話を… どんなお仕置きをするかという話をしているんです!!」


 フィナは和真の右腕を強く掴みながらまくしたてる。


「ちょっ!? 痛い! 掴む力が強い!」


義兄にいさんから、見捨てられた今の義妹いもうとの心は、もっと痛いんですよ!!?」


 ヤンデレ思考全開の義妹からの理不尽な逆ギレに、戸惑っていると義妹は更に密着してきてこう言い放つ。


「誰が何と言おうと義妹いもうとは、離れませんからね!」


 真菜は少し意地になっているようだ。


「おまえな……」


 和真が困惑していると背後にいたフィナが、和真の左側までスタスタと歩いてくるとその場に座り彼の左腕に密着する。


「えっ?」

「フィナさん!?


 突然の事に驚く義兄妹をよそに


「ふふん♪」


 勝ち誇ったような表情をする金髪碧眼の少女。

 和真が真菜を見ると、真菜はワナワナと震えていた。


「フィナさん、義兄にいさんから離れてください!」


 真菜は和真を挟んで、フィナに抗議すると続けて和真もこの行動の真意を尋ねる。


「真菜の言い分はさておいて、どうしてこのようなことを……?」


 和真の問にフィナは、腕にしがみついたまま答える。


「これは… その… そう! 目には目を歯には歯をイチャイチャにはイチャイチャをです!!」


「はあ……」


 和真は納得がいかなかったのか首を傾げる。


「それに悔しいじゃない…」


 そして、誰にも聞こえないようにぽつりと呟いた。

 すると今度は真菜が口を開く。


義兄にいさんにくっついて良いのは、義妹いもうとの私だけなんです!!」


 そう言って真菜も負けじと和真の腕に抱きつく。


「いや、オマエが離れたら、全て解決するんだよ!」

「うるさいですね!! 私は義兄にいさんにくっつきたいんです!!」


 二人は睨み合いながら口論を始める。


「だからって、この体勢は恥ずかしいだろ! あとフィナさん、そろそろ離れてくれないかな!?」


「真菜ちゃんが離れるまで、私も離れませんよ」


 2人は睨み合う。


(なんでこんなことになったんだろう? あと何日続くんだろう……)


 和真は頭を抱えたくなった。

 こうして、作戦が始まる3日後までこのようなやり取りをして、過ごす事になる。


「各国の兵力が揃ったので、これより次元の歪みまで行軍を開始する!」


 集まった大兵力は、野営地から次元の歪むに向かって行軍を開始して、3日掛けて歪の近くにある監視基地に到着すると野営地を建設することになった。


 そして、行軍の疲れを取るため、戦いは明日と決定さる。


 その夜、和真と真菜あとフィナのテント―


「真菜…。俺は明日の戦いここで待機していていいか?」

「えっ!?」


 突然の和真の提案に、当然真菜は驚きの声を上げる。

 しかし、フィナはその提案に賛成だったようで、うんうんとうなずいている。


「俺の実力では、足手まといになるだけだし、なにより死ぬ可能性が高い。だから、ここで待機していたい」


 もちろんこの理由はウソであり、その目的は例の計画<ヒーローの仮装をして、真菜への不当な功績をバシッと怪傑しよう!>を実行するためである。


 だが、真菜にはその事は伝えていないため、彼女は悲しげな顔で俯きながら返事をした。


「……はい、そうですね。その方がいいかも知れませんね…」


 真菜は本心では和真に側にいて欲しかったが、彼の言う通り義兄の実力では死ぬ確率が高いため、それだけは何としても避けたい義妹はその提案を受け入れるしかなかった。


「では、和真君には明日このテントで、私の大事な書類を警護する任務を与えたと、上層部には報告しておきましょう。そうすれば、誰も文句は言わないでしょう」


「ありがとうございます」


「では、早速報告に行ってきます。真菜ちゃんは私がいないからと言って、変なことをしないようにね」


「……」


 フィナの計らいに、和真がお礼を述べると彼女はウィンクして、その報告をするためにテントから出ていった。


 和真は真菜が彼女のいない内に、何か仕掛けてくると思ったが、フィナの心遣いへの感謝のつもりなのか、彼女の言いつけを守って何もしてこなかった。

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